セイクリッドソード・ヒストリア

楪 紬木

魔神編:Prologue

勇気の一歩が、再生する①

 この世界に、手放しの平和は有り得ない。「厄災」は降りかかるものだ。歴史の中で幾度となくソレは、生きとし生けるもの全てを蹂躙じゅうりんする。


 熱風が吹き荒れる火山に、ヒトの形をした蜃気楼しんきろう。それはヒトにしてはあまりに巨大な上、肌質が岩のよう。「厄災」だ。それが怒り狂ったように暴れ回った、その刹那――。周辺の大地がえぐれ、消し飛ぶと同時に大噴火だいふんか。近年活発になる火山活動のみなもとだ。


 広大な大海原に、誰も近寄らない海域が存在している。その中央、深い、深い、深海で。悠々ゆうゆうと泳ぐナニカ。リュウグウノツカイに近い姿だが、規模スケールが違い過ぎる。横が三百メートル、縦が三キロメートルに及ぶであろうその巨体。これも「厄災」だ。海面へ急上昇。そのまま空へ突き抜けていく。すると、あるじが不在になった海が荒れ狂う。これが、数百年前から高波が頻発する原因。


 そんなヒトの対処し得る範疇はんちゅう超越ちょうえつする、厄災。しかし、ヒトの身でありながら、それを止めるべくして立ち向かう者達がいた――!


 強風吹きすさぶにび色の荒野。


 其処そこに存在するはまごうことなき厄災。宙に浮かぶ「魔神」。対峙たいじするは、あろうことか二人の少年少女。


「さぁ、雌雄しゆうを決する時だ。魔神」 


 大胆不敵だいたんふてきにも相手をにらみつけて敵意を剝き出しにした黒髪の少年、ヴァン・ストーリア。黒装束をその身にまとい、全てを切りひらく白い聖剣をたずさえている。


「『羅針石らしんせき』で貴方の弱点はもう把握しているわ。覚悟しなさい」 


 少年ヴァンの隣に立つ少女、ディーネ・シャル・エインズスラー。ゆわえられた紺碧こんぺきの長髪を風にたなびかせて。端正たんせいな顔立ちには金色こんじきの瞳。騎士のような格好をした彼女は、決して諦めない強い意志を象徴した黒の聖剣を腰元に装着している。


「それは徒労とろうだったな。貴様等の敗北で物語の幕が閉じる」 


 二人の前に立ちはだかるのは、魔神ザーレジア。見た目は青年だが、その正体は一体――。乱れた白髪に不気味な深紅の双眸そうぼう。擦り切れた闇のころもを鍛え上げられた細身ほそみまとい、漆黒の翼を悠然ゆうぜんとはためかせている。

 

 『決着をつけようましょう』 


 二人の瞳が、蒼穹そうきゅうの如く輝きを放った。……聖剣を引き抜く。それを魔神に突きつけて宣戦布告。


「風の前の塵にしてくれる」 


 対して魔神は魔術を行使するために両のてのひらを突き出して構えた。周囲に紫電しでんほとばしる。


 二人の英雄と魔神。果たして勝利の女神はどちらに微笑むのか。


 これより語られるのは。聖剣で厄災を断ち切り、未来をつむぐ再生の英雄譚えいゆうたん——!

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