勇気の一歩が、再生する②
この世界では、生まれ落ちたその瞬間に自身の種族が決まる。
万物を砕く剛力から剣術までも
炎や氷など多様な属性がある固有魔法を唱えることにより、それを思いのままに
言霊と
鋭い爪と牙、そして五感が鋭く
長い歴史の中で、いくつかの大陸に五種族が文化を形成してきた。そのうちの一つ。大陸全体を国家としてまとめ上げ、人民の平和的共存を可能としているのは……。
中央都市エリテア。
主に人間族の技術を基礎にして発展してきたこの都市には、
都心、第一区域には。大理石を
そんな都市の中にある、トレムンド英雄養成高等学園。校門をくぐれば、芝生の校庭に体育館。実に広々とした敷地。一見普通の学校に見えるが……。
ここでは通常の学生の
学園の屋上。心地よい
「やりたいことが、見つからない」
彼は人間族。だが、学園での成績は平凡。試験の得点は中くらい、実技もいたって普通の評価だ。厳しい現実を知ってしまった彼はすっかりしおれて、いつしか夢を諦めていた。
「またそれ、うっざ。アンタまじで何しにここ来たわけ?」
そう言葉を吐き棄てたのは
彼女は学園で総合成績を二位でキープしている
「まぁそう言うなって。ここに来てその悩み抱えちまったやつは多いんだからよ」
彼の試験点数はヴァンにも劣っており自慢できたものではないが、自慢の引き締まった肉体を活かす実技の評価はシヲンに次ぐ三位。運動神経も抜群であり、運動部の
彼らは、
「はっ、雑魚の悩みね。到底理解できないわ。アタシは今年の祭典で絶対で一位とりますけど?」
リスのように口をもぐもぐさせながら言う、シヲン。
「お前なぁ……いつも言ってるけどよぉ、もう少し言葉を選べって」
「いいよドレッド、心の
「は? 今アンタなんて言った?」
今のヴァンの言葉は、
「俺の方が心が広い……これで伝わったか?」
火に油を注ぐようなヴァンの返答に対し。シヲンはカチン、と音がしたと錯覚するほど
「ええ、分かったわ。次の授業すっ飛ばして演習場に来なさい。
「口論してる時間ないだろって。ほら、何のために集まったんだよ。早くやるぞ」
そう言うとドレッドは、教室から持ってきた
「うげ、やりたくないわー。一人のレポート課題のが時間かかんないのよね」
ヴァンがドレッドの近くに体育座りをして、一言。
「そうか。じゃあシヲンはグループから抜けてもらうということでオッケーかな」
「今、はったおすわよアンタ。マジで」
この課題は自由な三人で組み教科書の中から題材を一つ決め、それを図書室から借りた本を用いたりして調べ、一つの結論を出して提出するものだ。
「『二人の英雄、その起源』についてか……。シヲンはどうしてこのテーマ選んだんだぁ? 俺にはさっぱりだぜ」
肩をすくめてみせたドレッド。
「あん? どうしてって、一番書きやすいからよ。ほら」
シヲンは上から降りてきて、鞄からドサッと床へ資料を取り出した。
「それ図書室のだろ? もっと大事に扱えよ、な。っていうかなんで――」
「この授業を受け始めてから目を付けてたのよ。場所くらい把握してすぐ借りれるわ」
「ま、まだ何も言ってねぇよ……」
ドレッドは質問するより来た解答に戸惑っている。
それを無視し、シヲンはネームペンを拾い上げて課題にとりかかったのだった。
「じゃあ、始めるわよー。絶対に百点とってやるんだから、足引っ張んないでよね。まず、とある土地に――」
……順調に課題を進めて、三十分後。
「あー、疲れた。シヲンはペースが早い。もう少し俺らに合わせてほしいよ」
「はーい、ヴァンのヘボポイントでたわね。そんなんだから置いていかれんのよ」
「ヘボっ、ポイントて」
「何笑ってんのよ」
「笑って悪いのかよ」
またしても一触即発の空気。ドレッドが割って入ろうとしたその時。キンコン、とチャイムが鳴る。五限目が始まる十分前の合図だ。
「あ、アタシもう行くから。じゃねー。あ、ヴァンはこの後、演習場ね」
シヲンは荷物をまとめて、そそくさと出て行った。
「どうやらマジらしいぜ。覚悟きめとけよ、ヴァン。……んじゃ、俺達も行くか」
「ああ」
ドレッドも退出……扉を閉めた。だが。ヴァンだけが、ふと立ち止まり。鉄柵の間、
「………………」
少し
「しょうがないな」
「どこへでも行きなよ」
蝶は弱りながらも、太陽へ向かってひらひらと飛んでいくのだった。
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