勇気の一歩が、再生する⑥
その後、魔神ザーレジアは都市エリテアの第一区域以外を壊滅させ、撤退。復興のために、次回の
英雄レイドの敗北は「失踪」として民衆に扱われるように情報が操作された。混乱を起こさないためだ。また、命を落とした者はいないが精神的な支配を受けた者などの消息は未だ不明である――。
数日後、ヴァンとマリの二人は再び第八区域に訪れた。今は折れた
「まぁー、いなかったね。一応ここに来てみたけど……」
「はい……」
二人は念のためレイドを探したが、どこにもおらず
そんな雰囲気を
「あー……まずは私の身の上話からだね。私は聖剣継承者九代目、レイド・スタークスの師匠として……本人から
「そうだったんですね!? す、凄い……!」
マリがふふんと得意げに腕を組んでいる。
「まぁ色々あったんだよー。昔はやんちゃしてたからねぇ」
「ええっ。全然そう見えないです」
「感情のままに魔法ぶっ
「いくらぐらいです?」
「んー、ほぼビル二つ分かなぁー」
「笑えない額!」
互いに微笑み合う、二人。表情が少しだけほぐれた所でマリは本題へと差し掛かった。
「あぁそうそう、レイド君からどのくらい目について話を聞いたかな?」
「えっと……」
ヴァンは顎に手をあてて、あの時のことを思い出す。そして、今は黒い左目を指差して。
「この青い目が代々受け継がれてきたものだっていうのと、それで魔石を見て厄災に関する記憶を読み取って厄災を止めること、ぐらいです」
それを聞いたマリが顔を手で
「うぅーん、説明不足だな、彼は……ってあの状況だから仕方ないかぁー」
やれやれ、とため息をついたマリだった。気を取り直して、ヴァンの方を向く。
「その目にはかなり長い歴史があるんだ」
「はい」
ヴァンは制服のポケットからボールペンとメモ帳を取り出した。が。
「ああいや、メモは大丈夫だよ」
「あっ、はい……」
少し落ち込んだヴァンがいそいそとポケットにペンとメモ帳をしまった。
「はは、別に嫌味で言ったわけじゃないよー。ほら、もう記録はあるから」
マリは
「そっか、なるほど!」
継承者ノ記録
・聖剣について
一、聖剣を所持すると一定時間、瞳を青へと変色させることができる。それに
二、聖剣は二振り、存在している。現在保有しているエスペランサと、名称不明の聖剣である。
三、トリモニオ霊峰にて
四、あらゆる厄災を断ち切り、未来を切り開くために聖剣は創られた。
ここより、厄災に関する事案を記述する……――。
と、何とも
「大体把握してくれたかな。『魔神』はね、厄災の一つ。聖剣が造られてからずっと取り扱ってきた事案でね。間違いなく最凶さ」
ヴァンが息を吞む。「今からそれに立ち向かうのか? 自分が?」といった
「しかもそれだけじゃない。継承者のみんなはこれまでに色んな厄災に立ち向かってきたんだよ」
羊皮紙の束をペラペラとめくるマリ。ヴァンが食い入るように見入った。
「あ! 歴史の授業とかで出てきたような話もありますね」
「うんうん。よく覚えているねぇー。でも教科書と報道ではかなりぼかしているから参考にはしないように」
……お互いに目を合わせ、
「あと、ヴァン君は継承者として十代目になります。私が補助するけど……これからの記録、頼んだよ」
「俺が、十代目……!」
その歴史の長さに、ヴァンは再び息を飲んだ。自分にのしかかった責任が、重圧が少し現実味を帯びたからだ。
「そうだよー。頑張ってねっ、と」
マリはワイシャツの袖をまくり、
「さて、大体のことは共有したね。その他の細かい事柄は追々伝えるから。行くよ」
つられてヴァンもゆっくりと腰を上げる。
「え? どこへですか?」
「学園の地下演習場。あそこは
マリは少し
「あの感じだと……レイド君が作った猶予は恐らく一年と少しだね」
そして、
「訓練です。腹くくってね。はっきり言って、かなり厳しいのが待ってるから」
「――っ、はい!」
その気迫に少し気後れしたヴァンだが、大きな声で返事をした。
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