勇気の一歩が、再生する⑦

「……ヴァン君、説明をお願いしてもいいかな?」 


 マリは天女てんにょ羽衣はごろものような戦闘衣ユニフォームを着て。にこやかながらも、どこか呆れたような顔を見え隠れさせる。


 トレムンド学園、地下演習場。若干の薄暗さを度外視どがいしすれば設備の質は最高級。


 その一例として、機械仕掛けの広大なフィールドは英雄選定大典カムラの多様な競技に応じた変形が可能だ。今は廃ビルのような建物を模している。


 その三階に生徒と教師一人。


「あの、無理矢理ついて来たというか……その……」 

「いや抜け駆けとか絶対許さないから! アタシだってもっと強くなりたいの! 英雄選定大典カムラは延期といっても、すぐ開催されるかもだし!」 


 シヲンはヴァンの頬をつつき、耳元で大声を出す。


「シヲンはもう十分強いじゃないか……それにもうじゃぁ……」 

「こんなんで満足しないっての。てか、じゃあどういう問題よ」 

「それには俺も同感だな。どうしてヴァンがこんな特別な授業を受けてるかは知らねぇが、俺達も混ぜてもらうぜ」 


 今回に関してはドレッドさえもシヲンに同調。非常に乗り気だ。


 なぜこんな事になったのか。少しだけ、時間をさかのぼることにしよう。


一時間前――。


『やばい、早く準備しないと怒られるかもな。急ごう』


 第一区域の地下施設に設備されているマンションの一室で。ヴァンは部屋の電源ブレーカーを落としたりして、準備を進めていく。


『あれと、これと……』 


 大きめのバッグに荷物を詰め始めた。どうやら長期間、訓練を行うらしい。着替えやタオルなどを次々とバッグにしまう。


 けっこうな重量になった時、教師マリの一言を思い出した。


『そういえば、友達とかにはこの事を話すなってマリ先生が言ってたっけ。気を付けないと――』 


 そう思った矢先。玄関の扉が勢いよく開かれて。


『おいヴァン! 大丈夫なのか!?』 

『アンタ、あの火災のど真ん中に突っ込んでったって聞いたわよ! 本ッ当に馬鹿じゃないの!?』 


 ドレッドとシヲンが部屋へとなだれ込んできた。どうやらカギを開けっ放しにしてしまっていたらしい。ヴァンは体を震わせてちぢこまってしまう。


『おわあっ! だ、大丈夫だから、一旦出てってくれないか!?』 


 しっしっ、と部屋を追い出そうとうながすヴァンだったが。


『……ん? 何よ、この荷物?』 

『ギクッ!』


 早速シヲンに勘づかれてしまった。さて、ヴァンの演技力の見せ所だ――。


『エ、ナンノコトカワカラナイヨー』 


 が、駄目。彼は正直者だった。そうして二人に問い詰められ、大体の事情を白状はくじょうしてしまう。


 そして現在――。


――くぅ、俺が嘘をつける人間であればこんな事には……。


 ヴァンは、一連の流れから自分の素直さを悔やんで拳を握りしめた。そしてわらにもすがる思いでマリに助けを求める。


 「な、なんとか言ってやってくださいよ、先生。俺の言葉じゃもう全然響かないです」

「うーん、そうだねぇ」 


 マリは人差し指を唇にあてて、しばしの思案しあんふける。


――ヴァン君、訓練の理由まではしゃべっていないようだね……確か二人はすっごく優秀だし、の事を考えると……。うん、決めた。


「まぁ、もういいよー。大丈夫。仕方ないから三人まとめて稽古つけてあげる!」 


 ヴァンにとって予想外の快諾かいだくだった。


「ええ!? 本気ですか!?」 

「やりぃ!」 

「あざす!」 


 三者三様さんしゃさんようの反応。二人がガッツポーズで喜び、もう一人ヴァンが驚きながら抗議の姿勢をとる。


「うん、本気だよ」 


 マリがヴァンに目配めくばせをした。


「……」 


 ヴァンはそれを確認し、まぁ先生の決断ならばとこれ以上口出しをしないことにしたのだった。


「さて、今日はとりあえずみんなの実力を測りたいと思っているよ。実戦形式さ」 

「あ、アタシこの前ヴァン君に勝ちました。なんでそこはすっ飛ばしてください」 

「……おい」 


 荷物の入りきらないリュックサックのように、思わず口が開いてしまったヴァン。小声だったため、誰にも聞こえなかったが。


「はいはい。そういうのは後で決めるからね。あと、この訓練にはも参加してもらうよ。さ、待たせてしまったね! おいで!」 


 教師マリが呼びかけると、石柱の陰から誰かが姿を現す――。


「あ、アンタは……!」 


 シヲンが、驚愕きょうがくの声を上げた。……彼女が成績、実技の評価でたらしめている存在が、そこにいたからだ。


「知ってるとは思うけれど、こないだベータ組に転校してきた三年のディーネ・シャル・エインズスラーちゃんよ!」 

「よろしくお願いします」 

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