勇気の一歩が、再生する⑧
左手を腹部に当て、右手を背面へ回しながら深々と礼をしていることから、育ちの良さがうかがえる。
シヲンがズカズカと地面を踏みしめて早歩き。ディーネの
「ここで会ったが百年目ね、転校生ちゃん。今日こそ白黒つけましょう」
「その呼び方、やめてくれるかしら? あと今までの試合は全部、私が勝ってるわよね。盤面は黒一色よ」
「きぃー! な・ま・い・き・なぁー!」
「シヲンちゃん、だめだよー」
飛びかかろうとしたシヲンを羽交い締めにしたマリ。手足をバタバタとさせる、
「………………」
「おい、ヴァン? どうしたんだよ」
と、ここでドレッドがヴァンの異変に気づいた。ヴァンが
「おいって!」
「ああ」
これでもかと肩をゆすっても反応が薄い。ヴァンは確かに普段も抜けている所はあるが、いつにも増して酷かった。
「……ハッ」
どうやらドレッドが何かに勘づいたようだ。ヴァンと、ひそひそ話を開始する。
「ヴァン、同じクラスだろ。なんか交流とかないのか?」
「……ない、けど」
「マジかよ。
「……ドレッド、なんの話してるんだ?」
違和感。ヴァンとドレッドの間で、認識の違いが生まれている。
「いやぁ。ディーネのこと、すげぇ
「っはぁ!? ち、違うから!」
確かに。客観的にその状況を見てドレッドがそう思うのは無理もなかった。それを自覚したヴァンは
「けど……」
「けど、なんだ?」
「俺の尊敬する人に似てる」
特別な感覚があるのは間違いなかった。かつて自分を救ってくれた青髪の女性。その姿と重ね合わせていたのだ。
「へぇー」
「なっ、なんだよそれ」
「いや、頑張れよってこと」
「絶対なんか勘違いしてるだろ!?」
ドレッドはこれでもかとニヤニヤしながらヴァンの
一方で、なんとかシヲンを
「さぁ、そろそろ始めちゃいましょうっ! 初戦は私とヴァン君!」
マリはヴァンを指さし、声高らかに対戦を宣言した。
「ええっ、いきなりですか!? というか先生もやるんです!?」
「もちろん! プロの戦い方をじっくりと見てもらうよっ!」
そしてマリはその場の全員に、これからの未来に賭けるようにして
「頑張ってね! 君たちには期待しているから!」
『はい!』
それぞれの思いを胸に。想像を絶する猛特訓の日々が、幕を開けた――!
◇◇◇
地下演習場に備え付けられた、簡易的な宿泊施設。閉鎖的な地下を忘れさせるように自然をイメージした内装は、一人が住むには十分に広い。学園の資金が
明かりを落とした暗い部屋で。一ヶ月、訓練を続けて身も心も
『そんな
シヲンからの、激しい
「自分が一番分かってるよ、そんなこと」
ヴァンは聖剣に宿った力である身体能力向上、予知、生物解析を開放して、演習に
『……』
ディーネとは
――言いたいことがあるなら言ってくれよ。怖いよ。
『まぁ、これから修行すればいくらでも強くなれるって! 頑張ろうぜ、ヴァン!』
ドレッドの言葉だ。前向きな感情であるならばそれを正直に受け止めただろう。しかし、今の
「ドレッドはああ言ってくれるけど……。一体いつ、結果が出るんだろう」
――あまりに遠い気がする。自分にとって超えるべき存在は魔神であり、レイドさんなんだ。でも実際はどんなに頑張っても、目の前の優秀なみんなにも勝てない。……自分にはもっと才能があるのかと思ってたけど、そんなことないのかな。
「もう、やめようかな。俺には荷が重すぎたんだろう」
しかし最後に、
『さぁ、もう一度立つんだ。……やめたいかい? ならそれでもいい。これは誰も責める事なんてできないさ。だが、忘れないでほしい。「後は頼んだよ」と、君は託されたんだ。命を賭した一人の人間にね』
「………………」
ヴァンは、寝返りをうって。
「……あと少しだけ休憩しよう。そしたら」
――そしたら。今度こそ、今度こそ頑張ろう。
胸に
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