勇気の一歩が、再生する④
玄関から出た後は都市の中央、第一区域へ誘導されることになっている。そう、こんな非常事態にも備えておいた人間族が技術力をいかんなく発揮し、議事堂の地下に街のような
マリが懸命に避難誘導を仕切っている。その他の教師陣は全員、周囲を警戒中。
「三年・アルファ
呼ばれたのは、シヲンが所属しているクラスだった。その集団が男女二列になって校門を出て、
学校から第一区域までの距離はさほど遠くない。災害であってもすぐに逃げられる上、この時代において物資が
そして、ヴァンのクラスが呼ばれる。
「三年・ベータ
ヴァンたちのクラスが校門を抜けようとした、その時。
『聞こえるかな、エリテアの市民諸君。
ヴァンの頭の中で、
「この声、は……?」
「な、なんか気分が悪い」
「うっ……何よ、これ」
同様の反応を示している。これを見たヴァンが、口元に手をそえて思案を巡らせた。
――俺だけじゃなかった! ……でも待てよ。これ、有り得ない……!
この
疑問点は二つ。範囲が広すぎること。魔導士族でない種族が心の声を聞けているということだ。
これらの疑問点から脳内に浮かび上がる可能性は――人智を超えたナニカが、今回の事件の
次の一言は、全世界にとって衝撃的な一言だった。
『今、最強の英雄レイド・スタークスが膝をついた。
それを聞いたその場の全員が、水を打ったようにして沈黙する。
「んなわけあるか! 証拠はどこにあるんだよ!」
だがその男子生徒の声を
『はっ。折角だ、映像を見せてやろうか? 見上げてみるといい』
その発言から数秒後。深紅に染まった空に
確かに赤髪の騎士が剣とともに膝を地面につき、呼吸を荒くしているではないか。白き装束は傷つき、血に染まっている。
「い、いやぁぁぁ!」
「マジだったのかよ……!?」
生徒たちの、
「っ、聞くな! 見るな! 『
しかし、無駄である。耳をふさいでも聞えてくる声に大半の人間がその魔法に精神を揺さぶられ――。……言葉を失い立ち尽くした。
『そこで、だ。もし降伏し、
魔神を名乗る者は一旦、声を落とし。そして。
『
声高らかに、宣言。
『我が目指す世界はただ一つ。法というまやかしに抑圧された今の世界を壊し、新しい世界を創ること。 これまで辛かったな、同志達よ。日常に溶け込んだ当たり前に従い続け、それでもなお
音声と
『……』
誰も、身動きがとれないでいる。……ここで、ベータ組に所属している眼鏡をかけたおとなしめの女子生徒が、
「……ずっと。わざと私に聞こえるようにして噂してたでしょ」
「え?」
彼女が話しかけたのは隣にいた同じベータ組、茶髪の女子生徒に対してだ。
「マジなんの事か分からな――」
「もう分かってんのよ! このクソ女! 『
問答無用。おとなしめの女子生徒が、魔導士族が行使できる炎魔法で同級生に攻撃を仕掛けた。
「伏せて!」
それを
「熱ッ――!」
いつものマリなら
「あ、あれ……身体が、勝手に……! 私は、私は悪くないい!」
「あっ――待って!」
マリの呼びかけも
ベータ組、そして次に避難を控えていたデルタ組が次々と
ヴァンはというと。
――なんなんだよ、一体! 意味が分からない! 魔神!? 魔物の
この世界は確かに魔物が存在する。もっとも都市や町、村にはめったに近づかない性格がほとんどだが。そのため今回のような
――……考えるんだ。俺は何の為に、ここまで来た? 何の為に強くなったんだ?
「自分にやれる事」があるはず。例え、力及ばずとも。そうして彼は一つの答えにたどり着いた。
「……!」
「やってみる価値は、ある……!」
ヴァンは右手で、左腕の傷跡を強く握りしめて。
「! おいヴァンどこ行くんだ、そっちはやべぇだろって! おい!」
唯一それに気づいた、友人であるドレッドが大声で引き留めようとするが。
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