第6話 動き出す

「この能力を得て、金が手に入ったら絶対に欲しいと思ってた物があるんだ」


金塊を無事換金できたジンとオニは、新しく用意したアジトで今後について話し合っていた。


「なんや?ベンツか?マクラーレンか?それともクルーザーでも欲しいんか?」


そう返すオニは、豪華な入物に盛られた大トロを、前足の爪をフォークのように使い1切れずつ器用に口に運んでいた。


「ちげーよ!高級車とか贅沢をしたくて金が欲しかったんじゃない!俺は自由になりたくて大金持ちを夢見てたんだ!」


「自由?」


「そう!人生の大半を金を稼ぐために費やしてる時点で不公平だろ。持ってるやつは生まれた時から人生100回遊んで暮らせるような金を与えられる。なのに貧乏人は1日8時間以上の仕事を40年以上強いられる。俺はそんな労働の牢獄から抜け出したかったんだ!」

勢いよく話すジン


「なるほど。金と時間の縛りからは自由になれたな。。ほんで、ほしい物ってなんや?」


「コレだ!!」

そういってジンはノートに描かれた1ページをオニに見せる。


「・・・・・・。

ジンがやろうとしてる事を考えれば必要やな。けど最低でも数千万は掛かるで」


「そうだろ!1億でも2億でもいいよ!オニの分も作っていいからな!最高の品質で頼むぞ!」


「頼むぞって、わいに発注させるんか?猫やぞ?」


「オニなら遠隔でどうとでもできるだろ?そのために最新のネット環境揃えたし」


「・・・」


金塊強盗の件でオニが精密機器を扱えると知ったジンは、オニならネット送金やメールのやり取り、もしかしたらハッキングも可能じゃないかと思い、相応のスペックを搭載した設備を購入していた。


「それじゃ俺はちょっと出かけてくるから!何かあったら連絡してくれ!」


「え、おい!」


オニが否定しないのYESと捕らえたジンは、そう残して出て行った。


















「コツコツコツコツ」


壮麗な宮殿の廊下を進む二人の男の姿

煌びやかなシャンデリアの光が、長大な廊下の壁に装飾された彫刻を照らし出し、その光は深い影をつくり出している。

壁には荘厳なタペストリーが飾られており、宗教的な象徴や神秘的な模様が描かれている。その重厚な布地は、静かに揺れていた。


中央を歩くのは漆黒のスーツを身に纏う男、肩まで流れる長髪が綺麗に整えられている。色白で、美しくも整ったその顔に見える深い紫色の瞳には、冷酷さと自信に満ちていた。彼の足元には高級感あふれる革靴が音を立て、その足音は宮殿の広い空間に微細なエコーを生んでいる。


隣を歩くもう一人の男は、眼差しには覇気がなくどこか空(くう)を見るように歩いていた。


宮殿の天井からは、広がる模様が織り成す神秘的な光景が目に映り、

その上には巨大神殿の屋根を支える梁が天に向かって伸びている。


廊下の終わりには、大きな扉がそびえ立っていた。

扉の彫刻には神聖な図像や聖典の一節が刻まれており、その奥には何が待っているのかを感じさせる。


「こちらでございます。イワン様」


どこか力のない声で、付き添いらしきの男が扉に手をかけゆっくりと開く。

長髪の男は無言で扉が開くのを待ち、怪しい笑みを浮かべ静かに入っていった。
















深夜の静寂が辺りを包む中、少女は自分の部屋で一人、絶望の中に座り込んでいた。

月明りでほのかに照らされた銀色で少し乱れた髪に、透き通るような白い肌の幼げな顔は涙に歪んでいた。

心の中に渦巻く悲しみと苦しみが、頭の中で巡り少女の心を蝕んでいた。


『ほら、そっち抑えろ』『キャハハ丸見えじゃーん』


『お願い・・・もうやめて・・』


『便器は黙ってろよ!』『親とか警察にチクっても無駄だかんな。こいつの親大臣だしw』



複数の男女が少女を取り囲み凌辱される記憶。



「もう、いや・・・」

少女は静かに震えながら呟き、机の引き出しから鋭いナイフを取り出した。


手が震え、涙が頬を伝う。


「これで、終われる…」


少女はナイフを手首にあてがい、深く息を吸った。

そして、力を込めて一気に切り裂いた。


鋭い痛みが走り、鮮やかな血が飛び散った。

彼女は苦しげに息を吐き、意識が遠のいていくのを感じた。


「お母さん、ごめん。。」

彼女は朦朧とした意識の中でそう思った。




しかし、次の瞬間、彼女の体に異変が起こる。


傷口のあたりから光の粒子が現れ、彼女の手首を覆い、みるみると傷口が塞がっていき出血も止まっていった。


「え、なに、、これ。。あの時の光?」

少女は戸惑いながら、七夕の夜に身投げしようとした崖で突然降ってきた光を思い出していた。



傷口が修復される様をみて、少女が感じたのは希望ではなく絶望だった。混乱し、逃げられない地獄を想像し少女は更に泣いた。


「どうなっちゃったのあたし、死ぬこともできないの?」


少女は泣いて泣いて泣き疲れて眠った。












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