第11話 中東紛争⑤
戦闘機が墜落するのを見届けていたカリムは、状況の整理が付かないまま、煙幕が晴れていくのをただただ見続けていた。
彼は耳を澄ませ、周囲の静けさに緊張感を感じる。敵の足音が近づいているのではないか、という恐れが胸にひしめく。しかし、突然、遠くから一筋の影が近づいてきた。その影が、やがて形を成すと、カリムは思わず息を呑んだ。
ジンだった。
ジンがゆっくりと近づくと、カリムは駆け寄りジンの肩を掴みながら安堵の声をかける
「無事だったか!良かったっ!ライラは?!あの子はどうだった!?」
急かすように話しかけるカリムは、ジンの無表情がどこかに冷たい影が潜んでるように感じられた。
「まさか…ライラに何かあったのか?」
心配そうに尋ねるカリム
「ライラは無事だ。今は手当てして寝かせてる」
「本当か!?今は何処に?」
「ここから遠く離れた場所だ。安全な所にいる。俺の友達が手当てしてるから大丈夫だ。」
ここから遠く離れた場所…一体何処に?どうやって?
カリムの中で色んな疑念が生まれたが、尋ねる事はしなかった。
突然と紛争地帯に現れた東洋人に異質さを感じていた。彼に特別な何かがあると。
そして彼が嘘をつく理由が無いとも思っていた。彼が敢えて詳しく話さないのは彼なりの理由があるのだと。
「…本当にライラは無事なんだな?!」
「ああ。大丈夫だ。怪我してるが命に別条はない。治ったら会わせるよ」
その言葉を聞いたカリムは少し安堵した。
「そうか…。本当に良かった。。。そういえば君の名前を聞いてなかったね」
「ジンだ」
「そうか、ライラを助けてくれてありがとうジン。」
感謝の意を伝えながら握手をするカリムは、ジンの手がまだ少し震えてる事を感じ取った。
「…さっき戦闘機が堕ちていくのを見たよ。ジン…まさか君がやったのかい?」
あり得ないとは思いながらも、カリムは尋ねずには居られなかった。それだけジンの気配が異質だと感じていたからだ。
少しの沈黙の後にジンが口を開く
「…ああ。俺がやった。。。だから暫くは大丈夫だ」
何とか笑顔で話そうとするジンの表情は、様々な感情が入り混じり上手く笑えなかった。
「君は、一体…」
そう思わず口にしたカリムの言葉に、ジンからの返答は無かった。
「この戦争は必ず俺が終わらせる。だからもう少し待っててくれ。」
そう言って離れていくジン
「そうだ。火が消えたらキャンプの中央を見てくれ。。。怪我をした人達の事を頼む。」
そう言い残し、ジンは静かにその場をあとする。
カリムはジンが戦闘機を堕とし、パイロットを殺したであろう事を察した。彼が苦悩の中、避難民の人達の為に動いてくれたのだと。。。
「ジン…!!ありがとう…!!本当にありがとう・・・っ!!」
カリムは離れていくジンの背中に精一杯の感謝を告げた。
ザー…ザー…
『お前…一体どこから…⁉︎』
ザザーッ…
『まさか…お前がやったのか…?!』
ザッザー…ザッ…
『助けてくれ・・・ッ・・・たのむ・・ッ!』
ザー…
『ッバン』『ドカンッッ…ツー、ツー
、ツー、』
「これがG-1の最後の通信音声です。」
パイロットの音声データが映し出され、複数のスタッフがその内容を精査していた。スクリーンには、パイロットの緊迫した声が響き渡る。
「一体何が起こったんだ」
どうやら組織の指揮官らしいその男の目は、まるで別の世界にいるかのように焦点が定まっていなかった。輝きを失い、深い陰影に包まれたその瞳は、かつての熱意を失ったかのように見えたが、その奥には狂信的な確信が宿っている。何かに取り憑かれたかのような、冷たくて無機質な視線は、他者とのつながりを完全に断っているようだった。
「G-1からは、2度、煙幕の妨害を受けたとの報告があります!その後に、『パラシュート』という音声が残っており、何者かによって妨害、破壊されたのは間違いないかと思われます」
そう話すオペレーターは、焦りが見え、目の前の男に酷く恐怖しているように見えた。
「パラシュート…??何処の国がやったのか特定できるか?」
指揮官が厳しい表情で尋ねる。
「申し訳ありません。敵機は一切確認できず撃墜後のレーダーにも何も反応ありませんでした。」
ギリッ…と歯軋りしながら怒気を込めて指揮官が言い放つ
「何のためのオペレーターだ!!?」
その声に身がすくむオペレーター
「ッ申し訳ありません!すぐに解析を続けますっ!!」
オペレーターの返答を聞いた指揮官は、正体の見えぬ敵の存在に苛立ちを隠せずに居た。。
夕闇が静かにキャンプを包み込む中、太陽が地平線の向こうに姿を消し、空は深い紺色に染まっていった。最初は明るいオレンジ色が残るが、次第にその色合いは薄れていく。
暗闇が広がっていく中でキャンプは静まりかえり爆撃の傷跡がまだ生々しく残る。未だ負傷者たちは痛みにうめき声を上げるなか、カリムは、ジンの言葉を思い出しながら、ゆっくりとキャンプの中央へ向かって歩いていった。
すると、彼の目に飛び込んできたのは、まるで奇跡のような光景だった。
キャンプの中央に、大量の物資が集められていたのだ。
段ボール箱や医療キット、食料、毛布、そして水の入った容器が整然と並べられている。
「これは…!?」
カリムは驚きと戸惑いを隠せず、周囲を見渡した。人々も次々と集まり、その光景に目を奪われている。
カリムは、ジンが言った言葉を思い出し、彼が本当にキャンプのために何かをしてくれたのだと確信した。
ここにいる人々がこの物資をどれだけ必要としているか、そしてそれがどれほどの希望になるかを思うと、胸が熱くなった。
「みんな、急いで医療品を配るんだ!ケガしてる人達に早くっ・・・まだ生きられるぞっ!!」
カリムは喜び、涙を浮かべながら声を張り上げた。
物資を受け取るために人々が動き出す。
「この薬があれば、あの子がまだ助かるかも知らないッッ!」「水だ!キレイな水を早くっ!!」「俺が包帯を持っていく!負傷者を集めろ!」
一斉に動き始める人々。
カリムもその一員として動き出した。彼の心には、希望が灯り始めていた。ジンが自分たちのために何かをしてくれたという事実が、彼の戦う意志を新たにしていた。
この瞬間、カリムは自分たちの運命が変わることを確信した。
『この戦争は必ず俺が終わらせる。だからもう少し待っててくれ。』
ジンの言葉を思い出すカリム。
彼の存在がどれだけ重要であるかを再認識した。
物資を運び終えたジンは、資材倉庫からアジトへ戻ろうとしていた。しかし、彼の脳裏には、命乞いしたパイロットの最後の恐怖にひきつった表情が焼き付いていた。そして、もがれた腕に光る指輪が目に浮かぶ。
後悔はない。だが、自分がやったことが本当に正しかったのかという罪悪感と背徳感に苛まれ、激しい葛藤が心を襲っていた。
「クソ…ッ」
ボソッと呟いたジンは腰掛けていた椅子から立ち上がりアジトに戻る為、転移を始める。
アジトには、丁寧に手当てされて横になってるライラと相変わらず熱心にモニターを見つめるオニが居た。
「ジンっ!?無事やったかー!!無線が途絶えたから心配したでー!」
ジンに気づいたオニがすぐに駆け寄る。
「ライラの容体は?」
「心配せんでええ。落ち着いて今は寝てるだけや。もーすぐ目覚ますやろ」
「そうか・・・」
ライラの無事を確認したジンはそう言ってソファーに腰掛け、天を向き右腕をおでこにのせるように光を隠す。
その姿を見たオニはジンに尋ねる
「パイロット…殺したんか…」
「・・・」
何も答えないジンを見てオニが察し、黙り込み、静寂がその場を包む。。
「・・・戦争を終わらせたい・・・。どうすればいい?」
静寂を切り裂くように放たれたその言葉はジンの苦悩が現れていた。
ジンは分かっていた。末端の兵士を幾ら殺しても戦争が終わらない事を。それでも殺さずにはいられなかった自分の激しい怒りを。
「戦争は複雑や。色んな人間の思惑が絡み合ってる。宗教、利権、土地、薬物、自尊心、優生思想、恐怖心。色んなモノが絡み合ってて一つ外しても次々と出てくる。
例え、紛争国家の大統領を殺しても戦争は終わらんかも知れんな」
「止めようが無いって言いたいのか?」
「そうじゃない。時間が掛かるから焦るなという事や。焦ってお前が死んだら元も子もないやろ。」
オニの言葉にジンは返答できず、黙り込んでいた。
「それよりも今は、ワイらの心配した方がええかもな…。ジン、コレを見てみー」
そういってモニターの画面に映し出されたのは、政府からの緊急発表であった。
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画面に政府のロゴが映し出され、重々しい音楽が流れる。スーツを着た穏やかな表情の司会者が画面に現れる。
司会者が落ち着いた口調で話す
「国民の皆様、日々の生活にご協力いただき誠にありがとうございます。本日は、先日7月7日に観測された特異な光に関するお知らせをさせていただきます。」
【映像が夜空に流れる光の映像に切り替わる。】
「7月7日の夜、上空で確認された一筋の光――多くの方が不思議に感じたかと思いますが、現在、我が国の専門機関によりその詳細な調査が進められております。この現象に伴い、わが国では健康観察や追加の支援が必要となる方がいる可能性があると報告を受けています。」
【画面が調査機関のイメージ映像に切り替わり、白衣を着た研究者たちが真剣な表情でデータを見つめている。】
「そこで、もしこの光の後に健康面で気になる変化を感じられた方は、すみやかに最寄りの医療機関または、政府の指定窓口にご連絡ください。調査の一環として、ご協力いただいた方には追加の支援が提供されます。」
【画面が淡々としたリストに切り替わり、窓口や連絡先の情報が表示される。】
「なお、この件は国民の皆様の安心と安全を守るための取り組みです。調査は速やかに、そして安全に進めておりますので、特にご心配の必要はありません。しかし、万が一、異常を感じた方は遠慮なくご相談ください。政府は、皆様の健康を最優先とし、適切な対応をいたします。」
【映像が穏やかな街並みに変わり、静かなBGMが流れる。】
「この度のお願いは、国民の皆様と共に我が国の安定を保つための大切な取り組みです。国民一人ひとりの安全を守るため、どうかご協力をお願い申し上げます。」
【画面に政府のロゴが再度映し出され、放送が終了する。】
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「これは、政府が能力者を集めようとしているのか?」
「ああ!怪力のおっさんも数日前から更新が途絶えとる。思ったよりも動きが早いぞ」
「おっさんはもう捕まったってのか?」
「そう見て間違いないやろな」
オニの言葉に少し困惑するジン
「捕まったらどーなると思う?」
「さぁな。まぁ保護された能力者をどうするか何て限られてる。利用するか、実験するか、処分するか、何にせよロクな事にはならんやろな。」
自ら追われる立場になったと実感したジンは、オニの言葉を聞いて吹っ切れていた。
「そうか。。」
妙に納得したようなジンを見て、オニは様子を伺い声をかける
「ジン…?」
少しの沈黙の後にジンが答える
「能力者を保護してる施設を割り出してくれ」
ジンはオニにそう呟いた。
転移能力で現代を無双してたら史上最悪のテロリスト認定されました @-kt28-
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