第3話  魔王の目覚め

自分の能力に気付いたジンは、その使い方、制約、リスクについて調べていた。


まずは近距離の転移、転移にかかる時間、4階から屋上まで、屋上から一階までの上下方向の転移、空中での転移。空中での転移は転移先で落下死する可能性があるため、必須研修項目だった。また、連続で転移しても身体的異常は感じられなかった。



そしてここからが本番である。



超長距離転移と、行ったことの無い場所への転移だ。


今まで転移した場所は、どれも俺の馴染み深い場所ばかり、ハッキリと場所のイメージが出来た。


今度はエジプトに飛ぶつもりだ。



ピラミッドのクフ王の墓のてっぺんに飛んでやる!イメージし易いし、夜なら流石に誰にも見られないだろう。

そんな事を考えていた。


とりあえず、ピラミッドの写真を見てみる。そこに飛ぶように集中してイメージし念じる。


何も起こらない。


知らない場所に飛ぶのは無理なのだろうか。


「位置情報をちゃんと把握せなアカンのちゃうか?」

様子を見てたオニがアドバイスする。


今度はクフ王の墓の正確な位置を調べてみる。

衛星画像を使い、距離と場所を把握して少しずつアップし場所を特定していく。


イメージしてみる。

さっき見た衛星画像を拡大するように、ピラミッドの正確な場所と自分が飛んだ際に転移する位置を。

そして念じる。飛べ。飛べ!



すると、光の粒子がジンの体を包み始める。


「おっ、行けそうやな!」


オニの言葉をあとに、ジンの体は粒子とともに消えていった。




ジンはクフ王のピラミッドに転移した。転移した先は、頂上から1mほど高い空中。

ジンはバランスを崩しながらも何とか着地する。


体制を整えて、頂上に足をかけ、ひと呼吸おき、両手広げてガッツポーズし、大きな声を上げた。


「よっしゃああっあぁあ!!」


ジンは歓喜に満ち溢れていた。 



この転移の成功は、ジンの野望を叶えるのに必要だったからだ。


夜のピラミッドの頂上でジンは思いにふけていた。






ジンには2つ野望があった。

2つとも、ありふれた野望である。


一つは、超大金持ちになりたい夢。


もう一つは、世界平和である。


超大金持ちには、この転移能力さえあればどうにでもなる。

問題は世界平和だ。


科学に満ちた現代で、食料やエネルギーが充実してもなお、未だに世界各地で飢餓、紛争や戦争が起こっている。SNSで流れてくる戦争の被害者達、女や子供を含めて無抵抗の民間人を平気で空爆するような世界情勢に対し、このような理不尽が平気で起こってる状況に強烈に嫌悪していた。

しかし、人1人の力では、どうにもならない現実に、ジンは日頃から虚無感を感じていた。


ジンは賢いオニにも尋ねていた。どうして戦争が無くならないのかと。


オニは答える

「それは、戦争を作ってる連中がおるからや。兵器を売ってる奴、開発してる奴、それに投資して金儲けしようとしてる奴。誰かが貧しくあり続ける事で、その人の成果を搾取してる連中がおる」


「そんなのおかしいじゃねーか!」


「でも、それが現実や」


説き伏せるように話すオニの言葉に、ジンは黙り込んだ。


しばらくすると、何か閃いたかのように、目をギラつかせながら、こう呟く。


「だったら、その戦争を作ってる連中を全員ぶっ殺せば良いんじゃねーか」







「何だってできる!」

夜のピラミッドの頂上で自分の能力の汎用性に気付いたジンは、真の自由を手に入れたような全能感を感じていた。



『この能力さえあれば、気に入らない連中を全員ぶっ殺せる』



後に、史上最悪のテロリストとして世界を揺るがす、魔王が生まれた瞬間である。





家に戻ったジンは、これからの計画をオニと話し合っていた。


「何するしても、まずはカネだろ!」


「そりゃそうや。このボロアパートともおさらばやな。ほんで、盗むんか?」


「そう!ただし、盗むのは紙幣じゃない。金塊だ」


「金塊?」


ジンはSNSで保存してた動画をオニに見せる。


そこには、巨大な地下室と思われる所に棚いっぱいの金の延べ棒が並んでる映像だった。


「ヨーロッパのある王国の王宮の地下に、山のような金塊が公にされずに隠されてるらしい。でもその国に金鉱山なんて一つも無いんだぜ!」


「つまり、他の国から搾取してきたって事か、アフリカの植民地支配の噂されてる所やな」


「やっぱりそうだよな!こいつらは弱者を洗脳し、支配し、利益を貪り、人の尊厳を奪ってきたクソどもだ」


「金庫の位置情報なんか分からんやろ」


「王宮の地下にあると分かってるなら、やりようはある」


ジンは行ったことのない場所でも扉の向こう側程度になら、イメージせずとも転移することができる。つまり、王宮内に入りさえすれば、どの扉でも自由に行き来できるのだ。



「義賊にでもなるつもりかいな」


「そうじゃない、気分の問題だ」



ジンは持たざるモノだった。

日雇いのアルバイトで、ボロアパートに住み、煙と賭博に依存してる典型的な搾取される側だった。

自分でもそれには気付いていた。

けれど、自分よりもっと悲惨に搾取されてる世界を知っている。

僅かな砂金を集めるために、小さな体で毎日鉱山に潜る少年達が居る。

家族の為に水を汲みにいった少女がドローンで爆撃されてる紛争地帯もある。

何もできない自分を言い訳にして直視するのを避けてきた現実。

持ってる者達との不平等さを感じていた。


「先ずは生まれ持った不平等の象徴、王族から頂く」


ジンとオニの王室金塊強奪作戦の始まりである。

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