第8話 中東紛争②

キャンプはすでにパニックに陥っていた。叫び声が響き、あらゆる方向に逃げ惑う人々がジンの視界を埋め尽くす。泣き叫ぶ子供、無力な老人、混乱する母親たち。砂煙が舞い、視界がぼやける中、彼の思考もまた、ぐちゃぐちゃに乱れていた。


ジンはカリムの腕を掴み問いかける

「どうしてここに爆撃機が来るんだよ!!避難民キャンプだろ!誰も武装なんてしてない!!」

ジンは突然の状況に混乱していた。ここは戦場から離れた安全な避難場所のはずだった。戦う理由も、攻撃する価値もない場所に、なぜ…?


カリムはジンの両腕を掴み返し焦燥のなか鬼気迫るように話す。

「彼らの目的は、我々の人種を根絶やしにする事だ!!一月ほど前に北にあったキャンプ地は全て焼かれた!!ここも全て焼かれるっ!」


はっ・・・?


人種の根絶やし・・・?


ふざけろよ・・・。

そんな事が許される訳ないだろ。。。



心の中でジンは湧き上がる嫌悪と怒りの感情を抑えていた


「あんたはどうするんだ!」


「私は急いで子供達を避難させる!」


子供達・・・

「ライラが危ない!助けに行かないと!」

慌てて飛び出そうとするジン。


近づいてくる戦闘機の音は、重くその音は大きくなり、まるで大地全体がその振動に共鳴しているかのようだった。


「まて!キャンプ中央はもう危ない!君まで巻き込まれるぞ!」


その時!





「ッドォオン!!!」




空気がひび割れたような爆発音がキャンプ全体を包み込んだ。遠くで起きた爆発が、瞬く間に地面に衝撃を伝え、キャンプの中央を揺さぶった。砂と瓦礫が爆風とともに舞い上がり、「バリバリッ」とテントが引き裂かれ、仮設の小屋が崩れ落ちる。耳をつんざく破裂音の連続に、ジンは思わず頭を屈め耳を塞ぐ。




衝撃が通り過ぎ、顔を上げたジンは、黒煙と悲鳴が立ち上るキャンプ地を見て事態の深刻さが一気に押し寄せてきた。


「マジで、、やりやがった・・・ッ!」



「まてッ!まだ爆撃は終わってない!旋回してくるぞっ!」

カリムはジンを止めようとするが、ジンは既に走り出していた。


ジンは必死に配給所へと向かって走り出したが、その道のりはまるで悪夢の中を彷徨うようだった。

視界に入るのは、瓦礫の下に埋もれたテント、引き裂かれた布と鉄の残骸、そして何より、痛みにあえぐ人々の姿だった。


「助けて!お願い、助けて!」と叫ぶ若い母親の声が耳を刺す。彼女の傍らには、目を真っ赤に腫らした小さな子供がうずくまり、恐怖に震えている姿。

四肢が一部もがれた子供を泣きながら抱き抱え走りぬけてく男性。

爆撃の衝撃で破片が刺さり、その場で血を流して倒れてる人々。

ジンはその光景を見て、心が締め付けられる思いだったが、頭の中にはライラのことが渦巻いていた。


荒廃の中を駆け抜けながら、必死にライラを探す。煙が視界を奪っていく中、彼の焦りはピークに達していた。


「ライラ…どこだ…!」


ふと、瓦礫の隙間にかすかな光が見える。その先に、倒れかけた建物の影にライラの姿があった。

「ライラっ!」

ジンはすぐに駆け寄る。


ライラの体は傷だらけで、意識は失ってるようだが、呼吸はしっかりしていて、命に別条はないように感じられた。



だが、ライラの傷ついた姿を見たジンは抑え込んでいた怒りの感情がフツフツと湧き上がる。


腹の中でドス黒い何かが渦巻いてるような。


そしてその怒りはこの惨状を招いた存在に向かっていく。。。




「あの戦闘機、、絶対ゆるさねーっ!!叩き落としてやるッッ!!」

ギリギリを歯を食いしばるジンの表情は怒りと憎悪に包まれていた。




ジンの頭は、戦闘機を落とす事にシフトしていた。

(どうやって戦闘機を落とす。

転移して爆弾ぶつけるか?当たらねーだろうな。不用意に近づいて、もし少しでも体が機体に接触すれば衝撃波でバラバラになる。。

ましてや高速飛行中の機体の中に転移するのは無理だ。。。)


いくら転移能力を持ってても生身の人間が戦闘機を落とすのは困難であった。



「コホっコホ」

ライラの弱々しい咳が聞こえる。意識を取り戻したのだろうか。


「ライラっ。。大丈夫か?。。」

先ほどまでの鬼の形相とうってかわり、暖かく優しくライラに声をかける


「お兄ちゃん・・・?コホっ。助けに来て、くれたの?」

少女の傷ついた体に弱々しい声。

その姿を見たジンの目には涙が浮かんでるように見えた。


「ああ・・!『もう大丈夫だ』」



もう大丈夫。。。最初に会った時には言わなかったセリフ。言えなかったセリフ。

あの時とは違う。ジンの、ライラを必ず助けるという決意の表れであった。


「あ、りがと。。。」

そう言って少女は、また気を失うように目を閉じた。


「まずはライラを安全な所に!手当しないと!」


カリムのところに連れて行くか?と一瞬よぎったジンだが、カリムの所が安全な保証もない上、手当出来る環境が整ってるとも思えない。



「アジトに連れて行こう。あそこなら絶対に安全だ。オニも居る」

そう決めたジン。両手でライラの体を手繰り寄せ優しく抱き抱える。

人を連れて転移するのは初めてだった。けど不思議とジンには緊張も不安もなかった。


周囲の混乱が止まない中、ライラを抱き抱え、ゆっくりと目を閉じるジン。

そして光が広がり、2人を包み込んでいく。。








アジトから光が現れ、ジンの姿が現れ始める。オニはアジトのパソコンの画面を何やら熱心に見ていた。

光に気づいたオニはジンの姿が見えるとすぐに、「おかえり〜!どこ行ってたんやー!」と声をかけるが、ジンの抱える傷だらけの少女を見て驚く。


「え、どないしたんやその子?」


「中東の紛争地帯に行ってた。この子は避難キャンプにいる孤児だ。今、キャンプが戦闘機の爆撃を受けてる」

淡々と状況を話すジンと、状況を理解しようとするオニにジンは続ける


「爆撃は終わってない。放っておけば、キャンプが全て焼かれる。中にいる人も全部。。。俺は戦闘機を叩き落とす。

オニはこの子の手当をしてくれ」


「戦闘機を落とすやと?無茶や!!いくら転移能力持ってても前準備なしじゃ危険すぎる!!」



「難しい事は分かってるっ!

でもっ・・・アレを止めなきゃもっと殺される。もっと死ぬ・・・ッ!見殺しには出来ない・・・。

今、アレを止められるとしたら俺しか居ないんだ!!」


爆撃を受けた人達の悲惨な現状、そして傷だらけのライラを見て、悔しい気持ちと怒りの感情で涙を堪え歯を食いしばりながら話すジンを見てオニはジン決意の固さを感じた。




「・・・分かった。どうしてもやるって言うなら今できる作戦が一つだけある」

オニの言葉に希望を感じたジン。食い入るようにオニの言葉に耳を傾ける。


「但し、この作戦は戦闘機のパイロット次第、成功するかどうかは運や!それでもやるか?」


オニはジンの返答を分かっている。聞くまでも無かったのを分かっていた。


「ああ!」

そう答えるジンの表情は、既に標的を捉えるような鋭い目つきだった。

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