第9話 中東紛争③

エンジンの轟音が耳をつんざく中、戦闘機のパイロットは操縦を握りしめていた。視界の先には、地上の混乱が広がっている。爆撃の任務を完遂するため、彼は今一度、指令を確認し、冷静さを保とうとしていたが、焦燥感が彼の心を侵食していた。


「こちらG-1。第一目標はクリア。第二目標に移行する」


『了解』


戦闘機の無線のやりとりが聞こえる。次の目標に向かうため戦闘機は反転し再度キャンプを狙っていた。


「ったく、それにしても胸糞悪い作戦だぜ」


『ぼやくな、回線は繋がってるぞ。処分されたいのか』


「へいへい、分かってるよ。命令には従うさ。。」

無線から聞こえるやりとりは、今回の作戦が異質であり、作戦を実行する兵士の士気も低い事が伺えた。







最初の爆撃を避けられた多くの避難民やカリムと子供達は、未だキャンプから少しでも離れようと走っていた。

カリムは時折、空を見上げて、旋回してくる戦闘機の様子を戦々恐々と見ていた。


「ライラ。。それにあの青年。無事でいてくれっ」

カリムはライラを助けられず逃げている自分を責めていた。彼は、悲惨な惨状を多く見てきた。その為ライラを見捨ててでも、その場にいる子供達を逃す事を優先した。

彼にとっても苦渋の決断であったろう。その行動を誰が責める事ができようか。

それでもカリムは自分の無力さを感じながら走った。








「こちらG-1、第二目標に接近。」

視界に標的を捉えたパイロット。無線で合図を送り、投下準備を行っている。


『了解、作戦空域に障害なし、カウントを開始せよ』



「了解、照準設定クリア。MMAB投下、カウントダウン開始。。。8、7、6、ッッ⁉︎」


その時、戦闘機から前方に広がる視界の先に、薄い煙が立ち昇るのが見えた。

ジンが空中で煙幕を張ったのだ。


「なっ!煙幕…!?」


瞬間、パイロットの全身が強ばり、心臓が一気に跳ね上がる。何かが確実におかしい。視界の端がすでに灰色の煙で覆われ始め、彼の思考は一瞬、パニックに陥る。訓練では想定されていないシナリオだった。


「こちらG-1、目標上空に煙幕が発生!…回避する!」


彼は慌てて操縦桿を引き上げる。機体が急上昇するが、その瞬間、重力が彼の体にのしかかり、息が詰まりそうになる。Gフォースが体を押しつぶすように襲いかかり、彼の視界は狭まり、額から汗が噴き出す。エンジンの轟音が高まり、振動が体全体に伝わる。戦闘機は急速に高度を上げ、煙幕の上空へと抜け出していく。


機体のフレームがわずかにきしむ音が耳に届く。操縦桿を握る手が汗で滑りそうになりながらも、彼は力を込めて操縦を続けた。レーダーの画面にちらつく微弱な乱れが、彼の緊張をさらに煽った。


「抜けたっ!」


青空が広がる瞬間、彼は胸に溜まっていた息を一気に吐き出した。だが、心の奥底では、煙幕がただの陽動であることを直感的に感じ取っていた。次の攻撃が迫っている――そんな思いが脳裏をかすめる。


「こちらG-1、煙幕の妨害を受けたぞ!どうなってるんだっ!」

機内でパイロットが無線で怒鳴り付ける。胸の鼓動は未だ激しく、緊張感が彼を支配している。

『こちらベース、敵影の姿は確認できない。』


「そんなバカなっ!」



『繰り返す。敵影は無し。地上からの妨害と思われるが、戦力はほぼ無いと思われる。作戦を続行せよ』


「くそったれっ…。了解。」


パイロットは再び機体を反転させ、もう一度照準を合わせる準備を始めた。しかし頭の片隅には、再び訪れるかもしれない煙幕とその背後に潜む脅威への恐怖が張り付いていた。









煙幕を抜けた上空の更に上空に転移したジンは戦闘機の回避行動、進行距離、動きの全てを目で捉えていた。

「よしっ!避けたぞ!」








〜5分前、アジト内〜


「まずは戦闘機が爆弾を投下するポイントを狙って、コレを使え!」

オニから差し出されたのは、手投げ用の煙幕弾だった。


「コレは、、煙幕か、、?こんなもんで戦闘機は落とせないぞ」


「煙幕の目的は落とす事じゃ無い、あくまでパイロットの動きを制限、撹乱するためや。

それに煙幕を舐めたらあかんで。急に目の前に煙幕が現れたらパイロットは高い確率で回避してくる。

まぁただの煙幕やから機体性能を信じてそのまま突っ込んできたら終わりやけどな」


「避けられた後はどうするんだ」


「相手が異常を感じてそのまま逃げてくれたらええけど、また狙ってくるんやったら・・・」












〜キャンプ地上空〜


「最初の賭けは上手くいったな。。このままッ逃げてくれたら、ええけど、なッ」

ライラの手当てをしながら通話するオニは、時折包帯を縛る時に入る力が言葉に混じっている様子だ。

だが、無線から聞こえるオニの言葉とは裏腹にジンの心は強烈な敵意が渦巻いていた


(…逃げようとしても、、逃すわけねーだろッッ…!絶対に叩き落とす)


「次の準備をする」

感情を抑え冷静に端的に言葉を発したジンは標的の飛行方向を捉えたまま、光の中へと消えていった。






戦闘機は再度大きく旋回し、爆撃のタイミングを計っていた。

上空を覆っていた煙幕は風に流されていき、荒廃したキャンプ地がまた上空から露わになる。


「こちらG-1、目標地点に再度接近。本当に敵は居ないのか!?」

地上の目標が再び視界に広がるなか、パイロットは冷静さを保とうとしていたが、内心の焦りが募る。


『こちらベース、周囲に敵影は無し。作戦を続行せよ。』


パイロットは一抹の不安を拭いきれないまま、投下の為に再度機体を降下させていく。


「…了解、MMAB投下、カウントダウン開始…13、12、11、10」

目標ポイントに近づくに連れてパイロットの緊張が高まっていく。見えない敵に恐怖する彼の手は、尋常じゃない程の汗をかいていた。


「9、8、7、6、5、4、…ッ!」


その瞬間、ジンが再び空中に煙幕を展開した!今度はさっきよりも左右に大きく広がっている。

戦闘機から見える視界が一気に灰色の煙に覆われ、戦闘機はその中に突っ込んでいった。


「また煙幕だっ!…くそっ、!回避する!」


パイロットは急上昇を試み、機体は急角度で上空へ逃げる。再び重力が彼の体にのしかかり、視界は狭まり、激しい緊張感に襲われる。


先ほど全く同じ回避行動。

上に逃げれば問題はない。先ほどの体感と、下からの攻撃にさえ気をつければと思っていた。


しかし、煙幕を抜けたその瞬間、彼の視界にはゆっくりと漂う3つのパラシュートが現れた。


「なっ?パラシュートっ?」


パイロットは一瞬、目の前に浮かぶ物体に困惑し、何が起こっているのかを理解しようとしたが、反応する間もなく、戦闘機の翼が1つのパラシュートに接触した。


「しまっ!?――!」


翼に絡みついたパラシュートが機体に巻き付き、その直後、「ドォンッ」と強烈な爆発音が響いた。


戦闘機の左翼が損傷し、機体は制御を失う。パイロットは目の前が真っ白になるほどの衝撃に襲われながら、体を必死に操縦桿に預けたが、機体は急速に傾き、もはや墜落を避けることはできなかった。








直前まで罠を展開していたジンは戦闘機と爆弾の衝撃波にうたれ空中で激しく揺さぶられた。


爆発による余韻が空中を支配する中、ジンは辛うじてバランスを取り戻しながら、機体の方向を見据えた。戦闘機は翼を失い、まるで死んだ鳥のように空へと墜ちていくのが見える


「当たった…っ!!」

ジンは少し驚きながらも、戦闘機の墜落方向を見据えていた。


パラシュート爆弾が当たる確率は低かった。短い時間で展開できる数も限られる上に、戦闘機の動きを予測する必要があった。

たとえ当たらずとも、戦闘機の近くで爆発が起きれば、撤退に追い込めるとオニは考えていた。

それでも当たった。ジンの冷静な激しい敵意が彼の集中力を限界まで高めていたのだ。








コックピット内は爆発が引き起こした衝撃で、機体が振り回さるなか、視界が乱れ、警報音が耳元で鳴り響く。パイロットは必死に操縦桿を握りしめ、機体を立て直そうとするが、制御が効かない。力強い風に煽られ、なんとか海へ着水しようと機体を海岸線へと操縦桿向ける。


『こちらベース、何が起きた!?G-1、応答せよ』


無線から聞こえる声にパイロットは反応する余裕は無かった。地面への激突を避けるために、少しでも機体を安定させて、海へ目指して操縦桿を必死で握っていた。







大きく体を広げながら空を落ちていくジンは、戦闘機が墜落する様子を見ていた。

その顔は、未だ標的を捉えるように険しく、彼の作戦目標がまだ終わって無い事を意味していた。

「まだだ」


冷徹な雰囲気で呟いたジンは、戦闘機の衝撃波と爆風で無線が飛んでいた事を気付かないまま、戦闘機の影を追いながら空中で光の中へと消えた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る