第7話 元貴族の冒険者、『惚れた』女商人と買い物デート
【前回までのあらすじ】
貴族の家族から追放され、街で冒険者となったクリス。
女商人フィラの協力もあり、
初依頼は大成功を収めたのであった。
頂いたアイデアを使わせていただいての更新です。
ありがとうございました!
――――――――――
「カンパーイ!」」
その夜、宿の食堂で杯を合わせるクリスとフィラ。
テーブルには、宿の主人が腕によりをかけた料理が並んでいた。
昨夜と違い、二人の懐はホクホクであった。
今日こなした労働の成果である。
まず、冒険者ギルドの依頼としてこなした『薬草採取』の報酬。
これが銀貨二枚、だいたいここの宿代三泊分の額だ。
次に採取中に倒した魔物たちの換金。
ホーンラビットとビッグビーの亡骸は、
冒険者ギルドで銀貨五枚で買い取ってもらえた。
そして何といっても、今日一番の成果は・・・
「ビッグビーの巣、あれが小金貨五枚になるなんて・・・」
と、ため息をつくクリス。
ちなみに、小金貨は一枚で銀貨十枚分と等価である。
「死ぬ気でビッグビーと戦って良かったっスね~、クリス君」
「ソウデスネ~・・・」
と、ほとんど一人で戦ったクリスは、フィラの言葉に『棒返事』をした。
(でも・・・)
それでも今日、破格の臨時収入を得ただけでなく、無事に五体満足で戻って来られたのは、フィラのおかげだと思った。
薬草の知識を持つ彼女がいたから、正確に採取ができた。
薬を持つ彼女がいたから、魔物と戦った後回復ができた。
収納ボックスを持つ彼女がいたから、ビッグビーの巣を獲得できた。
(商人ギルドで巣をスムーズに換金できたのだって、フィラがいたからだしね)
そしてなにより・・・、
彼女と一緒だったから・・・、楽しかった。
「何スかクリス君、じろじろ見て」
と、フィラに言われてハッとするクリス。
「あ、いや、ごめん。
ちょっとボ~っとして・・・」
「飲んでいるのは果実水なのに?
はは~ん、さてはウチに惚れたっスね?」
と、からかうフィラだが・・・。
「うん」
「へ?」
「惚れているよ、フィラに」
「え、や、やだっスよ、クリス君~。
純情なお姉さんをからかっちゃ~、あはは・・・」
と、逆に慌てることになってしまう。
フード越しのその顔は、酒も飲んでいないのに真っ赤だ。
「優しくて、頼りがいがあって、一緒にいて楽しくて・・・。
そんなの、惚れないほうがおかしいよ。
戦場だったら絶対、フィラに背中を任せるな~」
「あ、あ~・・・、そうっスか・・・。
惚れるってそういう意味っスか・・・」
スン・・・、と『冷めた笑顔』になるフィラ。
クリスにはその変化がよく分かっていないが・・・。
~~~~~~~~~~~
翌日も二人は行動を共にしていた。
冒険者のクリスと商人のフィラ。
肩書だけ見れば、何度も組むような間柄ではないのだが。
「掘り出し物目当てに裏通りの店を回るので、護衛よろしくっス。
代わりにクリス君の装備を見繕ってあげるっスから」
「でも、料金は僕が自分で払うんでしょ・・・?」
「まあまあ。
商人の目をただで利用できるんスよ。
それに、かよわいお姉さんに一人で裏通りを歩かせるんスか?
紳士としてそれはどうかと思うっスよ」
と、調子のよいフィラ。
(ま、いっか)
と、クリスは苦笑を浮かべた。
不思議とフィラに振り回されるのは悪くない。
それに、彼女が商人だからなのか、
その提案は必ずクリスも対価が得られるようになっている。
(ちょうど装備品が欲しかったところだし・・・ね)
「じゃ、今日も一日よろしく、フィラ」
「はいっス」
話はまとまり、二人は宿を出た。
~~~~~~~~~~~~~~
「まさか、ここまで治安が悪いなんて・・・」
裏通りを回りながら、クリスはぼやいた。
神経の使い過ぎで、疲れきっていた。
何しろこの昼までに、
ゴロツキに絡まれる事二回、
スリに財布を狙われる事三回、
ぼったくりに付きまとわれる事五回、
野良犬に襲われる事一回、
その落とし物を踏んづけてしまいそうになる事十回!
いや、最後のは治安とは関係ないが・・・。
「目抜き通りはあんなににぎやかで、
夜だって治安もいいのに・・・」
「何事も表と裏があるって事っスよ。
文字通りね」
と、フィラ。
「でも、その成果はあったっスよ。
魔道具に香水、媚薬とこの街では非合法にあたる材料で作ったアイテムも結構あって・・・。
別の街まで持っていけば大儲けっスね、ひっひっひ・・・」
と、フィラはまったく危機感がない。
護衛である自分が信頼されているから、としておこう・・・。
「さ、次の路地に行くっすよ!」
「おおせのままに・・・」
と、皮肉交じりに言いながらも、
クリスは改めて気を引き締めた。
だが、世の中ままならないと言うべきか、
そうやってクリスが警戒を強めてからは、逆に何のトラブルも起きずに裏通りの散策は終了した・・・。
「さ、次はクリス君の装備品っスね。
これはさすがに、表の通りで探したほうがいいと思うんスけど・・・」
「そうだね」
クリスも賛成だった。
「裏通りの武器はナマクラやポンコツばかりだったっスからね。
さすがに、まともな鍛冶師は表にしかいないようっス」
そういうわけで、
ここからはクリスのためにフィラが同行することに。
歩きながら購入品について話し合う二人。
「クリス君は、まず何を買うべきだと思うっスか?」
「え?えっと・・・、防具かな?
武器はもう、ナイフと木剣があるから。
それよりも腕でガードできるように、手甲なんかが欲しいよ」
先日ビッグビーに腕を刺され、悶絶しかけた時の痛みを思い出しながらクリスは答えた。
「そうっスね。
それともう一つ、最優先で購入するべきものがあるっス」
「最優先で・・・、すね当てとか?」
「おしい!
靴っスよ」
「靴?
でもこれ、まだそんなに傷んでないけど・・・」
と、今はいている靴に目線を向けながらクリスは言った。
「クリス君のスキルは『走行』でしょう?
なら、もっと速く長く走れる靴を購入するべきだと思うっス。
旅用でなく、ギルドの依頼で魔物と戦うために、ね」
と、いつになく真剣な表情で説明するフィラ。
(確かに・・・)
と、クリスも思った。
「走行用の靴か・・・。
武器屋に売っているかな?」
「う~ん・・・たぶん、武器屋にあるのは重い鉄靴ばかりっスね。
逆に衣類のお店には、普通の靴しかないでしょうし・・・」
「じゃあ・・・、雑貨屋とか」
「そうっスね。
案外、掘り出し物が見つかるかもしれないっスよ」
「商人の勘?」
「女の勘っス」
と、いつもの調子に戻るフィラであった・・・。
~~~~~~~~~~~~
「うん、この店匂うっスね」
と、大通りの外れにある雑貨屋の前で足を止めたフィラ。
木製の切妻屋根のその店は、外観に年季を感じさせる。
傷んでいるというわけではなく、年月と共に味が出る・・・、
そんな雰囲気だ。
クリスも一目で気に入った。
だが、店に入ろうとしたその時、
「だから、ちゃんとした従業員を出せって言ってんだろうが!」
と、中から怒鳴り声が聞こえてきた。
(この声・・・)
クリスには聞き覚えがあった。
「うわぁ・・・、何か取り込み中みたいっスね。
少し時間をつぶしてまた来ましょう・・・って、あ、クリス君!」
フィラの静止にもかかわらず、クリスは店に入った。
(やっぱり・・・)
中に入ると、見覚えがある男の後ろ姿があった。
「獣人なんかに話が分かるかよ!
こっちは犬や猫に芸を仕込みにきたんじゃねえんだ!」
と、正面のカウンターごしに、店員に向かって怒鳴っているのは・・・、
「ボック・・・」
と、クリスはつぶやいた。
そう、先日冒険者ギルドで、
クリスを中傷してきた冒険者ボックだった。
【つづく】
―――――――――――――
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
そして・・・、
『先輩冒険者が店員にクレーム中という現場を目撃したクリス。
果たして彼が取る行動は!?』
あなたの想像・・・いえ、創造されたアイデアをコメント欄にてお贈りください!
簡単な一言だけで結構ですので・・・!
『店員をかばう』とか、『店員を慰める』とか、『店員を口説く』とか・・・。
物語の続きを紡ぐためにも、
どうぞよろしくお願いします・・・!
――というお願いをお聞きくださり、
本当にありがとうございました!
最新話では新たなお題を募集中ですので、
どうぞよろしくお願いします・・・!
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