第6話 マリアとキリア
次の日。
「マリアー!マリアー!」
「う…んん?」
歓迎会を終えたマリアは慣れない環境とストレスとでバタンキューになり、主役であるにも関わらずさっさと自分の部屋に戻ってしまった。
その後は簡単にシャワーを浴びてベッドにダイブしぐっすりと寝ていた。
そして訪れた朝。まだまだ眠気が取れずマリアは布団にくるまっていた。
しかし先程から幻聴だろうか?物凄く聞き覚えのある男性の声と窓を叩く音が聞こえる。
しかもしつこい。居留守を使っていたがこれは恐らくマリアが出るまで諦めない所存の様だ。
マリアは着ていたシンプルな水色のワンピース型のルームウェアに白いカーディガンを羽織ってカーテンと窓を開けた。すると窓を叩いていた人物がにぱぁと満面の笑みを見せる。
「おっはよーマリア!わぁ私服姿も可愛いけど部屋着もかわいいね♡髪の毛もふわふわでお姫様みたい♡」
「あう…あ…朝から変なこと言わないで下さい!キリアさん!」
「照れてるマリアも可愛いね」
「うぐぐ…」
犯人はキリアである。キリアは起きたばかりのマリアに甘い言葉をかけてそれに対してマリアは顔を真っ赤にしている。外は夜が明けたばかりだし目覚まし時計も鳴っていない。
「と…所でキリアさん?こんな朝早くどうしたんですか?」
「んー?マリアの顔が見たくて」
「ふざけないで真面目に答えて下さい!」
「あははもーマリアは冗談が通じないなぁ。
世の中真面目に生きるのも勿論いいけど少しの遊び心やジョークは心を豊かにしてくれるのさ」
ケラケラと笑うキリアにマリアは呆れ返っていた。何なら彼が自分のパートナーという事実に頭が痛くなりそうである。
「はぁ…」
「ありゃりゃ。困らせちゃったかな。じゃあ答えるよ。
俺達はこれからパートナーになる訳だしお互いの事を知るべきだと思うんだ」
キリアが真面目に話を切り出したのでマリアも冷静になる事ができた。
「それは分かりますが何もこんな朝っぱらから?お昼どきでも良いではありま…」
「此処から大体200メートルぐらいかな?悪魔の気配がするんだよ」
「!?」
「気配を探知したらそんなに強くない悪魔みたいだよ?
まだ君は俺の武器が何なのか知らないし、使い方も覚えなきゃいけない。だから此処らで練習だよ」
キリアの真面目な顔にマリアはキリッと顔を引き締めた。
悪魔の出現…。エクソシストの出番でありマリア自身の元第一として実力を発揮できる絶好の機会である。
「…すぐに準備しますので玄関でお待ち下さい」
「OK!」
「…覗かないで下さいよ?」
「え…残念…いだ!んもぉ!叩かなくてもいいじゃない!うわぁん!マリアがいじめた!」
キリアは嘘泣きしながら下に落下していった。マリアはそれを見計らい早速窓とカーテンを閉めて身支度を行った。そして
「…」
マリアは錆の入った懐中時計をポケットに閉まった。
◇
そして
「準備は完了致しました。キリアさん参りましょう」
「OK牧場!」
「…古くないですか?」
準備を終えたマリア。第一の時から愛用していたブルーのコートを羽織り露出度が低い格好で登場。
キリアは待ってましたとばかりにマリアの腕を掴んだ。
「ふえ!?ちょ!」
「よっし!レッツラゴー!」
「いやあの!腕離して下さい!」
マリアはキリアに引っ張られていった。
◇
200mの短い道中。早朝の為人がいない。しかしまだ薄暗いこの時間は悪魔はそこまで活発ではないものの行動できる時間帯である。
「人がいなくて良かったです。こんな所見られたら…」
「あ!カップルだと思われちゃう?俺はマリアと間違われるなら大歓迎♡いた!酷いよ!叩く事ないじゃない!」
「へ…へ変な事ばかり言うからです!大体貴方は他の人に見えないでしょ!
問題はこの体制ですよ!まるで私が腕を上げま状態の訳の分からない姿勢で走ってる変な人だと思われるでしょ!」
マリアは顔を真っ赤にして反論する。実際天使が見えない一般人から見れば少女が早朝に一人で何故か片手を上げたまま走ってる不思議な光景に見えるだろう。
因みに天使との肉体的接触に関しては天使を視認できるのと同じでエクソシストや天使を視認できる人ならば触れる事が可能である。
「もう!怒らないの!ほらマリアあそこだよ!」
キリアがビシッと指を差した方向。マリアは身構えてその方向を見つめた。
そこにはゲラゲラと不気味な笑い声を上げてそこらにある三角コーンや標識を投げたりぶん回したりして暴れ回る男性がいた。
「あの男の人に取り憑いてるんだ。悪魔自体はそこまで強くないみたい」
「しかし油断は禁物ですね。キリアさん力を貸してください」
「OK♡ハァハァマリアとやっと一つになれ…いた!」
「げ…げげ…下品!H!変態!」
マリアはバシバシとキリアを叩く。しかしキリアはサッとマリアの手を受け止めた。
「変な事想像しちゃった?マリアって意外とムッツリだね」
「うう…セクハラで訴えてやる…」
「ほらほら!悪魔さんが怒り出したよ!よっと!」
そんな賑やかに会話する二人に憑依された男性が標識を引っこ抜いてぶん投げてきた。
それを二人は軽々とかわす。そして
「キリアさん!」
「はーい!」
マリアの呼びかけに反応したキリアの体が光出した。そしてまるで蛍の光の様にキリアの体が光の粒となり崩れた。そしてその粒はマリアの体に集まると今度はマリアの体が光りそして…
「…さて…キリアさん?祓魔は10分以内に終わらせますよ。今回は初回なのでこれぐらい時間をとっておかないと」
『あ!タイムアタック?いいね!面白そう!二人の初めての共同作業にキリちゃん胸がドキドキするよぉ♡』
光が止むとそこには天使の翼と光輪を纏うマリアの姿があった。その手には輝く鋭い大剣が握られている。
「…大剣ですか…。うーん前のパートナーが弓矢なので少し不安ですね…」
『安心してよ。俺がサポートするから』
エクソシスト…彼らは天使に変わって悪魔を祓うもの。人間の武器では悪魔に通用しない為人間単体ではとてもでないが祓うのは不可能なのだ。
悪魔を視認かつ触れる事は可能だが人間よりも悪魔の方が段違いに能力が高く殺されるか次の宿主にされる可能性の方が高くリスクがデカい。
逆に天使。天使は悪魔を祓う事が可能だが天使が悪魔に直接触れると翼が黒くなる"堕天化"が起きる。
完全に堕天化すると翼は黒く光輪は赤く光り二度と天界に戻れない上に自我を失い暴れまわる様になるという。
近年そんな例は見ないがずっと昔にそのせいで堕天使となった天使がいた為天使が直接悪魔と対峙するのは御法度である。
しかし天使の武器は悪魔に有効だし、能力も悪魔と互角である。とても勿体無い状況。
そんな欠点を補い合うために悪魔を直接攻撃するのが堕天する事ない人間のエクソシスト。
そんな人間に自身の天使の力を与えるのが天使の役目。そして自身の武器もエクソシストに貸し出すのである。
その際天使は人間に憑依し、感覚をリンクするのである。この憑依は悪魔が人間に乗り移るのと同じ原理。だが違うのは肉体の支配権はあくまでエクソシスト側。必要であれば天使が操作するぐらいだ。悪魔は完全に悪魔側に支配権が渡るので大きな違いである。
マリアはフゥと息を吐きそしで慣れない自身の細い体よりも大きな大剣を構えた。そして
「初の祓魔です。元第一のエクソシストとしての意地を見せて差し上げます!」
『お!やる気いっぱいだね!それじゃあまずは宿主の男の人気絶させよう!』
「言われなくても!」
マリアとキリアの初めての戦闘。
此処から二人の物語は始まったのである。
堕天のマリア 猫山 鈴 @suzuneko22usausapyon
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