第一章 第七教会のエクソシスト
第1話 エリートからの転落
皆さんは悪魔というのを信じているだろうか?
悪魔…それは人々の心の少しの隙間に入り込み悪意を増幅させる存在である。
彼らは生物の魂を喰らう事によりその力を増幅させる。
しかし彼らは生身の人間相手に攻撃を行ってもその体に直接傷をつけられない。
よって彼らは人々の体に入り込み悪意を増幅。ひいては殺意を芽生えさせて殺人を起こさせるのだ。
そして殺した魂を彼らは食す。宿主となった者は大概は記憶がなくなる。だが法で裁かれた場合や宿主の心が満たされてしまい使い物にならなくなると判断すればまた別の宿主を探しにいく。
悪魔による殺人事件件数は近年更に増加している。だからこそある職業の需要が高まっているのだ。
悪魔を祓う者。"エクソシスト"である。
◇
約半年前
「わ…私が第七教会に異動ですか!?」
「その通りだ。マリア・ブルーハート。君には第七教会のエクソシストとして活動して貰う」
「そんな!私はずっと悪魔祓いに貢献してきた筈です!なのに何故私が異動なんですか?第七って確か末端の教会ではありませんか!」
此処はアナスタシア第一教会祓魔支部。アナスタシアとはエクソシスト発祥の地であり、世界で1番小さい国だ。他の国にもエクソシストはいるし教会はあるが、基本的にエクソシストで集まる会議はアナスタシア第一教会で行われる。
また教会というのは天使を信仰し、悪魔撲滅を掲げている組合の様なものである。
教会自体でやる事はエクソシスト達の活動をサポートしたり、悪魔の関わる事件の解決を指示し、その詳細を纏めて記録するのが主である。
その他にも悪魔が付け入る隙を生み出さないように懺悔室を設けてその人の抱える心の闇を少しでも祓える様にしたり、カウンセリングを行う等、悪魔関連の事は大概教会に相談すればしてくれるようになっている。
そして何より教会が最も力を入れているのはエクソシストに無くてはならない"相棒"を紹介するサポートだ。
エクソシストはその紹介された相棒と共に事件を解決するのが基本である。
そして何処の教会にもある祓魔支部と呼ばれる部署こそがエクソシスト達とその相棒達の所属する部署。
直接的に悪魔と対峙する者達が此処に所属する。特に第一教会の祓魔支部はエクソシスト達が所属する"エクソシスト協会"の本部でもある。だからこそエクソシストに関する国際的な会議は第一教会で行われるのだ。
と…そんな事はさておき第一教会の司祭室にて長い三つ編みをした少女と厳かな真っ黒のローブを着用し、真っ白な髭を蓄えた年老いた男性が言い争っていた。
少女の名は"マリア・ブルーハート"。男性の方は教会それぞれの第一責任者である"司祭長"の階級を与えられている"トーマス・ルドマン"である。
「ルドマン司祭長!教えてください!何故私がこの教会からあっちに行かなければならないのですか!」
マリアは憤慨しながらトーマスに詰め寄っている。
マリアは元々第一教会に所属するエクソシストである。アナスタシア内には7つの教会があり、其々第一、第二と順番をつけられている。
第一はアナスタシアの中央であるセントラル地区に存在する教会。
世界全ての教会を牛耳る教会である。そしてその逆に第七。第七は第一と違い辺境の方に存在する教会。
アナスタシアのエクソシストが多くなってきた事から新設された教会だ。人数も少ないし、まだ認知度も低い。
特に第一に所属する者は実力者揃いで優秀な者が多い。そこから第二以降の教会に異動するというのは第一の者達にとっては転落と同じ扱いである。それはマリアとて例外ではない。
「ふう…マリアよ。確かにお前は今まで立派にしてきた。悪魔を祓った件数も他のエクソシストの中でもトップクラス」
「なら!」
「けど…お前は協調性が欠如してる」
トーマスが強く声を出して指摘した。
第一はそもそも一人一人の実力が群を抜いているので仲間意識はあまりない。大体人で熟せるぐらいだ。
「はあ…いやしかしですよ?それは他の皆さんとて同じですよ。私だって今まで一人でやってきた筈です。それで今まで上手く…」
「それだよ…」
「え?」
「一人?何を言ってるんだ。君には相棒がいるだろう」
トーマスが手を挙げるとパーと淡い光が出現し、少しずつ人の形に形成されていく。
そして現れたのは白い翼と光輪を持った一人の少女。真っ白なセミロングのストレートヘアに黒いパーカーと白いワンピースを着用した少女である。
少女は美しく長い真っ白なまつ毛や隠された銀の瞳はまるで月の様に冷たく輝いていてまるで人形の様だ。
「ルナ…どうして…」
「マリア。ごめんなさい。もう私は貴女とやっていける気がしないの」
「どうして!今まで私たちは上手くやってきた筈じゃ…」
するとルナは首を振った。
「そうだね…最初の頃は良かった。純粋に正義を貫こうとするマリアが私は大好きだった。けど今のマリアはどうなの?」
「え?」
「今のマリアは独りよがりすぎるよ…。さっきだってまるで私の力なんかなくても一人でできるみたいな…」
「待って!あれは…」
「兎も角!私とはパートナーを解消して下さい!ごめんなさい!」
「ルナ!」
ルナはまた光りはじめ、人の形を崩して何処かへ行ってしまった。
「これで分かっただろ。君は確かに優秀だ。けど君はそのせいで少しずつ最初の頃の初々しい正義も人を守ろうとする優しさも失われていった。
まるで評価のみを追い求める様になって…ルナ様との会話も少しずつなくなっていき、失敗するとピリピリしてルナ様にも強く当たってしまったそうじゃないか」
トーマスの発言に否定できなかった。確かにマリアは最初は悪魔祓いを自身の正義のもと、希望を持って行っていった。
しかし今ではどうだろう…。確かに優秀ではあるが、徐々にそこから自分は評価されはじめ…そして焦る様になった。
自分は優秀でなくてはならないと…。けどそのせいで最初は仲良くしてきたルナとは喧嘩する事が増えてしまった。
基本的に教会は天使信仰である。その為天使の意見の方が優先される傾向にある。
エクソシスト達は対等な相棒として天使の名を呼ぶが、そうでない教会関係者達は様付けし、敬う。
そして天使達もそれぞれの教会に属している為エクソシストは配属された場所の天使と組まされるのだ。そして異動した場合はその天使とのパートナー解消をせねばならない。
そして異動先でまた、パートナーを紹介して貰わねばならないのだ。
「…ルナの方からお願いされたんですか?私の事…」
「嗚呼…だがこの教会に属する天使は皆んな既にパートナーがいるし、ルナ様のパートナーも既に決まってしまった。
よって君にはこの教会から異動してもらい、天使様がお一人残っておられる第七に異動して貰いたいのだ」
マリアは落胆した。自業自得の結果だ。けどその心にはまだ納得できてないものがある。マリア自身にももちろん第一のエクソシストと同じく高いプライドがある。
自分がエリートであるという自負がある。
その自負も第一にて優秀と持て囃されたマリアだからこそ出来てしまった自負であり、プライドなのだ。だが天使の意見も聞いておきながらこのまま燻り続ければエクソシスト資格剥奪もありえる。
それに天使がいなければエクソシストもただの人間。悪魔に対抗できない。マリアは覚悟を決めた。
「…承知致しました。第七への異動謹んでお受け致します」
「嗚呼…すまなかったなマリア。実際にあっちの寮に入るのは一週間後だ。それまでに荷物を纏めて置く様に、それまで休暇をやろう」
「はい。承知致しました」
マリアはお辞儀して静かな足取りで部屋から出て行き、第一のエクソシスト用寮の自身の部屋を目指した。
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