プロローグ(2)

 「お疲れ様〜♡マリアちゃん♡キリアちゃん♡」

 「いえ…仕事ですので…。労いの言葉感謝致します」

 「まあね!何たって俺達最強コンビですし〜」

 マリアとキリアはとあるバーにいた。二人はお酒を飲みに来た訳ではない。キリアはともかくマリアは飲める年齢ではないし、そもそも飲もうとは思わない。


 そんな二人に労いの言葉をかけるのは、赤いリップに金色のふわふわセミロングの髪に、ピンクのワンピースを着た筋肉隆々の男性である。本人曰く心は乙女で体はわがままボディなニューハーフらしい。

 彼…いや彼女の名は"ビビアン"。本名は"スミス・ゴンザレス"だがこの名で呼ぶのはタブーである。


 「けど驚きよねぇ?アタシてっきり犯人男の人だとおもってたわん」

 「はい。それも四件目の事件の第一発見者のご婦人が犯人だなんて…」

 「マリア!エンジェルリング!」

 「はいはい…約束ですものね。どうぞ?」


 早速約束のドーナツ…エンジェルリングを強請られたマリアが腕を広げた。するとキリアの体が光りはじめた。その光は眩く光り、キリアの形が崩れて光の粒となる。

 そして光の粒がマリアへ向かってまるで吸い込まれるように消えていく。


 全ての光の粒が消えるとマリアの体が光り始めた。そしてあの時悪魔を祓った時と同じ天使のような姿になった。

 『ではでは早速頂きます!』

 「貴方を取り込んで食べる食事は苦手です…」

 『まぁまぁ!マリアのペースで食べてよ!』

 「うう…また太ってしまうぅ…」

 

 マリアは早速今日の朝に買ってきたドーナツの入った箱を取り出した。そして箱を開けて一つ、キリアのお目当てのドーナツを取り出した。


 この国…"アナスタシア"でも大人気のドーナツ屋"リング・リング"で売られているエンジェルリング。

 見た目はフレンチクルーラーのようだが中にはカスタードクリームが入っている。

 そして外側にはパウダーシュガーが振られていてホワイトチョコレートでできた小さな天使の羽の飾りが付けられている。


 外はサクサクで中はもちもち。そして意外と甘さが控えめなクリームが飽きさせない。その為、人気商品にもなっている。

 マリアも結構好きではあるが、最近体型を気にしている。食べながらもお腹を少し摘んでいる。


 「不便よねぇ?天使は地上の食べ物食べれないもんね」

 ビビアンが頬に手を当てながらドーナツを頬張るマリアを見る。小さい口でちびちびと綺麗に食べているが目は輝いている。美味しいのだろう。


 『そそ!けどマリアが体貸してくれるから味わかるよ!めっちゃうまい!幾らでも食える!』

 「やめて下さいよ…。貴方はいいですよ。味だけ味わえるんですから…カロリーは全て私に来るんですよ?この前も少し体重増えてましたからね?」

 『え?そんな太ってる?体重そんな変わってなくない?』

 「…ビビアンさん…天使ってセクハラで訴えられますか?それかパートナー交代お願いします」

 『え!やだやだ!マリアとがいいの!絶対離れないから!』

 「はぁ…冗談です…。ほらちゃんと味わって下さいよ?」


 マリアはまたもぐもぐと頬を膨らせてハムスターのように食べている。

 

 「それで?どうしてあの女の人は殺しを?」

 「悪魔に憑かれたのもありますが…もう一つ分かったのですがどうやら最初に殺されたのは加害者の夫の不倫相手だそうです。

 しかし悪魔に憑依された事により感情が狂ってしまい…若い女性に対して殺意を持つ様になった様です。」

 『えぇ…こっわ…マリア!安心してね?!俺はマリア一筋だから!』

 「彼女は探偵を雇って証拠も集めていました。しかし…夫の不倫が明るみになる内に彼女に殺意が芽生えてしまい…悪魔に憑依されて殺意が増幅…。殺人鬼へと成り変わったのです」

 『無視しないで!』


 マリアはビビアンに事件について教える。途中でキリアが変な茶々を入れるがマリアは無視してビビアンの方に顔を向けている。

 「やだわ!誠意のない人なんて!嫌いよ!不潔よ!」

 ビビアンは自身の体を抱き込んで大袈裟に反応する。それにはマリアも同意である。


 「そうですね…そもそも夫の方が浮気しなければこんな事にはならなかったでしょう。

 加害者も災難でした。悪魔に憑依されるなんて…。そもそも将来を誓い合った伴侶に裏切られたら少しは殺意は湧くと思うんです。

 

 それが心のどうしようも出来ないところであり、悪魔にとっては格好の餌…。悪魔が世から消えないのも頷けます」

 そう言ってマリアはまたドーナツを食べる事にした。


 するとカランカランとベルの音が鳴りバーの扉が開いた。

 入ってきたのは、マリアと同じく鎖で繋がれたロザリオを首から下げた長身かつ短髪のアジア系の顔立ちした青年と、純白の翼と光輪を持つ…キリアと同じようなパーカーにピンクのフリルがついたワンピースを着ている桃色の長い髪をツーサイドアップにした可愛らしい少女が入ってきた。

 そして首にはキリアと同じ黒いチョーカーを嵌めている。


 それぞれ青年の方は無表情で何処かぼーっとしている。少女は眉間に皺を寄せてふよふよ飛んでいる。


 「ただいま戻りました…」

 「あー…やっば…疲れたぁ…」


 「お帰りなさい♡"ヤマトちゃん""ティアラちゃん"♡」

 「お疲れ様です。お二人とも」

 笑顔のビビアンとマリアが労いの言葉をかける中マリアの体から白い光が出てきて人の形に形成されていく。同時にマリアにあった光輪と翼が消えて、今までマリアの肉体に入り込んでいたキリアが姿を現した。


 「おかえり二人とも!所でさぁ?ティアラ…例の賭けは俺の勝ちだね?約束通り今度、天界で大人気のドーナツ!"ふわふわホワイトドーナツ"買ってきてね?」

 「…はぁ…人がスプラッタ事件見て疲弊してる時に言うのがそれ?つーかまたマリアにドーナツ食わせてんの?いい!?女の子っていうのは自分の体型にシビアな訳!そこんとこ理解しろや!

 ねぇマリア?コイツとじゃなくて私とバディ組まない?」

 

 キリアとティアラはお互いに悪魔祓いが早く終わった方が勝ちというルールで賭けをしていた。勝った方が負けた方の言う事を一つだけ聞くというルールでだ。


 ティアラは不機嫌顔になりキリアにデコピンするとすぐにマリアの肩に抱きついた。

 先程のセリフとティアラの行動にキリアは不満顔になる。


 「はぁ!?それはダメだよ!…あ…いや違うよ?あのねヤマト君が嫌なわけではないの。ただ俺はマリア一筋なだけなの!」

 「…俺と組むのやなのか…。二人ともマリアの方がいいのか…」

 マリアの奪い合いに発展してる二人の天使の姿にヤマトは落ち込んでいる。


 それを見たキリアは焦りだしてヤマトの頭を撫でながら宥めている。途端にヤマトは落ち着きを取り戻していった。

 「俺がぼーっとしてるのが悪いけど…うう…キリアは本当優しいなぁ…。やっぱり俺のバディにならないか?」

 「んー…いやそれは…」

 キリアは困り顔である。すると今度はティアラが頬を膨らました。


 「…そこはマリアにティアラは渡さないとか言って欲しいのに…」

 「…ティアラさん?思った事は言葉にしないとだめですよ?というかいつの間に賭けなんかしてたんですか。貴方方は…」

 マリアはハァとため息を吐いた。


 そんな姿をクスクスも微笑みながら見るビビアン。

 「マリアちゃん…随分と皆んなに溶け込んだわね…。最初は心配だったけど…」

 「分かるぅ!最初エリート風吹かせてバカにしてたもんね!

 いやはや今では俺の大切で素敵な唯一無二のパートナーだけど…いて!」

 ビビアンの言葉に同意するキリア。そして同じく同意のヤマトとティアラもうなづいている。


 マリアは顔を真っ赤にしてキリアの頬をつねった。

 「それを言うのは無しでお願いします!私だって…皆さんに対して悪いと思ってるし…」

 「大丈夫よ?それは皆んなにちゃんと伝わってるわ。けど早いわねぇ…マリアちゃんが入ってからもう半年以上経つのね…」


 マリアは自身が此処…第七教会に配属された時の事を思い出していた。

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