第2話 ようこそ第七へ

 そして一週間後

 「此処が第七ですか。第一に比べると小さい…いやていうかこれ…バー?」

 マリアは綺麗な雲の模様が描かれた空色のキャリーケースを引っ張り、アナスタシアのイースト地区にある第七教会祓魔支部にやってきた。


 そしてマリアを此処まで案内したのが、第七の司祭長である"アルバ・シュタイン"司祭長である。

 アルバは丸いメガネをかけたボサボサ頭の中年男性である。髪が伸びて目が隠れており、神父服は薄汚れている。メガネの機能を果たしているのかすら疑わしい。


 少し潔癖の気があるマリアからすれば余りいい印象をもてない。

 「そうだよ。此処が今日から君の職場になる第七教会の祓魔支部の建物さ!」

 アルバは穏やかな口調で明るく告げる。しかしマリアの方は先程から胡散臭くて仕方なかった。


 まず司祭長。先程も述べたがマリアは余り良い印象を持ってない。許されるのなら髪の毛を綺麗に整えて神父服もクリーニングに出したい。金を出したって良い。

 後は冒頭で述べた第七の祓魔支部の建物の見た目。どう見てもバー。大人達の社交場でお酒を飲む場所だ。


 ネオン看板の方には"seven"と書かれている。


 「あの…司祭長様。本当に此処で合ってるのですか?」

 「うん。まぁ気持ちはわかるよ。支部長の趣味なのさ。此処は一般の人にも普通の酒場として提供しているよ」

 「教会の運営する場所で飲酒提供…」


 マリアは顔を引き攣らせた。とんでもないところに来てしまったと。

 ちなみにこの前に第七教会にも訪れた。教会の方は小ぢんまりしていて、少し古臭いがちゃんと教会の見た目だった。


 第一の方は教会自体が大きく、その中に支部があったのだ。月とすっぽんである。

 「まぁまぁ!入ってみてよ!みんな楽しみにしてるから!」

 「へ?」

 しかしそんなマリアを尻目にアルバはバンとそのバーの扉を開けた。


 

 ◇



 「皆んな!新しい仲間のマリア君だよ!皆んな仲良くしてあげてね!」

 アルバはニコニコと微笑みながら大声で中にいる人々に呼びかけた。


 「あらあら?随分可愛い娘じゃないの♡私はリリアンよ♡よろしくねマリアちゃん♡」

 開口一番に話しかけてきたのは筋肉隆々の男性…その格好は濃いピンクにフリルのあしらわれたワンピースに白いフリフリエプロンだ。


 その髪も金髪のふわふわセミロングで、後頭部に大きなリボンがついている。

 「あ…えと…マリア・ブルーハートと申します…」

 マリアは少し驚いて吃ってしまった。しかし目の前の男性?いや乙女はウフフと笑いかけてくれる。悪い人ではなさそうである。


 「良いのよ?緊張しなくても♡女同士仲良くしましょうね♡」

 「え…えっと司祭長様。この方は…」

 マリアは助けてくれと目でアルバに訴える。するとアルバは察したのかすぐに来てくれた。


 「彼…じゃなくて彼女はビビアン。この第七教会祓魔支部の支部長だよ。そしてこのバー"seven"のママもしている」

 「そうなんで…ええ!支部長さん!?」

 まさかの人物が支部長であった事にマリアは驚き余計に不安になっていた。


 最初にあった反骨精神は徐々に恐怖に変わり始めていた。

 「そうよぉ♡気軽にママ♡とか呼んで良いのよん♡」

 「あ…えと…まだ緊張するのでビビアンさんでも良いですか?」

 「その方が呼びやすいならいいわよ♡」


 しかしビビアンは動じない。マリアの失礼な考えも笑って受け流している。少し申し訳なさが出てくる。

 「因みに…ビビアン君の本名は"スミス・ゴンザ…」

 「黙れ…」

 「…」


 しかしアルバがビビアンの名を言おうとするとビビアンは優しげな微笑みを消して厳つい怒り顔でアルバに静かに黙れと言い出した。

 その迫力たるや、直接言われた訳でもないのにマリアも怯えてしまっていた。


 悪魔と対峙するマリアは並の少女より肝は確実に座ってるが、久しぶりの恐怖心にガタガタ震えるしかなかった。そして誓った。

 絶対に本名では呼ばないと…。


 「あはは…は…ごめんなさい…」

 アルバが泣きながら謝るとビビアンはすぐにまたにっこり笑顔になり、

 「分かればいいのよ♡分かれば♡」

 と…笑顔だけど未だかつて此処まで怖い笑みなど見たことがない。


 「そ…そういえば!他の皆んなはいないのかい?」

 「仕事に行ったり休日だったりして残念ながら誰もいないわよ…あ!」

 すぐに話題を変えようとするアルバ。ビビアンのいう通り、確かに支部にはビビアン以外の誰もいない。


 ビビアンはふとマリアのキャリーケースを見てあ!と声を出した。

 「皆んな夕方辺りになれば戻ると思うから。マリアちゃん一度自分のお部屋に行く?

 女子寮に案内するわよ?」

 「えと…ではそうさせていただきますが…あのぉつかぬ事をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 「なーに?」

 「ビビアンさんはどちらの寮に住んでるのでしょうか…」

 

 その後マリアはハッと顔を青くして口を塞いだ。幾ら何でも失礼だったと。しかしビビアンは特に気にしていない。

 「私はこのバーの二階にお部屋があるからそこに住んでるわよ」

 「そ…そうなんですか?すみません変な質問してしまって…」

 「いいのいいの!ほーら早速寮に案内するわよ!着いてきて!」


 ビビアンはそう言ってバーの扉へ歩いていく。

 「僕は一度教会に戻るから。またね」

 「はいありがとうございました。司祭長様」

 アルバは足早に教会に戻っていく。その後ろ姿を眺めた後、マリアはビビアンに案内されながら寮を目指して歩き出した。

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