第3話 お菓子な寮

 此処アナスタシアには五つの地区が存在する。地区の名はかなり安直だ。


 まず中央に位置するのが第一教会の本部がある"セントラル地区"。地区自体の形は円形であり白い壁でぐるりと囲まれている。これがそれぞれの地区の境目である。

 因みに地区ごとに分ける壁の色も違い、セントラル地区のシンボルカラーが天使様の翼イメージで白色である。


 次に北側"ノース地区"。ノース地区に配置されてるのは第ニ教会である。壁の色は緑色である。ノース地区は緑豊かであり、農業が盛んな穏やかな田舎の風景が広がる。

 そう言った景観面から緑が採用された。


 三つ目が南側"サウス地区"。配置されるのは第三教会。壁の色は赤である。 

 サウス地区は乾燥していて砂地が広がっている。砂丘もある。砂漠ほどではないが広く迷子になりやすい。

 その為目立つ赤い壁を目印にして遭難しない様にしている。とはいえ砂が多くて広いだけで気温等は対して酷くないし、街もあるので滅多に遭難者等でないが。


 四つ目が西側"ウエスト地区"。配置されるは第四教会。壁の色は黄色だ。

 ウエスト地区には大きな湖"リング湖"が存在する。そこにバカンス気分で泳ぎにくる観光客もいる為、少しでも明るい印象をと黄色にしたらしい。…赤とも迷ったが先に取られたとか。


 五つ目が此処東側のイースト地区である。配置されるは第五教会。壁の色は青だ。

 イースト地区は居住区が広がっており、人口はセントラル地区に次いで多い。青は特に特徴がない街だった為、余ったペンキで塗ったという逸話がある。


 では此処で余った第六と第七は?となるが、セントラル地区とイースト地区の共通点は人が多い事である。

 悪魔は人々の悪意を元にして巣食う生き物だ。つまり人が多ければ多いほど悪魔の発生率が上がる。


 なのでこの二つの地区は二つの教会を置き対応している。セントラルに第六が、イーストには第七が存在し、第一や第五と分担して仕事をしているのである。


 マリアは正直ホッとした。もしこれで第六ならば第一の人たちと顔を合わせることになる。

 そうなれば


 『見てよ!あいつ落ちこぼれのマリアじゃない?』

 『うわぁ…。かっわいそう…。てか最近調子乗っててうざかったし精々するけどね』


 マリアは第一教会で聞いた悪意の籠もった言葉達を思い出してブルリと震えた。

 「どうしたの?マリアちゃん」

 ビビアンに呼びかけられてマリアはハッと我に帰る。


 「す….すみません。何でもないですよ。大丈夫です」

 「?そう?それならいいんだけど…。そうだマリアちゃん!此処が今日から貴方の家よ!」


 どうやらマリアが考え込んでる内についたそうだ。マリアは一言その建物を見て

 「…め…メルヘンですね…あはは…」

 と。

 

 女子寮の見た目がかなりファンシーなのである壁はいちごミルクの様なピンクであり、屋根はイチゴのような赤とクリーム色のツートンカラーでまるでお菓子である。

 窓の形はハート型でピンクの縁で覆われている。


 そして扉も…これまたオーダーメイドなのか板チョコの形をしている。壁もよく見るとハートの模様やら花の模様やらが描かれている。

 「ウフフ♡テーマは"少女の秘密のお菓子の家"よ♡私が考案したの!可愛いでしょ?」

 「は…はい…それはもう…」


 マリアはあははと苦笑いで答える。正直言って心の中では困惑していた。幾ら何でも少女趣味な気がする。マリア自身はもっと落ち着く感じが好きだ。

 例えばクマのぬいぐるみよりもアンティーク雑貨に心惹かれるし、いちごミルクよりも紅茶が好き。


 可愛いワンピースを着て甘いお菓子の様な空間で甘いスイーツを食べるよりも、シックな大人しいワンピースを着て静かな喫茶店でコーヒーを飲む方が好き。

 しかしこれはあくまでマリア個人の趣味である。文句を言うべきところではないので我慢した。


 「でしょ!?ってごめんなさいね?私ったらつい熱くなって…。部屋を案内するから着いてきてね?」

 「あ…はい」

 マリアはビビアンの後をついて行き、板チョコ型のドアを抜けて中に入った。



 ◇



 「…中も…これまた…」

 「中も拘ったの♡うふふドールハウスみたいでしょ?」

 中もまた外に負けず劣らずファンシーである。いちごミルク色の壁に真っ白な階段。それぞれチョコレートなどのお菓子を模したドア。

 照明はキラキラしたシャンデリアである。


 そんな光景にマリアが呆気に取られてると…

 「あら…ビビアンさん。その娘が例の?」

 女性の声が聞こえた。振り返るとそこには黒と赤を基調としたゴスロリワンピを来た少女がいた。歳はマリアぐらいに見える。


 髪は真っ黒の長い髪を二つの縦ロールにしていて、黒いレースの掛かった赤いヘッドドレスをつけている。

 足元は黒ストッキングに黒の大きめのパンプス。


 顔を見ると肌が真っ白で、アイシャドウは暗め、唇は血でも塗ったかの様に真っ赤というキツめのメイクをしている。その瞳は赤く輝いている。


 「そうよ!"アゲハ"ちゃん。彼女が新しくうちに来てくれたエクソシストのマリアちゃんよ」

 「そう…初めまして…私の名前は"アゲハ・ツェツェルン"と言います。以後お見知りおきを」

 

 アゲハは優雅にワンピースのスカート部分を摘み頭を下げる。

 「ご…ご丁寧にどうも…。私はマリア・ブルーハートと言います。初めまして。

 あの…アゲハさんもエクソシストなのですか?」

 とマリアが質問するとアゲハが目をパチクリさせて手を口元に持っていき控えめに笑う。


 「違うわ。私は此処の寮母をしているの」

 「へ…ええ!そうなんですか?!てっきり同業者かと思いましたよ!…寮母って意外ですね…」

 「あらあらお褒めの言葉として受け取っておくわね…。ビビアンさん。此処からは私が彼女を案内するから大丈夫よ?」


 アゲハがビビアンにそう提案する。

 「あらそう?よかったわぁ早速仲良くなれたみたいで!じゃあ私は戻るわね?

 アゲハちゃん。夕方…そうね…大体十八時くらいかしら。それぐらいになったらマリアちゃんと一緒に支部に来てね。マリアちゃんの歓迎会するから!」

 「え!?わ…私はそんなの…」

 「いいから遠慮しないの!じゃあまたね!」


 ビビアンはそのまま寮を出て行ってしまった。

 「…本当に歓迎会なんていいのに…」

 「ふーん?貴方本当は遠慮じゃなくて…第一から第七に入るのが屈辱で嫌なだけでしょ?」

 アゲハの言葉にマリアは図星を突かれて固まった。


 「やっぱり。第一は皆んなプライド高いもんね。どうせあれでしょ?第一と比べてボロい教会だなぁとか、ふざけた寮だなぁとか思ってるんでしょ?」

 「う…」

 「ふふ…いいのよ。隠さなくても。誰にも言わないし第一からきたらそりゃあそうなるもの。

 まぁいいわ。着いてきて」


 ズバズバ本音を言い当てられたマリアは肩を落としてアゲハの後を追いかけていった。

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