第5話 波乱の歓迎会

 その後…キリアと名乗る天使は寂しそうに何処かへ飛んでいってしまったのを見届けてマリアはホッと胸を撫で下ろしカーテンを開けた。


 「…アレが第七の天使?嘘でしょ…。天使が異性の部屋を覗いてナンパしてくるなんて聞いた事ない…」

 マリアは顔を引き攣らせている。そして同時にある不安が浮かび上がった。


 「(あの天使のパートナーは誰?まさか…パートナーのいない天使って…)」

 

 マリアの不安。もし仮にキリアがパートナー不在の天使の場合自分と組まされる可能性が大いにあるのだ。

 自分に対してナンパしてくる様な男だ。それもマリアを綺麗だのタイプだのと…。


 ボン!

 「い…いやいやいや!ああ言う人には特別な感情なんてある訳ないわ!そうよマリア!あんな天使に屈してはダメよ!」

 と顔を真っ赤にして自分に喝を入れる。彼女自身のお堅い性格や硬すぎる貞操観念。そしてエリート然とした態度から彼女に声を掛ける男性はいない。


 しかし影では見た目に関して言うと好みだという男性もいるのだが彼女は知る由もない。

 

 そんな彼女だからこそなのか、あんな簡単に自分を口説いてくる男性は新鮮なのもあり少し胸がドキドキしているがマリアはそれを唯びっくりしただけと誤魔化して頭を冷やしていた。



 ◇



 コンコン…

 「どうぞ…」

 ガチャ…

 「入るわよ。…貴方何してるの?」


 マリアの部屋にアゲハが入ってきた。しかしアゲハの目の前には饅頭の様に布団に包まる物体否マリアがいる。


 アゲハは不審に思いながらも布団から彼女の顔を出させる。

 「布団に包まってなにしてたの?顔は真っ赤だし、頭に氷嚢置いて…熱はないわよね?」

 アゲハはぺたりとマリアの額に触れるが特に熱くはない。


 そんな中マリアは気になっていた事を聞いてみた。

 「あの…先程男性の天使がいらっしゃったのですが…名前はキリアという…」

 「嗚呼…あの子ね?説明してあげたいけど残念。もう夕方よ?」

 「へ?」


 マリアは慌てて窓の外を見るとすでに夕方で空がオレンジに染まっている。マリアはその瞬間頭を抱えた。

 「私とした事が!時間を…守れないなんて!」

 「大丈夫よ。だから時間になる前に起こしに来たんじゃないの。貴女の歓迎会はキリアも来てるから。ほら行くわよ」


 アゲハはそんなマリアに飄々とした態度で接しそのまま部屋を出た。マリアは慌てて髪の毛を簡単に解かして大急ぎで髪を結いながらアゲハの後を追う。



 ◇



 「着いたわよ。器用なものね?走りながら髪を結うなんて」

 「まぁ慣れてますし…」

 マリアとアゲハは無事、祓魔支部改めてsevenに到着した。


 アゲハはドアを開けて先に入り、その後をマリアが着いていく。そして入ると。


 「ようこそ!第七教会へ!」

 という大人数の声とパンパンと音を立てるクラッカー。

 「きゃ!」

 その音に驚くマリア。クラッカー特有の匂いが漂っている。


 「マリアちゃん!ほらこっちこっち!主役は真ん中に座んなきゃ!」

 「わ!」

 マリアはビビアンに背中を押されてバーの真ん中の椅子に座らされた。しかもそこへ何やらパーティ用のとんがり帽子や、"私が主役!"と書かれたタスキをかけさせられた。


 「よし!主役も着いた事だし歓迎会を始めようか!アゲハ君!ここまでの案内有難う!」

 「仕事の内ですから」

 アルバは和かにアゲハに話しかけるもアゲハは素っ気なく返す。アルバは少し寂しそうな哀愁を漂わせている。


 一方マリアは

 「(…この人数で支部の人達全員分の人数なの?少ないわ…。いやそれに仮に全員だとしたら私の歓迎会なんてしてる暇ないわよね…。

 だって悪魔が活動するのは夜。それなのにこんな…)」

 と仕事中心で考え込んでいた。それに加えてマリアは余り騒がしい場所は苦手である。正直な所早く帰りたい。


 …そもそも歓迎会など第一ではしていなかった事だ。第一に染められたマリアからすると仲良しこよしの様なこう言う雰囲気は余り良い感情は抱けないでいる。


 「よし!マリアちゃん自己紹介お願いできる?それと皆んなも自己紹介を「大丈夫です。必要ありません」え?」


 ビビアンの提案をマリアは遮った。そんなマリアに第七のメンバーは少しざわめき始めた。

 「でも歓迎会よ?自己紹介しないとマリアちゃんがどんな人か?とか分からないしマリアちゃんだって皆んながどんな人か分からないと困るじゃない」

 ビビアンに注意されるマリア。しかしマリアは止まらない。


 「私の事は来る前から情報が流れてる筈ですし、この第七にいれば覚えられると思いますが?」

 とマリアは少し機嫌悪そうに答える。しかも嫌でもというのを強調して。


 第七の雰囲気は一気に冷えた。そんな中一人のピンク髪に地雷ファッションの女天使がキレた。

 「アンタ何様よ!第一から来たエリート様だか知らないけどね!そんな言い方ないじゃない!」

 「よせ。ティアラ落ち着くんだ」

 そんな女天使をマリアと同じエクソシストのシンボルである鎖のロザリオをつけたアジア系の青年が冷静に止める。しかし女天使はガルルルとマリアを威嚇する。


 だがマリアは呆れた様子でそんな女天使を見つめる為に余計火に油を注ぐ事になっている。

 二人の女の戦いに固まるしかないメンバー。


 そんな中空気をぶち壊す様な明るい声が響いた。

 「はーい!ねぇねぇマリア!」

 「いきなり名前呼び…って貴方!私の部屋を覗いた上にな…なな…ナンパしてきた方じゃないですか!?」


 声を出したのはキリアである。キリアはニコニコと人懐こい笑みを浮かべてふよふよとマリアの前まで浮遊し、そして着地した。

 「わぁ!覚えてくれたんだね?…ちょっと失礼な覚え方ではあるけど!でもマリアの可愛さに免じて許してあ・げ・る♡」

 

 キリアはマリアの手を握りウインクする。そんなキリアの行動にマリアはボンっと顔を真っ赤にしてキリアの手を振り払った。

 「な…なな!か…かわかわいくないです!セクハラで訴えますよ!」

 「えぇ?でもそれで俺が捕まって困るのはマリアだよ?」


 キリアの言い分にマリアは首を傾げた。何故キリアが捕まって自分が困るのか?それが分からない。

 

 「だって君の新しいピカピカのパートナーは俺だもん♡てへぺろ」

 「え…えええええええ!?」


 キリアの発言にマリアは目を見開き驚愕した。まさかの予想大当たりである。


 「いやぁ新しいパートナーが君みたいな綺麗な子だとはね。しかも俺と名前めっちゃ似てるし!これは運命だよね♡ふふふ♡」

 「う…うそでしょ…」


 マリアはその途端に大人しくなった。そしてキリアもしつこくマリアに纏まりつく。


 そんな二人の様子にメンバーは少し安心したのかご馳走を放置するのは良くないと胃袋に片す事にした。


 一方で

 「…あんな娘が第七の仲間とか…素直に認められる訳ないじゃん」

 と先程マリアにキレたティアラは敵対心マシマシでマリアを見つめていた。


 第七の夜はそれなりに賑やかに過ぎていった。

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