第2話 決意の夜
私の両親は基本的に他の家より、厳しくて理不尽であると幼少期から思って育ってきた。
親の心子知らずとは言うが、そんなものわかる訳ないし、自分は自分と思いつつも、なかなか逆らうのは難しいもので、やりたい事も両親の顔色を伺いながら
なんでもやってきた。自分がやりたい事を、両親が許してくれる事の中から選んでやってきたのだ。
そんなこんなで、二十歳になり大学も3年生になったのだが、夢半ばで力尽きた例の友人の事を思うと
こんなのは嫌だと強く思うようになり、反抗を試みようと決めた。
単純に誰もが思いつく、家出、自主退学、など色々あったが、今まで何もかも親の言う通りにしてきた私は
家出する勇気も無いし、退学も大学のお金は全て両親が出してくれていると言う気持ちから、踏み切れずにいた。
そんなこんなで何もできずに、授業に出たり出なかったりだらだら日々を過ごしていた。
が、ある日の夜サボりがちだった事で両親と言い争いになり、それが弾みになって、私の中の何かが切れた。
「結局、お金も何もかも両親が用意してるから、逆らえずに何もできないんだよ。」
そんな事が頭に浮かび、
「ゼロから自分でやれば、誰にも文句を言わせないで
好きな事ができる」
と思ったら行動は早かった。
たぶん幼い頃から溜まってきたものが、ついに爆発したのだろう。そう思うと富士山もそろそろ危ないのでは?と思ってしまう。
まず初めに潜伏先の確保。
事件性を疑われないための家出の意思表示の書き置き
逃亡用の資金の調達
足がつきにくい移動方法
などなど指名手配犯ばりの家出の計画を当時付き合っていた彼女と1週間かけて考えた。
我ながら計画的な犯行だと思ったが、資金の調達は難航した、当時新しいバイトを始めたばかりの私は、まだ給料も入っておらず、彼女に頼るのもプライドが
許さなかったし、後々トラブルになるのも嫌だったので、頼る事ができなったのである。
そこで目をつけたのが、家電たちである。
当時一人暮らしをしていた私のアパートには、テレビ
洗濯機、冷蔵庫、電子レンジなどの、いわゆる金目の物ってやつが揃っていた。
これを近所の某大手リサイクルショップで売れば
当面の資金は稼げると確信した。
甘かった。
査定額「1000円」
0を、1つ数え間違えたと思ったが、何度見ても
1000円は、1000円だった。
(話はそれるが、ここでみんなに教えておきたい
家電製品の場合製造年から10年以上経っていたら
買取を断られるケースがあるのと、よっぽどアンティークなものや、貴重な物で無い限り、かなり安い金額で買い取られる場合がほとんどである。)
私の両親はケチなので一人暮らしを始める時に、新品のものではなく、お下がりの中古品を揃えてくれた。
音のうるさい洗濯機、冷凍機能のぶっ壊れた冷蔵庫、
チンできない電子レンジ、この3つには値段さえ付けられなかった。
唯一10年以内の液晶テレビが、部屋で見てると電源が勝手に付いたり消えたりする不具合はありつつも、運良く1000円の値段がつけられたといった具合である。
(実は数年後その部屋は事故物件だった事が判明したので、テレビに関しては故障じゃない可能性がある。)
とにかく手に入れられたのは1000円で
その全財産で無謀にも家出する事になったのである。
リサイクルショップを後にし、空になったリヤカーを引きながら、1000円札とお客様控えの証明書を握りしめて、家出計画の最後の準備をしに帰宅した10月の肌寒い夜。
忘夜bouya 祭sai @taiking1998
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