タイムレス トレジャーズ
風間 澄海 (Sumi Kaza)
エピソード1:謎の石
【謎の紋様】
アジアの極東が日本。九州という島の、さらに西の端にある小さな島。
海と山に囲まれたのどかな田舎の風景。
築100年もあるかと思われる古民家から飛び出して来た高校生の
タカナ(高菜)のおにぎりを食べながら、急いでチャリをこぐ。
「行ってきま〜す!」
郷土部で地域の歴史研究に張り切っているが、歴史以外は落第点の成績だ。
「またあの子ったら。いつも遅刻ぎりぎり」
祖母のミホはあきれたようにつぶやく。
「ま〜元気が一番じゃ。しっかり勉強せぇよ!」
縁側に腰かけた祖父の
一人っ子の
通学路の途中、住民たちが何やら
「池から浮かび上がったって!」
「えっ?何それ」
「気色ん悪かねぇ。何か起きなけりゃ、いいけど」
奇妙な現象に驚き、心配する住民たち。
「何の話?」
「子どもはそんな話、聞かんでいい!」
校門近く。
通学中の女子高生、
「
部活は
「おっす!おはよー!」
「今日、めっちゃ遅くない?」
「うん、朝、お母さんの墓参りに行って来たんだよね。
今日、命日なんだ」
「そっか」
二人とも母親がいないので幼い頃から、兄弟みたいに助け合って来た幼なじみだ。
朝から暗い話だと滅入ってしまうので、
高校で歴史の授業中。
教師の
「西の久保の池から謎の紋様が刻まれた石が見つかったって知ってるか?」
「マジで?それって何?」
生徒たちが興奮して話し始める。
「池から浮かび上がったってさ」
「いいね!帰りに見に行こ!
通学中に噂話を聞いていた
「
一方、友人の
そんな
「おっしゃー!それSNSでシェア!“いいね”がバンバン来るかもしれんぞ。わくわくするな!」
彼はお調子もので、仲間では滑稽な存在。面白くて、いつもみんなを笑わす。
「モチベーションが明らかに違うな。まあ、ついていくけど」
【探検】
現在の「西の久保公園」は東京ドームなんと約8個分の広さ約36.7haが公園化され、サクラやショウブ、アヤメの季節には多くの市民が集う場所になっている。
公園の中心部に大きなため池(河内山溜池)がある。
もともと田んぼだった所を昭和初期の1934年にせき止めて作った人工池だ。当時は池の中央あたりに川が流れていたという。
下流の右手側は
ため池に着いた三人。
「どこにあるんだろう?」
池のほとり、大きな木が茂る場所にきた。
すると突然、突風が吹き出し、激しく雨が降り始めた。
ゴロ、ゴロと大地を揺らすほど激しい稲妻が走り、ドーンと大きな音がして木に落ちた。
その場に倒れ、気絶する三人。
雨に
「おい!大丈夫か?」
池に目をやると、池の中の水が天に吸い上げられ、湖底に大きな穴が空いた。
金色の眩しい光を放つものが微かに見える。
「なんだって!あれって何だろう?」
「おお、何か丸いでかい石みたいなもんがあるぞ」
「うわっ、やべ!早く逃げよう!」
目を擦りながら、
バチ、バチ!
大きな石は眩しい光を放ちながら、プラズマ放電が起きている。
突然、ドーンと大きな音がして、地面を揺るがした後、池の水が渦巻き、石は池の中に消えた。
「今のは何だ?」
3人は目を合わせながら、ガタガタ震えていた。
不思議なものを見てしまった三人は慌てて、家に逃げ帰った。
【コレジオ】
翌日。
学校の廊下で女子たちが騒いでいる。
「キャー!
「はぁ、相変わらず女子ウケ抜群だな。
おれもちょっとはモテてみたいぜ」
「
昨日の出来事を顧問の
放課後、郷土部の部室。
その時の仲間が
「夢でも見たんじゃないのか?
君たちは16世紀末、この地に大学が造られたことは知ってるか」
「いや、初めて聞きました」
板書しながら、説明する。
「英語では大学をカレッジ(college)というが、ポルトガル語(colégio)、スペイン語(colegio)でコレジオというんだ。
その石はコレジオがあった場所を示すものではないかと新聞に書いてあった」
コレジオではラテン語を中心に学び、ヨーロッパから日本に持ち帰った金属活字の印刷機で辞書やイソップ物語などの本をローマ字で出版した。
コレジオで印刷された本が今も英国の大英図書館などに残っていて、「キリシタン本」と呼ばれ、大変貴重なものとされる。
しかし、世界にわずか30種ほどしか残っていないため仮に今、発見されたら数億から十数億円もの値段が付くともいわれている。
「本か...
「無理っしょ、そんなのありえねーって」
「世界中の研究家などが血眼で探しているけど、簡単には見つからん。
それもそのはず、時の支配者が厳しい弾圧の中、見つけしだい焼いてしまったんだ」
「しかし400年以上も前に、何でここに大学があったんですか?」
「布教の目的もあったが、南蛮貿易が目的の領主と利益が一致し、ここへ誘致したんだね。
誘致と引き換えに、南蛮貿易で富を得ようというわけなんだ。
しかしコレジオがあった場所が未だ分からず、この島のどこにあったか60年以上も論争が続いている。
その鍵を握る証拠が池から出たと今、騒がれているんだ。
さらに世界文化遺産の崎津集落に隣接する今富集落の西側の尾根、標高約50メートルを登ったところに大天使を描いたと言われる
【南蛮貿易】
郷土部顧問のナミエはいつも分かりやすくアドバイスをしてくれる。
「どこにあったのか、場所が書かれた古文書が見つかれば世界史上の大発見なんだけどね!
世界的な大ニュースになり、君たちも一躍、世界から注目を浴びるわよ!」
「オーケー!見つけてやるよ!」
「いいね!楽しそうだね。パソコン得意だから情報収集を担当するね」
「よし!金銀財宝やキリシタン本をゲットして、一発で億万長者だ!」
また
一方、
「それぞれの目的は違っても、結束するのが郷土部の伝統だ。がんばれ!」
顧問の
図書館で資料を見ている
「結局、宣教師たちの記録だけじゃなくて、当時の歴史全体を知るにはもっと多角的な情報が必要だな。
たとえば、宣教師たちが経済的にも活動していたことが分かるんだ。
それって今で言うところの多角的なビジネスモデルってやつかもしれないよ」
「やっぱりここにいたんだね?探したよ。何か新しい情報ある?」
「証拠は見つからなかったけど、面白いことがわかったんだよ。
コレジオの関連施設では南蛮貿易の商社みたいなこともやっていたらしい。
中国の明時代後期に、中国南部の華南地方で焼かれた『華南三彩貼花唐草文五耳壷』(かなんさんさいちょうかからくさもんごじつぼ)など南蛮貿易に関連したものが遺跡から多く出土している」
(解説)
「華南三彩貼花唐草文五耳壷」(かなんさんさいちょうかからくさもんごじつぼ)
「花や葉・蔓などの文様を貼り付け、緑・黄・紫の釉薬で彩られた五耳壷。
明時代後期の中国華南地方で焼かれ、16世紀末頃日本国内に招来されたものといわれる。
中世大友氏府内町跡をはじめ、大坂道修遺跡・奈良興福寺一乗院跡・東京汐留遺跡などから、同様の壷の破片が出土しており、特に府内町跡の事例ではその量の多さが指摘されている。」
(文化庁=文化遺産オンラインより。https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/23457)
「おいおい、かなり稼いでたんだろ?」
「まあ、そんなこともありえるさ」
と、
「マジで!?」
まだ雲をつかむような話でみんな半信半疑でいるが、わくわくするような驚きがあるのではないかと彼らは期待に胸を膨らませていた。
【謎の文字】
「でも、あの池の石って一体なんだろう?
あれは現実だったよね」
「謎の文字が刻まれてるみたいだね。
いや半導体みたいな文様かも?
プラズマ放電もしていたし…」
と、
「コレジオの場所とか、すごく謎だよね。
じゃあ、あの石をもう一回、調べてみようか」
「ちょっと〜、怖いよ〜!」
後日、研究者らによって謎の文字が刻まれた石の調査が現地で始まり、金銀財宝の謎を解く鍵が判明したのではないかとの情報も入る。
さらにその財宝を探そうとする悪党のトレジャーハンターらが暗躍し始めた。
まだ解明されていない謎や伏線を残しつつ、続く。
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