エピソード4:守護者の啓示

【現代へ】

 17世紀の戦国時代にタイムスリップした蒼真そうまと仲間たち。

 そこで長老と出会い、コレジオの過去とその危険性が明らかになる。

 そして金銀財宝を探し出そうとするトレジャーハンターたちが暗躍し、迫り来る脅威を現代に戻り、伝えなければと考えた。


 現代に戻る方法を必死に考えている。

 蒼真そうまは頭を抱えながら、つぶやく。


「何かアイデアない?陽翔はると


「あの池に浮かんでた謎の文字が刻まれた大きな石を探そう。

 そこでタイムスリップしたんだから。

 今も昔も、山や川は同じ場所なはず」


「オーケー!西の久保の池を捜しに行こう!」


 現在の西の久保ため池(河内山溜池)は昭和の初期に出来た大きな人口ため池だ。

 それまでは田んぼの中央に川が流れており、小さなため池があった。


 一行はタイムスリップした場所にやって来た。

 村人たちが謎の文字が刻まれた大きな石の周りで祈っている。


 蒼真そうまたちが近づく。

 村人たちが蒼真そうまたちの格好を見て驚く。


「異人さまじゃ!」


 驚き、逃げ去る。

 陽翔はるとは石を見て推測する。


「これ、礼拝石っぽいな。

 倉壮くらあき先生が言ってたけど、もともとは池の中じゃなくて、地上にあったんだって。どうやら滑り落ちたか、誰かが投げ入れたみたいだね。」


 蒼真そうまはこんな風にしたっけと思い出しながら、不思議な謎の文字を再び、なぞってみる。

 すると石が振動し始めた。


 天空に大きな穴が現れ、ドーンと大きな音とともに、プラズマ閃光が走った。

 4人はその場に倒れ、気を失ってしまった。


 現代。

 蒼真そうまの頬に冷たい感触がする。

 ゲロゲロと鳴き声が聞こえた。

 触ってみると、それは大きなカエルだった。


「うわっ、カエル!マジで苦手なんだよな」


 と、必死に振り払う。


 倒れて横になっている仲間たちを保育園児らが不思議そうに眺めている。

 一同、はっと気がつき、起き上がる。


 いつもの見慣れた風景があった。

 西の久保公園内にはサクラの花見客や、子どもたちがシーソーやブランコで遊んでいた。


「戻れたぞ、現代に!」


 一同は叫ぶ。

 花音かのんは、スマホのアンテナが立っているのを見て喜ぶ。


「やったー!めっちゃ嬉しい〜!

 スマホも使える!」


 仲間みんなが喜びに包まれた。


老婆ミホの啓示】

(回想)

 老婆ミホが過去に巻き起こった争いを説明する。


 1596年、スペイン船「サン・フェリペ号」はフィリピンのマニラを出航し、アメリカ大陸のメキシコを目指していた。

 船には黄金が豊富にあると言われていたフィリピンから100万ペソの財宝を積んでいた。


 当時の100万ペソがどれほどの価値があったのか具体的には、16世紀のスペインでは貴族の生活を送ることができ、例えば、広大な土地や邸宅を購入することが可能であり、多数の家畜や豪華な衣服、宝石なども手に入れることができた。

 当時の社会においては、100万ペソという額はかなりの財産で、非常に大きな富を意味していたのだ。


 しかし、多くの財宝を積んだこの南蛮船は東シナ海で台風に遭い、四国の土佐沖に漂着。

 土佐国の岡豊おこう城主だった長宗我部ちょうそかべ元親もとちかは船に残っていた60万ペソ分の積荷を没収した。


 また、豊臣秀吉は布教の目的は日本を征服することだとスペイン人の船員が語ったと聞き、危機感を抱く。

 そして長崎で宣教師の処刑(二十六聖人の殉教)を行った。

 いわゆる「サン・フェリペ号事件」だ。


 禁教令と宣教師の処刑、南蛮貿易にまつわる歴史上の重要な場面がフラッシュバックする。

 そしてコレジオにまつわる秘密や宝物を守ることの重要性が強調される。


 老婆ミホ蒼真そうまたちに話す。


「人間は欲にかられると破滅する。

 最初はそうでなくとも段々、手に負えなくなるんじゃ」


 まだ若い蒼真そうまたちは経験が浅く、何のことだか飲み込めていない様子だ。


 老婆ミホはコレジオで印刷された『平家物語』の一節を紹介する。

 平家一族が権力や富で栄華を極め、やがて没落するまでの栄枯盛衰を描いた物語だ。


 冒頭文:

祇園精舎ぎをんしやうじやかねの声、諸行無常しよぎやうむじやうひびきあり。

 娑羅双樹しやらさうじゆの花の色、盛者必衰じやうしやひつすいことわりをあらわす。


 おごれる人もひさしからず、ただ春のゆめのごとし。

 たけものもついにはほろびぬ、ひとへに風の前のちりに同じ」

(尾崎士郎訳「現代語訳 平家物語(上)」岩波現代文庫、岩波書店、2015、序詞)


 キリシタン本『平家物語』は1592年、天草コレジオで天正遣欧少年使節らがヨーロッパから持ち帰った金属活字の印刷機で印刷された。


 うんぎょ・ファビアンが編集。彼は仏法僧侶だったがキリシタンに入信し、司祭パードレを補佐する助修士イルマンになった。


 ローマ字で書かれており、宣教師たちが日本語と歴史を知る目的で出版された。

 世界に1冊しか現存せず、英国の大英図書館が所蔵している。


「コレジオの財宝に近づくな!とは言ったものの、大丈夫かのう...」


 老婆ミホはそうつぶやき、蒼真そうまたちの行動が気になり、不安がよぎる。


【タイプの邪魔な陰謀】

 コレジオの財宝を私利私欲のために利用しようとするトレジャーハンターのタイプの邪悪な計画。それは世界を征服する野望だった。


 大航海時代は、ローマ教皇の許可の下、スペインとポルトガルによる世界二分割征服論で航海に乗り出し、アジアやアメリカ大陸などを征服、植民地化した歴史がある。


 タイプはその時に隠されたであろう金銀財宝を探し出し、今こそ世界を掌握し、征服をと企む邪悪な陰謀があった。


 それは宇宙に複数のスターシップ(宇宙船)を打ち上げ、地球の通信網やライフラインをストップし、世界を混乱させた後、征服しようというものだ。


 また他のトレジャーハンターたちを、巧みに操る狡猾こうかつな性格。それがタイプだった。


 タイプらのアジト。

 タイプ「デラよ。戦国時代にタイムスリップし、金銀財宝の情報を聞き出したまではめるとして、あのざまは何だ!ガキどもにしてやられるとは!」


 蒼真そうまたちとの戦いで、かろうじて逃げ延びたデラは、タイプに激しく口撃され、ののしられる。


「申し訳ありません」


「もうよい!トンにやらせよう。

 金銀財宝を手に入れ、征服の後、おまえらにも国の一つや二つ、与えてもよいが、どうだ?

 その前にあの邪魔なガキどもを何とかせい!」


「ぜひ、私におまかせを!」


「頼もしいやつ!はっはっは!・・・」


 大笑いし、トンに酒を注いでやる。


「くそっ!あんなトンに何ができるもんか・・・

 今度こそは!」


 歯がゆく、悔しがるデラ。


 タイプの陰謀が展開し始め、蒼真そうまとその仲間たちに直接的な脅威が及びそうになり、緊張感が一気に高まる。


【トレーニング】

 この島嶼とうしょは険しい山々と、狭い平野部から海へとつながる。

 ここでは古来から山岳信仰の修験道が盛んで、その影響を受けた金毘羅神などは烏天狗の翼を付けた像や、翼を持つ馬頭観音などが多く祀られている。


 キリシタン時代には、禁教令で宣教師が海外追放になった後、山伏がその役を担った。

 信者の洗礼や儀礼などを執り行ういわゆる「水方」である。


 明治になり、禁教令が解かれた後、フランスのパリからこの島に来た宣教師は「水方の6人のうち2人が山伏だった」と書いている。


 蒼真そうまの祖父、ひろしは代々続く山伏の家系であり、数々の秘伝の技を継承していた。

 特殊な能力を身につけた蒼真そうまたちだが、しかしそれはまだ貧弱で、辿々たどたどしいものだった。


 ひろしの指導の下、蒼真そうまは秘法のトレーニングに移行する。


「善と悪は、偏見にある一面観であり、元来は一体だ。

 善と信じて、悪と念じて苦しむのではなく、自分の拠り所を誤らず、我見に執着するでないぞ」


 訓練に際し、ひろしは厳しく忠告する。

 さらに、


「人は明らかに宇宙間に介在する一分子だ。

 お前の一呼吸、坐臥ざがは大気に連絡し、その瞬間といえども相離れず、一挙手一投足は直ちに宇内うだい及達きゅうたつする。

 心身を清めれば自分の意志は神に通じ、神の意志となるのじゃ」


「難しくて何んのことか良く分かんないけど、頑張る!」


 その深い知識と技術は、ひろしにも受け継がれているのだ。

 蒼真そうまはその力をさらに引き出すべく厳しい訓練に挑んでいた。


 蒼真そうまは海の荒波と山の厳しい風に晒されながら、自らを鍛え上げていく。

 朝日が昇る頃には海岸で瞑想を始め、海の声を聞きながら自身の内なる声と向き合う。

 波のリズムに合わせて身体を動かし、自然と一体となるような動作を繰り返す。


 山では、岩肌を素手で登り、自然界の厳しさに耐えながら感覚を研ぎ澄ます。

 風の流れを読み解き、木々のささやきからエネルギーの流れを感じ取る。

 山頂に立った時、蒼真そうまは周囲の自然からエネルギーを引き寄せ、身体全体でそれを感じ取ることができるようになっていた。


 ひろしは、このような自然との対話を通じて、蒼真そうまに技を伝授していく。

 それぞれの訓練を通じて、蒼真そうまは次第に秘技を身につけ、自己の力を拡大させていった。


「我が身を浄め、磨けばお前の命は、大生命に融合し、一つになる。

 融合すれば、願望は成就することだろう」


 ひろしは単なる肉体的な鍛錬だけでなく、精神的な成長と深い自己理解をもたらすものであり、秘伝の技が新たな世代に引き継がれていく過程でもあった。


「普段、スマホばかりいじっているから、体力がない。もうダウンか?」


 ひろし蒼真そうまあきれた様につぶやく。


「どうした。ほれ!」


 蒼真そうまを船から海に放り出そうとする。


「うわっ!海が苦手なのに連れてくるなんて、なんてじいさんなんだよ!」


「すまん、すまん。子どもの頃、そうやって溺れかけたな」


「マジで!トラウマレベルだよ!

 でもマズい、悪党たちにマークされてるんだ。絶対負けられないんだよ。

 じいちゃん、もっとトレーニングしようぜ!」


「なにくそと負けん気だけは母ちゃん仕込みだな。ははは...」


 ひろしは太平洋戦争で陸軍に志願し、フィリピンやシンガポールに出征した今や数少ない戦争の体験者だ。

 戦地でマラリアに感染。南方の戦地から治療のため帰国したことで命拾いした。

 その後、玉砕地となり戦死した友人から生前にもらったという椰子ヤシの実で作られた小さな煙草入れを今でも大切に持っている。


 蒼真そうまに戦争体験を話して聞かせ、金や権力以上に命の大切さを教えて来た。

 今回の訓練にあたり、祖母のミホから蒼真そうまにはまだ無理ではないかと助言されたが、連合艦隊司令長官の山本五十六の名言「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、 めてやらねば人は動かじ」を持ち出し、めてやればあの子にも出来ると言って退けた。


 ひろしは孫が頑張る姿を見て頼もしいと思った。

 蒼真そうまの両親が早くに亡くなり、親代わりで育てて来た。

 反抗期にはひろしも多いに心配したことがあった。

 しかし、ひろしの誕生日にはアルバイトをしてお金を貯め、希少な日本ミツバチの蜂蜜をプレゼントしてくれたこともある。


「じいちゃん、俺が二十歳になったら、焼酎をプレゼントするから、一緒に飲もうね」


「素直な子に育ってくれて…。

 年取ると涙もろくなってな」


 ひろしは、涙を流しながら独り言をつぶやいていた。


 高校の部室。

 陽翔はるとは放課後、インターネットを使って未発見の古文書を世界中の国立図書館のデータベースから捜している。


「20年前に、コレジオの場所が書かれた古文書があるって言われているけど、未公開のままだったよね。英国の大帝国図書館にあるこれじゃないかな?

 博物館じゃなくて、こっちにあったんだ!さっそくオンラインで取り寄せよう」


 陽翔はるとは成績優秀で、IQが180以上あり、その頭脳を活かし、迫り来るタイプらとの争いの結末に備え、対戦武器の製作をしていた。


 池に出現する謎の石を初めて見た時から、刻まれている謎の文様にヒントを得て、ドローン(無人機)の集積回路を改造し、電磁波放射攻撃の装置を設計したのだ。

 プラズマを動力源にして空を瞬時に飛び、指先で操縦する。


 近年、中東やウクライナとロシアの戦争でもドローン(無人機)が使用された。

 その攻撃から防衛するためには、自律航行を妨害する強力な電磁波で撹乱し、墜落させる。

 この新兵器はそれを逆手に取り、電磁波放射攻撃を行うという画期的なものだ。


 蒼真そうまは出来上がった新兵器を見て驚く。


「これ、マジでノーベル賞レベルじゃん!

 花音かのんって、料理よりも工作のほうが得意だよね!」


「なにそれ!得意のパンケーキ作ってあげるから、めっちゃ食べてよ!」


「やばい、やめて!マジで吐きそうだから」


 花音かのんは怒って、蒼真そうまを得意の護身術で羽交い締めにした。


「いたっ、いたい…もうやめてよ!勘弁して!」


 一同、大笑いする。


(次回予告)

 花音かのんの母親の悲劇的な過去と運命。

 グループの友情に危機が訪れる。


 花音かのん蒼真そうまのSNSのサムネ画面を見てつぶやく。


「嫌だな、あの人。近づかないで!」

 怒りながらスマホをベッドに放り投げた。


 財宝を狙う悪党のトレジャーハンターが仕込んだ狡猾な罠。それに翻弄される蒼真そうまたち。 

 迫り来る争いの結末に期待が高まる。

(続く)

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