エピソード3:秘密を暴く

【洞窟】

 17世紀初めにタイムスリップした蒼真そうまたち。


 湾内に停泊した黒い南蛮船に目をやると、船員たちがマストにまるで蜘蛛くもの巣みたいに張られたロープによじ登り、何やら高所作業をしている。


 甲板では日傘の下で船長カピタンが赤や青色の豪奢ごうしゃな南蛮衣装を着て足を組み、洋風の椅子に座り、葉巻をくわえている。

 猫足の小さな洋テーブルにはオリエント風のポットとカップなど茶器が並んでいて、ティータイムらしい。


 船員たちは忙しそうに多くの荷を小舟に下ろしていた。


 南蛮屏風に描かれたような不思議な光景の中、城下を歩きながら、蒼真そうま陽翔はるとは郷土部顧問の倉壮くらあきの話を思い出す。


「ちなみに、倉壮くらあき先生が話してたけど、コレジオの秘密と関わるほこらがどこかにあるらしいんだ」


「じゃあ、俺たちも探してみるか。

 蒼真そうま、今富地区を調べてみようよ」


 40年ほど前に発見されたというそのほこらは、まつられた像の姿や形が何を象徴するのか、なぜその場所に安置されているのか、まだ多くの謎が解明されていないという。


 地元の人たちから聞き出した情報から、安置された場所の手がかりを得た。

 蒼真そうまたちは、さらに調査を進め、コレジオの秘密に関わる隠されたほこらを探索する。


 東シナ海を望む小高い山。

 雑木林の中、やぶをかき分けながら山の中を進んで行く。


「俺、花粉症でさ、さっきから鼻水とくしゃみがヤバいんだよね」


「マジで、このままじゃ秘密の手がかり見つかるのか不安だわ」


 楽人らくとは花粉症に悩まされ、陽翔はるとはすでに嫌気がさしていた。


「ここ、滑りやすいから気をつけて!」


 蒼真そうまがみんなに注意を促したその瞬間に急な坂を転げ落ちた。


「痛っ!マジかよ、パンツ破れちゃったよ」


 痛さと驚きで笑いたいけど笑えない蒼真そうま


「大丈夫、あとで直してあげるよ。頑張って!」


 花音かのん蒼真そうまを励ます。


「よし!もう少しだ、頑張るぞ!」


 蒼真そうまはみんなを勇気づける。

 頂上付近にやっとたどり着く。

 そこで不思議なほこらを見つけた。


 ほこらには高さ80センチほどの像が浮き彫りされている。

 両肩に翼とみられるものがあり、右手に剣のようなものを持ち、悪魔を踏みつけているように見える。


 頭が坊主で、袈裟けさの衣装を身につけており、仏教的な雰囲気もする。

 地元では「ウマンテラさま」と呼ばれていた。


「いくつもあるけど、ほこらの配置が変じゃない?」


 蒼真そうまほこらを不思議そうにながめて言う。

 陽翔はるとが急に思いついたように蒼真そうまに言う。


「そうだ!各祠ほこらに4人並べてみよう」


「矢印ができる!ねえ陽翔はると!」


「バッチリ!正解だ!」


「だったら矢印の方向に進もうぜ!」


 陽翔はるとほこらに隠された暗号の謎を解いた。


「俺、全然気づかなかったわ。やっぱりさすが!」


 軽快なトーンで笑顔を交えながら楽人らくとが言う。


「いいぞ!行動開始!」


 勢いに乗った蒼真そうまたちはさらに森の奥深くへと進む。

 どれだけ歩いただろうか。

 行けども行けども薮だらけだ。


「ここ、何もねーじゃん...」


 楽人らくとがあきらめたような声を出す。


 すると蒼真そうまが入口を大きなシダの葉で覆われた洞窟を見つける。

 入口は一人の大人がやっと立って入れるぐらいの大きさだ。


「なんか、ちょっと怖いかも」


 花音かのんが不安そうにつぶやく。


「中、入ってみようぜ」


 そう言って蒼真そうまが先頭に立ち、恐る恐る洞窟に入っていく。

 スマホのライトを頼りに、奥へと進んでいった。


 クモやゲジゲジがいる。


 首筋になにか冷たいものを感じる楽人らくと

 触ってみると、


「うわっ、ヘビだ!」


「ヤバ!早く振り払え!」


 蒼真そうまが叫ぶ。


「やめてよぉ!」


 花音かのんは慌てて蒼真の後ろに隠れた。


「ったく、しつこいな!」


 楽人らくとは必死でヘビを振り払う。


 さらに奥に進んで行くと、火がかれた祭壇があった。

 そこでは老婆が祈りを捧げている。

 歳のほど、90過ぎくらいだろうか。


「あれ?おばあちゃん?!」


 蒼真そうまは思わず、自分のおばあちゃんに似ていると思い、驚いた。

 4人に気がついた老婆ミホが驚き、振り向く。


「だれじゃ?何しに来た?」


 コレジオの遺跡を探検中にタイムスリップした話をする。

 別の時代から来たと話しても、最初は信じてもらえなかったが、だんだんと打ち解けて行く。

 コレジオの謎を追っていると話すと、老婆ミホは急に怒り出した。


「なに!今なんと言った?コレジオだと?

 やめとけ!それに近づいてはならぬ!」


【金銀財宝】

 老婆ミホはコレジオの歴史、財宝、そしてコレジオが引き起こした争いについての重要な情報を明かす。


「日本一美しい教会や南蛮風の立派な建物があってな。わしはそこの食堂で働いておったんじゃ」


 老婆ミホによると、コレジオとそれに入学する前の養成機関が同じ建物で教室、個室、共同部屋などがあり、さらに用務部屋には食糧倉庫、調理・食堂など、そして少し離れたところに印刷所があった。


 先生や、それを補佐する者を合わせて約60人、同宿、従僕などを入れると120人を超える規模だったという。


 老婆ミホはさらに語った。


「しかしじゃ、質素な表向きとは裏腹に、長崎では注文される料理は牛やニワトリのたくさんの料理、ぶどう酒、焼き立てパンを食べていると聞く。


 デザートもナシの芯に穴を開けそこに砂糖を詰めて焼いたものや、ゆで卵にまで砂糖をつけて食べよると聞いておる。

 しゃばは所詮、そんなもんさね」


 大航海時代に南蛮船で日本に運ばれたものとして、宣教師たちの故郷に馴染みの深いオリーブやカリン、モモ、ナシ、ブドウなど果樹の苗も輸入された。


 16世紀末にポルトガルから白イチジクの「ブリゲソテス」も運ばれて来た。

 しかし日本には受粉を助けるイチジクコバチがいないため、結実せず、普及しなかった。


 西洋ではケーキなどに使用するイチジクは乾燥イチジクが一般的。

 当時、日本にやって来たポルトガル人宣教師たちは干し柿を見てその姿が乾燥イチジクに似ていることから、フィゴス(figos)と呼んだ。勿論、デザートにイチジク入りのお菓子を食べていた。


 老婆ミホ憤慨ふんがいした口調で言う。


「殿は貿易で利益を得て、大喜びさ。

 噂によると、莫大な隠し金や、黄金の像、金銀製の燭台、南蛮渡来の宝石をちりばめた王冠などの財宝もあると聞いた」


「金銀財宝?!」


「そんなもんに、近づいてはならぬと言ったはずじゃ!」


 みんな驚くが、老婆ミホは厳しく叱りつけた。


 南蛮貿易は16世紀末頃から17世紀前半、明のマカオを拠点としたマカオ商人、ポルトガル人を中心に営まれ、日中間の代理貿易ともされる。


 中国から日本へは生糸や絹織物、金、陶磁器、硝石、生薬、砂糖などがあった。

 宣教師たちが、布教だけでなく、経済活動もしていたことが分かっている。


「そしてそれを狙う者も現れた」


 老婆ミホは南蛮貿易とそれが引き起こした内部の権力闘争の中で、コレジオの財宝の意味を説明する。

 蒼真そうまたちは今昔を問わず、財宝探トレジャーハンターし屋たちの暗い過去と、隠された財宝を執拗に追い求める彼らの姿を知る。


【デラとの対決!戦いと黙示録】

 蒼真そうまたちの一向をつけて同じくタイムスリップした、悪がしこく、ずるいトレジャーハンターのデラが洞窟の陰でその話を聞いていた。


「おいしい話を聞かせてもらったぞ!

 宝はおれがいただきだ!」


 うす笑いを浮かべながら、4人の前に立ちはだかる。


「もうお前たちに用はない!

 あの世に行ってもらおうか」


 デラが金属探知機から強力な渦電流を発し、蒼真そうまたちを攻撃する。

 強力な磁気が発生し、洞窟がガラガラと大きな音を立てて崩れ始めた。


「くそっ!頭が...」

「もう、マジでたまんないよ!」

「一体どうなってるの?」


 さらに強力な磁気で、頭が割れそうに痛くなり、しびれて蒼真そうまたちはその場に倒れ、4人とも岩場にたたきつけられた。


「これ以上は無理かも...」


 花音かのんが小声でつぶやいた。


 絶体絶命の状況。

 しかし蒼真そうまは目を閉じて心の中で強く「止まれ!」と叫んだ。


 その時、まるで奇跡のように、デラはその場で動きを止めた。

 雲の隙間から降り注ぐ光の結束が地上を照らし、虹色の霧が漂い始め、周囲の時間が停止した。


「やつの武器は金属探知機だよな、そうだ!金属に反応するんだ。

 みんな、スマホ捨てろ!!」


 陽翔はるとが叫び、すかさず、4人はスマホをデラに投げつけた。

 すると強力な渦電流が集中し、デラに向かった。

 ドーンと大きな音がして、デラは黒焦げになり、倒れた。


「くそ!何をやってんだ俺は...。

 あぁ、そういえば今日か。あの日の炎が俺から全てを奪った。

 こんな情けない姿、見られたらどう思うだろうか」

 デラはつぶやく。


 蒼真そうまたちはこの危機的状況を突破し、喜んでいる。


「やった!」

「もう無理かと思った」

「危なかったね...

 どうにかして現代に戻って、みんなにこのことを伝えなきゃ、ヤバいことになるぞ!」


「その前に、放り投げたスマホを拾わなきゃ。

 あ、電源入った!さすがiBornだね」


 花音かのんは安心する。

 そして蒼真そうまの破れたパンツに目を向けた。


「その前に、破れたパンツ直してあげるから、脱いでよ」


「えっ、ここで?マジ恥ずかしいんだけど。やめてよ」


「現代に戻ったらもっと恥ずかしいから!」


 抵抗する蒼真そうま花音かのんが追いかける。


 戦いの中で、デラの動機とコレジオの歴史とのつながりが明らかになった。

 コレジオの財宝にまつわる重要な謎を解き明かしながら、敵との劇的な対決を終えた。

 そして次のエピソードの舞台となる現代への啓示が示される。


 蒼真そうまたちは果たして現代に戻れるのか?

 次回、悪党ラスボス、タイプの本当の目的は何なのか、邪魔な陰謀がついに明らかになる。


(次回予告)

「これ、マジでノーベル賞レベルじゃん!」

 蒼真そうまが仰天したものとは一体、何!?

(続く)

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