エピソード2:タイムスリップ

【トレジャーハンター】

 西の久保公園にあるため池の山手側は木が覆い茂り、ふだん人が足を踏み入れないところだ。

 蒼真そうま陽翔はると楽人らくと花音かのんの4人が謎の文字が刻まれた石を探している。


 潜水服を着て、トレジャーハンターたちが池からその石を引き揚げようとしている。

 金属探知機を使って、何やら探している3人のトレジャーハンターことタイプ、デラ、トンがいた。

 リーダー格のタイプは蒼真そうまらの姿を見つけ、不審に思う。


「お前ら、何してる?

 ここには何もないぞ!あっちへ行ってろ!」


「俺たちは歴史の謎解きに来たんだ。

 あんたらみたいに徳川埋蔵金や天草四郎の金銀財宝探しじゃないし、そんなつもりじゃないんだよ」


 蒼真そうまは疑いをかけられ怒った。


「何?金銀財宝だと?

 お前ら、何か証拠でも、持ってんじゃないだろうな!

 ちょっとこい!」


 タイプは蒼真そうまたちが秘密の古文書を持っていると勘違いし、捕まえようとする。


「やべーな、逃げた方がいいんじゃね?...」


「何やってんですか!触らないで!」


 楽人らくとは首根っこをつかまれ、身の危険を感じる。

 花音かのんも体を触られ、怒った。


「やめろよ!みんな逃げろ!」


 蒼真そうまはタイプに足蹴りをくらわし、逃げようとする。


「てめーら!やっちまえ!」


 タイプが他の2人に指示し、彼らを捕捉しようとする。

 4人は必死で逃げ、大男のトレジャーハンターたちが追う。


 突然、突風が吹き出し、激しく雨が降り始めた。

 ゴロ、ゴロと大地を揺らすほどの激しい稲妻が走る。


 池の中の水が天に吸い上げられ、湖底に大きな穴が空く。

 そして金色の眩しい光を放つ大きな石が現れた。

 驚く蒼真そうま


「またあの時と同じ現象が?!」


 謎の文字が刻まれた石に恐る恐る近づく蒼真そうまたち。

 直径約1メートルで丸い形をしている。


 光を放つ石には何やら不思議な文字が刻まれている。

 縦横約30センチほどの大きさで、アルファベットを組み合わせたような文字で何が書かれているのか分からないが、蒼真そうまたちは荘厳な何かを感じた。


 その文字を手で確認するように、そっとなぞる蒼真そうま

 すると、石が振動し始めた。


「なんか変だぞ・・・」

「こわっ!」

「やばいって!」

「めっちゃ怖い!」


 驚く仲間たち。

 するとドーンと大きな音とともに、プラズマ閃光せんこうが走った。

 4人はその場に倒れ、気を失ってしまった。


【タイムスリップ】

 1601年。

 東シナ海に面した入江。

 港の沖に停泊する南蛮船。


 帆を下ろした黒い船体から船長カピタンだろうか、つばが付いた帽子を被り、首には蛇腹になった円盤状のひだ襟を付け、青い上衣ジバン、丸く膨らみ脚の部分がきゅっとすぼまったズボンの脚衣カルサン、赤色のビロードで作られた長い外套カパを着用し、きらびやかに飾り立てたポルトガル人が従者を伴って降りて来た。


 数艘の小舟には多くの積荷が乗せられ、次々と陸へ下ろされている。

 陸では黒くて長いマントを着用した宣教師たちが待ち受けている。

 貿易品の中には大きな陶磁器製の壺などのほか、中にはおりに入った珍しい鳥獣もいる。


 美麗豪壮な装いの南蛮人たちは整然たる行列で、数々の献上品や貿易品を殿に届けるために城下を歩く。

 町民は見知らぬ異人たちの様子を珍しそうに家の木戸口から覗いている。


 一面の見慣れぬ風景の中で、4人は無防備に倒れていた。

 突然の意識の戻りに、蒼真そうまたちが一斉に起き上がる。


「マジで、ここどこなんだよ…?」


 蒼真そうまの目の前には、ちょんまげを結い、腰に刀を帯びた侍たちが闊歩している奇妙な光景が広がっていた。


「マジかよ…。どうやら俺たち、戦国時代にタイムスリップしちゃったみたいだね。

 たしか南蛮屏風で見たような状況?...」


 陽翔はるとも目を丸くし、信じられない様子だ。


「何んだ、あの光景は?」


 言葉を失う蒼真そうま

 彼が指さす河原では、時空を超えた恐怖が繰り広げられていた。


 一握りの侍が、抵抗することもかなわぬ村人3人の首を斬ろうと、刀を振りかざしている。

 その非情な光景に、異世界の残酷さが彼らの目に焼き付けられる。


 宣教師が慌てて、侍たちに近づき、たどたどしい日本語で質問する。


「どうしたんですか?

 この人たちが何をしたというのですか?」


「この者たちは、許しもなく殿の禁令に背いて、勝手に木材を切り出したゆえ、処刑するのじゃ」


「ちょっと待って下さい。

 知らずにやったことだと思います。

 どうぞ許してやって下さい」


 宣教師は侍に許しを請う。


「ならぬ!拙者の役目ゆえ」


 泣き崩れる村人たちが、異国の宣教師に必死に助けを求めている。

 蒼真そうまは居た堪れずに、その場に近づいて行く。


「宣教師さん、何かいい案ない?

 俺たちも手伝えることがあれば言ってくれよ」


【侍との対決】

 侍が村人たちの首をはねようと刀を大きくふりかざす。


「やめろ!!」


 蒼真そうまたちが叫ぶ。

 複数の侍たちに取り押さえられた。


「なんだ?お前たち。

 変な格好をしておるな。

 お前たちも南蛮から来た異人の仲間か?

 よし!いっしょに成敗してやる!」


 侍が刀を振り上げた瞬間、蒼真そうまは目を閉じて心の中で強く「止まれ!」と叫んだ。

 その時、まるで奇跡のように、侍はその場で動きを止めた。

 雲の隙間から降り注ぐ放射光が地上を照らし、虹色の霧が漂い始め、周囲の時間が停止したかのように見えた。


「えっ!どした?」

「何これ?」

「めっちゃ面白い!」

「今、止まっているよね?

 ウケる!」


 彼ら以外は全て停止している。

 蒼真そうまらはこの状況に驚いているが、しばらくするとまた動き始めた。


 再び、強く「止まれ!」と蒼真そうまが叫んでみる。

 するとまた止まった。

 その動作を繰り返した。


「どういう状況?」

陽翔はると!時を止める能力が身についたのか?蒼真そうま

「タイムスリップして時を操れるようになった?」

「マジで不思議!」

 この現象に驚く蒼真そうまたち。


蒼真そうま、止まっているうちに侍の刀を取り上げちゃおうぜ!」

「よっしゃ!」


 刀を取り上げたまでは良かったが、再び、侍たちに取り押さえられた。

 特殊な能力を身に付けたばかりの蒼真そうまだが、その持続効果はまだ弱かった。


「くそっ!」

「やめろよ!」


 武器を持たない蒼真そうまたちは相手に体当たりし、脛を目がけて足蹴りするなど必死に抵抗する。


「何すんの!マジでやめてよ!いい加減にしてよ!

 もう、こうしてやるから!」

「何をするのじゃ!止めい!」


 花音かのんは侍の脇をくすぐり、気力をそぐ。

 そこへ暗くたちこめた天空に大きな穴が出現し、邪悪な代官が降臨する。

 一瞬の静寂の後、応戦する侍が反撃に出る。

 その腕から放たれる圧倒的な力が蒼真そうまたちを河原へと激しくたたきつけた。


「痛っ!」

蒼真そうま、もう無理!」

「くっそ!」

「よし、またあの不思議な力を使おう!」


 土煙が舞う中、彼らは再び立ち上がり、光と影が交錯する戦場で再び力を結集させる。

 蒼真そうまが操る光の結束は、次第に強大なエネルギーの渦へと変わっていく。


 互いの攻防が激しさを増し、それはまるでギリシャ神話の時代からの戦いのように、壮大で荘厳な光景となった。


「くそっ!お前たちは妖術使いか?

 よし見ておれ!」


 侍はそう言い放ち、その場を逃げ去った。


「やったぜ!」

「やっつけたぞ、俺たち!」


 蒼真そうまたちはハイタッチして喜ぶ。

 宣教師が駆け寄ってくる。


「ありがとうございました。

 でもあなたたちは変な格好をしてますね。言葉も変ですね。

 ここの人たちですか?」


「わかんないけど、なんか昔にタイムスリップしちまった感じだな。

 あの山とか川、なんか見覚えあるんだよね。

 ここにいるの、俺らの先祖かもしれないし」


 蒼真そうまもまだ状況を良く理解できていない様子だ。


「タイムスリップ?って何んですか?魔法ですか?

 しかし、役人たちはまたやってくるでしょう」


 また宣教師も同様に、不思議そうな顔をしている。

 さらに、この時代の状況ついて、蒼真そうまたちに説明をした。


「この地を治めていたいた殿が関ヶ原の戦いに敗れ、短期間のうちに領主が代わってしまい、ここは混乱しています。

 今はシマドノ(志摩殿)が治めています。

 彼は私たちの良き理解者なので、信者の村人たちが許してもらえるように頼んでみます」


 この地に着任したばかりの宣教師と各地を巡察中の一行だった。


 宣教師は言葉を交わすことの難しさを感じつつも、蒼真そうまたちの真剣な眼差しを受け止め、少しずつ信頼を築いていく。

 互いの言語や文化の違いに戸惑いながらも、彼らは共通の目的のために協力し始める。


 この困難な時代を生きる中で、未知の土地で出会った異文化の人々との間に、徐々に友情と理解が芽生えていく。


【謎の古文書】

 高校生の蒼真そうまたちは手書きの古文書や宣教師がスペイン語やポルトガル語で書いた海外の文献史料などを読めるはずもないのだが、蒼真そうまは教師の倉壮くらあきから「今は文字化され、翻訳もされているから大丈夫!」と聞き、タイムスリップする前に史料を色々、調べていた。


「俺たち戦国時代に来ちゃったみたいだけど、この状況、図書館で調べた古文書に記録がなかったな。

 陽翔はると、ネットで調べてみて、何か分かった?」


「調べたけど、未解読の古文書やまだ知られていない情報があるかもしれない。

 英国の大帝国図書館に関連した記録があった気がする」


 今やインターネットの時代。海外の国立図書館などの貴重な史料もデーターベース化が進み、ネットで手軽に探すことができるようになった。

 陽翔はるとは得意のネットを駆使し、情報を集めていた。


「でもこの時代だと、Wi-Fiもないし、スマホも役立たずだよね」


 楽人らくとは落胆する。

 花音かのんがスマホを見て圏外の表示に気づく。


「スマホが使えない!なんで〜!やだ〜!」


「え〜っ!!」っと4人が同時に驚きの声を上げる。


 戦国時代にタイムスリップした蒼真そうまたち。

 石に刻まれた謎の文字や、まだ見ぬ古文書に書かれた秘密とは一体、何なのか。

 また金銀財宝を狙う悪党のトレジャーハンターたちも同時にタイムスリップし、戦いがまさに始まろうとしていた。


(次回予告)

「あれ?おばあちゃん?!」

 洞窟で祈りを捧げている老婆を見て 蒼真そうまは思わず、自分のおばあちゃんに似ていると思い、驚く。

(続く)

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