エピソード5:絆と裏切り

【仲間】

 高校の部室。

 蒼真そうま花音かのんがタイムスリップした時の話で盛り上がっている。


蒼真そうま先輩、あの魔法とか、妖術みたいなの、めちゃくちゃすごかった!

『南総里見八犬伝』に出てくる妖術使いや天草四郎も妖術を使ったって言われてるし・・・」


花音かのん、妖術じゃなくて、もっとかっこいい名前ないかな?

 洋と和がミックスした感じで・・・」


「ネットで検索したら『魔妖術合神』って出てきたんですよ」


「それ、何それ?意味わからん」


 他の仲間たちも大笑いする。

 彼らは冒険を振り返り、共に困難に立ち向かい、仲間意識の高まりを感じていた。


【暴露】

 蒼真そうま花音かのんが仲良く下校している。

 賑やかに井戸端会議をしているおしゃべりな女性たち。


「仲良いですね。あの子たち」

「そうね。でもね、花音かのんちゃんのお母さん亡くなってるんでしょ。

 同じく蒼真そうま君のお父さんも...」


「そうなのよ。他の人に言っちゃだめよ。ここだけの話だけど。

 言っていいのかしら...」

「何かあるんですか?」

「実は...」


 蒼真そうま花音かのんの後をつけて来たトンがこの話を盗み聞きしていた。

 そして蒼真そうまの父親と花音かのんの母親について、秘密の情報を入手する。


「こりゃ、良いこと聞いたぜ...」


 トンはニヤリと笑った。


 日曜日のカラオケ店内。

 蒼真そうまと仲間たちが賑やかに楽しんでいる。

 花音かのんが手洗いから出て来たところに、壁に隠れていたトレジャーハンターのトンが花音かのんに耳打ちする。


「お母さんは元気?」

「あんた誰?急に何の話?」


 花音かのんの母は小学生の頃にすでに亡くなっており、驚いて困惑気味に答える。


「かわいそうにな、あんたのお母ちゃん。

 蒼真そうまのとうちゃんが殺したようなもんだからな。ふふふ・・・」


 トンが意味深に笑う。


 亡くなった母は蒼真そうまの父の元恋人だった。

 その父が別の女性と結婚したため、花音かのんの母は失意のうちに、若くして亡くなったというのだ。


【葛藤】

 花音かのんの部屋。


蒼真そうまのお父さんとお母さんが恋人だったなんて、信じられないよね?」


 母が元気だった時の写真を見つめながら、涙をこぼす。


「お母さん、本当に...」


 母親の悲劇的な運命に起因する蒼真そうまへの複雑な感情が湧き出してきた。

 ベットに横になり、スマホを見た後、天井を見つめる。

 ぬいぐるみを抱えて、イヤホンをつけ、音楽を聴きながら布団をかぶり、感情を抑えられない声で叫ぶ。

 花音かのんの母親について秘密の暴露は、蒼真そうまが父親の行動の予期せぬ結末と格闘することになる。


 翌日、高校の廊下。

 蒼真そうま花音かのんに声をかける。


「やあ!」


「・・・」


 花音かのんは無言で走り出す。


「何かあったのかな?あいつ、いきなりどうしたんだろう」


 蒼真そうまは首をかしげ、戸惑う表情を見せる。

 校内で何度か会っても、いつも無視されてしまう。


 蒼真そうま花音かのんにSNSで理由を尋ねても、「既読」にならない。


「既読スルーされちゃって。

 俺、嫌われたのかな?マジで意味不明だわ」


 花音かのん蒼真そうまのSNSのサムネ画面を見てつぶやく。


「嫌だな、あの人。近づかないで!」


 感受性の高い年頃の彼女にとって、思い詰めて言い放ったこのきつい言葉は、父親もその息子の蒼真そうまも同じようなことをする不潔な男性に思えたのだった。


 花音かのんは怒りながらスマホをベッドに放り投げる。

 最終的に、花音かのん蒼真そうまは部活にも顔を出さなくなってしまった。


【試される友情】

 他の仲間も不審に思い出す。

 花音かのんの葛藤は、グループ内に緊張を生み出した。


 そして友人たちの誤解と摩擦を生む・・・。

 陽翔はるとも相手の蒼真そうまがいないので、しだいに部室から足が遠のいていた。


 楽人らくとは部室で一人。

 孤独と手持ち無沙汰でイライラしていた。


「もういい!郷土部は解散だ!解散!」

 と、大声で叫んだ。


 蒼真そうまと仲間たちは内なる葛藤とトンの策略がもたらす困難に立ち向かわなければならなくなる。

 感情の揺れや対人関係の難しさを乗り越えていく中で、彼らの絆が試される。


【転機】

 スーパーマーケット店内。

 母親が早く亡くなった花音かのんは、食事や家事は小学生のころから彼女の担当だった。

 今夜の献立を悩んでいるところに、蒼真そうまの祖母、ミホがやって来た。


花音かのんちゃん。

 この頃、蒼真そうまが元気なくてね...。

 何かあったの?

 あんたたち、あんなに仲よかったのに。どうしたの?」


「...知らない」


 花音かのんは下を向いてぽつりと話す。


花音かのんちゃん、うちに来て、茶でも飲んでって!

 蒼真そうまはじいちゃんの手伝いで畑に行って留守だから。

 おいで!行こ!」


 渋々、ミホについて行く。


 蒼真そうまの家、縁側でお茶を飲む二人。


「何があったか話してみて。相談に乗るから。

 こう見えても若い時は恋文ラブレターの代筆までやったことがあって、くっつけた事があるくらい恋愛のベテランだよ。

 話してみて」


 花音かのんも苦笑いしながら聞いている。


「実は・・・」


 花音かのんはトンから聞いた母親について、蒼真そうまの父親の行動の予期せぬ結末を話した。


「あ〜、そのこと。

 蒼真そうまの父親も早く亡くなってしまってね。

 息子から聞いてた話だけど・・・」


 ミホが息子の過去について、語り始めた。


 蒼真そうまの父親は若い頃、東京でマスコミの仕事をしていた。

 そこで同郷だった花音かのんの母親と知り合い、二人は恋に落ち、駆け落ちまでして結婚の約束をする。


 しかし、新人でまだ無名の歌手だった彼女は、世界のひのき舞台で活躍したいと言い出し、米国のニューヨークに行ってしまう。


 今のようにケータイも普及しておらず、メールやSNSもない時代のことだ。

 彼女は体調を崩し現地で入院後、住んでいたアパートを引き払う。

 彼も東京で転居を重ねたため、出した手紙はお互い 住所不明で差出人に戻り、音信不通になってしまった。


 彼は、彼女にはニューヨークで好きな男性が出来たに違いないと思うようになり、アルコールに溺れる。

 自暴自棄になり、仕事も手につかなくなって、職を転々とする。


(再現シーン)

 東京の新橋、カード下の居酒屋でやけ酒を飲む蒼真そうまの父。


「あいつなんかどうせ別の男と...チキショウ!」


 大声で叫んで、テーブルを叩いた後、椅子から転げ落ちた。


「落ちるところまで、落ちたもんだ...」


 へべれけになって、つぶやく。

 愛情と憎悪は裏腹で、恨んではみたものの、好きだという彼女に対する正直な気持ちは変わらなかったが、月日があまりにも経過してしまい、もうどうにもならない、彼女のことは諦めるしかないと思った。


 そしてとうとう、東京での生活に辟易してこの島へ帰郷してしまった。

 その後、別の女性と結婚し、蒼真そうまが生まれた。


 一方、彼女は夢を果たそうとニューヨークへ渡ったものの、チャンスをなかなか掴めない。

 生活費を稼ぐためにバーでダンサーなどをしてるうちに、無理がたたったのか体調を崩し、活動をあきらめ帰国した。

 この島に帰った後、他の男性と結婚するが、花音かのんを生んだ後に、不治の病に倒れた。


(再現シーン)

 花音かのんの自宅台所。

 幼い花音かのんに母がお米の炊き方を教えている。


「こうやって手のくるぶしのところまでお水を入れるのよ」


 幼い花音かのんはモミジみたいな手のひらを冷たい水に浸ける。


「ここまで?」

「そうよ、うまく炊けるといいね」

「うん、お母さん!」


「お味噌汁も作ろっか」

「うん」


 二人はキッチンで肩を並べ、笑顔で料理をしていた。

 キッチンの窓から差し込む夕日が、笑い声に色を加え、温かな雰囲気を作り出していた。

 幸せな瞬間が永遠に続くかのように感じられた。


 しかし、幸せはそう長くは続かなかった。

 母が突然倒れ、病院での検査の結果、治る見込みのない病であると告げられた。

 医師からの宣告は残酷で、母には残された時間がわずか半年しかないという。


 かつてのようにキッチンで肩を並べるが、今は涙を隠しながら、母は強く微笑み、残された時間を最大限に生きることを誓い、幼い娘に料理を教えたのだった。


 母の病室。

 病室で母の最期を看取る幼い花音かのん


「料理、上手になった?」

「うん。おとうさん、おいしいっていってくれる!」


「良かった」


 花音かのんを見つめ、微笑む。

 笑顔の裏には、愛する家族に対する深い愛情と、訪れる別れの寂しさが隠されていた。


 母は花音かのんの手を優しく握りしめ、その温もりを感じていた。

 外は静かに雨が降り始め、窓の外の譲葉ゆずりはの木がしっとりと濡れている。

 部屋は静寂に包まれ、ただ母の声だけが穏やかに響く。


花音かのん、ハンバーグとお味噌汁の作り方、ちゃんと覚えた?

 一人でもしっかり生きていけるように、お母さんが教えたのよ。


 大人になったら、素敵な人を見つけてね。そしてお母さんの分まで、たくさん幸せになって。

 天国からずっと見守っているから...」


 そう言い残し、帰らぬ人となった。

 母の手の力がゆっくりと弱まっていく。

 花音かのんは母の手を強く握り返し、涙が頬を伝って落ちた。


「死んじゃ、やだ!母さん!母さん!...」


 泣き崩れる花音かのん

 病室の窓外の譲葉ゆずりはの木から最後の一葉が静かに風に舞い、ゆっくりと地面に落ち、静寂が空間を満たした。


 蒼真そうまの自宅縁側。

 ミホは長い間封印されていた古ぼけた木箱を持ってきた。

 花音かのんはその箱を見つめ、何か重大な秘密が隠されているような気がして、少し胸がざわついた。

 ミホは箱から一枚の手紙を取り出し、花音かのんに差し出した。


「読んでごらん」


 手紙は息子が花音かのんの母に宛てたものだが、ポストに投函するのを躊躇ためらったのだろうか、亡くなった後、遺品整理をしていて見つけた。


 それには亡くなった彼の筆跡で、愛と苦悩が混じり合った感情が綴られていた。

 彼の言葉からは、愛しているが故の葛藤と、結ばれることのできない切なさが伝わってきた。


(手紙)

 美しき薔薇も、やがては枯れ朽ち果てる運命にある。

 君の優しい微笑みも、時が経てば消え去ってしまうだろう。

 恋の激しい炎を消し去るもの、それは死のみ。


 かつて共に観た映画「ロミオとジュリエット」のDVDを手に取り、結ばれることのなかった二人の姿に自らを重ね、涙を流した。


 帰国後、君がコンサートを開いたことを後に知った。

 もしそのことを知っていれば、会いに行くこともできただろうに。その縁がなかったことを悔やんでやまない。

 そして僕らは、放物線の軌跡のように、二度とこの世で結ばれることはないのだと、己に言い聞かせたのだ・・・。


 ::::::::::::::::::::


 その後も彼女がこの島に戻って来たという噂を彼は耳にしたが、ぎくしゃくした関係は二度と戻らず、再会する事はなかった。


 花音かのんは手紙を読み進めるうちに、彼女の心に深く刺さり、涙がこぼれ落ちた。

 ミホはそっと花音の肩に手を置き、優しく語りかける。


「お互い好き同士でも、結婚できないこともあるのよ...」


 花音かのんは話を聞いて涙ぐんでいた。

 ミホの温かな手の感触を通じて、その言葉の重みを感じ取り、少しずつ心の整理がつき始めた。


「そんなことがあったんだね…」


 わだかまりが解け、花音かのんは少し元気を取り戻した。

 部屋には夕日が差し込み、その温もりが花音かのんとミホを優しく包み込む。


 ミホが畑から帰ってきた蒼真そうまを迎えた。


「お帰り蒼真そうま!」


 蒼真そうまの瞳を見つめる花音かのん


「ごめんね。蒼真そうま


 花音かのんが謝罪すると、蒼真そうまは最初、何があったのか理解できずに、ぽかんとしていたが、涙を流す花音かのんを見てすぐにうなずいた。

 蒼真そうまはミホから父と花音かのんの母の愛の物語を聞いて、それまでの葛藤が静かに晴れていくのを感じた。


「愛って、終わりなき信頼だよね」


「母とあなたの父の間の愛、全部受け止める。

 それが私にどんな意味を持つか、これから見つけていく」


 花音かのんは母と彼の間に存在した複雑な愛の物語を受け入れ、その経験が自らの人生にどのような意味を持つのかを考え始めた。

 そして花音かのんにとって新たな理解と受容の一歩となる。


「大人になったら、素敵な人を見つけてね。そしてお母さんの分まで、たくさん幸せになって。

 天国からずっと見守っているから...」


 母が亡くなる前に語った言葉を思い出した。


「愛はどんな状況でも相手を信じ続けること。

 私も母さんの分まで幸せになれるかな?」


 花音かのんはゆっくり涙を拭い、蒼真そうまの目を見つめる。

 彼はうなずき、優しく彼女の手を握った。


 乗り越えた全ての試練は、彼らの理解を深め、言葉を越えた信頼を育てた。

 二人の絆は、かつてないほどに深まっていた。


 目の前の困難を解決したことで、その繋がりはもはや揺るぎないものとなり、心からの愛情が静かに交わされた。

 また、同時に新たな謎やジレンマが始まろうとしていた。


(次回予告)

 いよいよ、悪党のトレジャーハンターたちとクライマックスバトルを繰り広げることになる。

 悪党が放つ雷の矛先は蒼真そうまたちに向い、その衝撃は凄まじく、ドーンと激しく吹き飛んだ。


「マジでヤバい事態だよ!」

「もうダメかもしれない...」


(続く)

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