エピソード10:解き放たれた財宝

【襲撃】

 部屋は薄暗く、壁にはルネサンス期の宗教画や意味不明の文字が刻まれており、時間が止まったかのような静寂が漂う。


 蒼真そうまは壺をそっと持ち上げ、その重さと冷たさを感じながら、仲間たちに向かって笑顔で勝利を宣言する。


「宝の入った壺だ!」

「早く開けようぜ!」

「ちょっと怖いな...」


 楽人らくとが開封を促すが、花音かのんは心配そうだ。


 しかし、その喜びも束の間、突如として部屋の扉が勢いよく開かれた。

 タイプとその手下たちが、冷たい笑みを浮かべながら入って来た。


「おーっと、残念だったな。

 その壺はいただこうか!」


 タイプは冷酷に命じる。

 蒼真そうまは不意をつかれ一瞬、躊躇するが、すぐに決意の表情を浮かべ、仲間たちとともに壺を守るための態勢を整える。


「渡さないよ!」


 緊張感が部屋に充満し、一触即発の雰囲気になった。

 タイプの手下たちが先に動き、蒼真そうまたちに襲い掛かる。


 蒼真そうまは壺を抱えながらも、敵の一撃を巧みにかわし、反撃に転じる。

 その間、彼の仲間たちも敵を撃退しようと奮闘する。

 しかし、悪党たちの襲撃に対し、激しく抵抗する蒼真そうまたちを払い退けて、奪い去って行く。


「マジかよ!せっかく見つけたのにさ...」


 蒼真そうまたちが一旦がっかりして床にへたり込む中、陽翔はるとが部屋の隅にぽつんと残された木箱に気づく。

 彼は厚く積もった埃を払うと、木箱の隙間から光彩が漏れてきた。そして板を開けると、中からは見事な色彩の壺が現れ、彼の顔が驚きで明るく輝く。


「おい、待ってよ。これすごい壺だぞ!」


 陽翔はるとが興奮して叫ぶ。


「あの『華南三彩貼花唐草文五耳壷』(かなんさんさいちょうかからくさもんごじつぼ)ってやつだろ!」


 蒼真そうまは驚愕の表情でつぶやく。

 壺は鮮やかな色彩で、花や葉が見事に描かれており、その美しさに二人はしばし言葉を失う。


 その後、二人の表情が徐々にニヤリと変わる。

 陽翔はるとがにっこりと笑いながら、


「あいつら、普通の壺を奪って来たと思ってるんじゃないかな。

 後悔してるはずだよ、今頃」


 蒼真そうまも笑みをこぼしながら立ち上がる。


「まじで?ラッキーじゃん!」


 喜びを爆発さる。

 彼は壺を軽く抱え、陽翔はるとと共に部屋を出る準備をする。


「でも、次に会った時の顔、見てみたいよな!」


 蒼真そうまが茶化すように言い、壺を持って部屋を出て行く。


【ジレンマ】

 コレジオ遺跡で壺を手に入れた蒼真そうまたちだが、その中身についての道徳的な疑問を抱く。

 そして蒼真そうまが壺の使い方について議論を始めた。


「もし、中に本当に金や銀の財宝があったらどうしよう?

 俺たちが持ってても...すごいことになるな...」


「ヤバいぞ!金持ちになっちまうぞ!

 どう使う?何に使う?億万長者の俺たち!」


楽人らくと、それよりも、その財宝が危ないことの方が気になるぜ。

 手に入れても、どう使うかは後から考えるべきだろう」

 と、陽翔はるとが心配する。


「そうだよね、リスクとリターンっていつもセットだもんね。

 ちょっとおばあちゃんに相談してみない?」


 花音かのんは危険も伴うし、洞窟にいる老婆ミホにも相談した方が良いと提案する。

 彼らは洞窟に行き、老婆ミホに相談を持ちかける。


「隠された財宝かもしれんが、今開けると、歴史が狂ってしまう、開けてはならぬ。

 また、意図があって隠したんじゃろ。

 ましてや、お前たちが巨万の富など持っても、ろくな事はないはずじゃ」


 老婆ミホは、壺の中身に関する歴史的背景と問題、道徳的ジレンマを説明する。

 そして、過去の歴史を改変することによって生じる逆説の危険を教えたのだ。


「お前たちの時代で開けろ。必ずじゃ」


 蒼真そうま老婆ミホからの助言を受け入れ、財宝を保護しながら、歴史を守ることに決意する。


【最終対決】

「叙事詩:大天使ジュエルが加勢し、神の民の勝利の章」

(ヨハネの黙示録12・7~12

 天で戦いが起こった。ミカエルとその使いたちが、龍に戦いを挑んだのである。龍とその使いたちも応戦したが、勝てなかった。そして、もはや天には彼らの居場所がなくなった。


 この巨大な龍、年を経た蛇、悪魔とかサタンとか呼ばれるもの、全人類を惑わす者は、投げ落とされた。地上に投げ落とされたのである。その使いたちも、もろともに投げ落とされた。=後略=)


 蒼真そうまらはコレジオの遺跡に再び戻ると、タイプら悪党らが突如として再び、現れた。

 そして彼の声が響き渡る。


「くそっ!よくも俺たちに偽物の壷を渡しやがったな!

 そこにある宝の入った壷を渡せ!さもなくば・・・」

「は?そっちが勝手に盗んだくせに、何言ってんの?」


「つべこべ言わずに宝を渡せ!


 おう、久しぶりじゃないか裏切り者のデラ。

 随分と仲良さそうじゃないか。

 そんなお前には冥土の土産に良いことを教えてやろう。


 お前の家に放火したのはこの俺だ!」


「い、今、何て言った?!」

「俺が放火したと言ってんだ!」

「何だと!!」

 デラは耳を疑った。


「お前は俺に魂を売らなかった。

 だからお前から守るべきものを奪い、闇に落としてやった。

 心置きなく俺に忠誠心を捧げるようにな」


 デラはあまりの衝撃に声も出せず、膝から崩れ落ちた。

 タイプは不遜な笑いを浮かべて「ふふふ」と笑っている。

「俺を裏切ったバチが当たったな。

 裏切らなければ、知らずに済んだのに」


「お、お前がやったのか...。

 貴様ってやつは、どこまで畜生なんだ...」

 その瞬間、デラからあふれんばかりの涙が込み上げてきた。


 「そ、そんなことが...。

 何て奴だよ!許せない!」

 蒼真そうま花音かのんも驚きを隠せず、怒りに燃えた。

 蒼真そうまが拳を握りしめる。


「デラ...」

 花音かのんの声は震えていた。


 蒼真そうまは立ち上がり、

「デラから大切なものを奪ったお前を絶対に許さない!今ここで決着をつけてやる!」


 タイプはさらに嘲笑し、構えを取る。

「やってみろ、きさまらもデラのガキと同じ墓に葬ってやる」


 激しい感情がぶつかり合う中、蒼真そうま花音かのんも立ち上がり、デラの隣に立った。

「俺たちも一緒だ、デラ!」

「そうだよ、デラ!私たちがついてる!」

 花音かのんも力強く応援する。


 その場の緊張感は頂点に達し、戦いの火蓋が切って落とされた。


「ざめくな!え〜い、最終戦争だ!」

(呪文)

「邪悪の守護者、現れいでよ!恐怖の赤龍!地上に降り立て!」


 タイプの使う黒呪術ブラックマジックで最強の魔法の守護者を放った。

 その言葉と共に、空から轟音が響き渡り、一つの巨大な影が現れる。


 空が赤く染まり、7つの恐ろしい頭を持つ巨大な赤龍(悪魔)が地上に降り立つ。

 その姿は壮絶で、各頭からは火炎と噴煙が噴き出し、その怒りが天地を揺るがし、蒼真そうまたちに対して攻撃を仕掛ける。


 天から火球が次々に降り注ぐ。

 周囲の人々はこの突然の天変地異に恐怖し、逃げ惑う。

 地域一帯はまさに混乱の極みに達した。


 しかし、蒼真そうまは落ち着きを保ち、老婆ミホから習った白呪術ホワイトマジックの特別な呪文を唱え、封印を解いた。


(呪文)

「邪念を去り、悪想を払い、凝固を解け!

 生死を離れて、永遠の生命に帰一きいつするものなり。

 来たれよ!大天使ジュエル様!」


 彼の声が響くと、天から光が降り注ぎ、大天使ジュエルと無数の天使たちが現れた。

 今富村の山頂のほこらまつられていた守護神の真の姿だろうか。

 彼らは美しく、しかし戦う準備が整った勇ましい姿で現れ出でて、蒼真そうまたちに加勢する。


 ジュエルはその光り輝く槍を持ち、赤龍の中央の頭目に向かって一直線に飛んだ。


 空中での戦いは激しく、ジュエルの槍が赤龍の頭を突き刺す。

 一方、他の天使たちは弓矢や剣で赤龍の他の頭を攻撃し、熾烈な戦闘が展開された。


 地上では、蒼真そうまとその仲間たちは団結し、タイプとの決戦に挑む。

 彼らは各自の力を最大限に発揮し、魔法や武器を駆使して敵に立ち向かった。


 戦いの最中、地上では地面が割れ、重力が逆転するかのように岩や小石が宙に舞い上がる。

 さらに、天からは無数の火球が降り注ぎ、赤龍を焼き尽くすように襲い掛かった。


 最終的に、大天使ジュエルと天使たちの助けを借りて、蒼真そうまたちは赤龍を退け、タイプとその手下たちを打ち破り、タイプは敗北した。


 戦いが終わると、天は再び静けさを取り戻し、地上の傷も癒え始める。

 蒼真そうまは壺を抱え、仲間たちと共に勝利の喜びを分かち合う。


「マジで地球の終わりかと思った」

「めっちゃ怖くてもう無理かと思った」


 蒼真そうま花音かのんはあまりの凄まじい状況に驚く。

 そして彼らは壺を守り抜いたことに満足し、未来への希望を新たにする。


 その光景は、英雄的で、感動的なものであり、蒼真そうまたちの団結と勇気の証となった。


【結束と成長】

 戦いの後、勝利と平和が訪れた。

 静けさが戻ったコレジオ遺跡で、蒼真そうまと仲間たちは一緒に座り込んでいる。

 また、その場にはトレジャーハンターから転向したデラの姿もあった。

 彼は蒼真そうまたちを陰ながら支え、励ましてきたのだった。


「タイプをやつけて、やっと俺の気持ちも晴れたよ。

 放火した犯人も分かったし、亡くなった息子へ報告ができる...」

 デラは嗚咽を堪えきれずに泣いていた。


 そして、彼らの表情には疲れと同時に、大きな安堵感が広がっていた。彼らは一人ひとりが自分の思いを語り始め、共に困難を乗り越えたことで絆がさらに深まる。


「もうだめかと思ったよ。

 本当にみんな、ありがとう。一緒に戦ってくれて...」


 蒼真そうまが言葉を選びながら、仲間たち一人ひとりの目を見た。

 彼らもまた、感謝の気持ちを述べ、お互いを認め合う言葉を交わす。

 この経験が彼らをただの友達から、まるで家族のような存在へと変えたのだった。


「みんなでセルフィーしようよ!」

「いいね!勝利の記念に」

「この瞬間を、記憶を忘れないように!」

「オッケー!」と言って、花音かのんは仲間たちや宣教師、一緒に戦ったデラたちと共に、スマホでパシャリとカメラに収めた。


 その後、蒼真そうまたちは老婆ミホの元へと足を運ぶ。

 老婆ミホは洞窟で彼らの無事を祈っていた。

 そして優しい微笑みで迎え、一人ひとりを抱きしめた。


「おまえたちが無事で本当に良かった」


 目に涙を浮かべながら言う。

 老婆ミホ蒼真そうまに近づき、彼の手を取る。


「おまえたちはこれからも多くの困難に直面するかもしれないけれど、今のおまえたちならきっと乗り越えられる」


 と、語りかける。

 彼女の言葉には深い信頼と愛情が込められており、蒼真そうまの目からも涙がこぼれ落ちた。


「おばあちゃん、俺はおばあちゃんから学んだことを忘れないよ。

 これからも、仲間と一緒に財宝を守って、正しいことに使うからね」

 と、蒼真そうまは固く誓う。


「わしの時間はもう長くないけれど、おまえたちの未来は明るい。

 わしは心からおまえたたちを信じている」


 老婆ミホは彼の頭を優しく撫で、微笑む。

 洞窟で老婆ミホとの別れの後、蒼真そうまたちはコレジオ遺跡を静かに後にする。


 彼らの背中には夕日が優しく降り注ぎ、現代に帰還する新たな旅立ちを暗示していた。

 蒼真そうまは深く息を吸い込み、仲間たちを見回しながら、力強く言い放った。


「さあ、行こう。これからも、一緒に!」


 彼らはそれぞれの成長を感じながら、未来に向かって歩き出した。

 この瞬間、蒼真そうまたちはただの少年、少女から、大きな責任を背負う若者へと成長していた。


(次回予告)

 コレジオの遺跡と、金銀財宝を発見した蒼真そうまたちだが、驚きの真実が判明する。

「宝を開けてみよう!」

「オーケー、行くよー!」


(続く)

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