エピソード11:贖罪と終結
【転向と犠牲】
夕暮れの空の下、敗れたタイプは傷つきながらも、森の中をひたすらに逃げる。
彼の顔は苦痛で歪み、その目にはこれまでの人生が走馬灯のように駆け巡る。
タイプは戦後最大の倒産と言われた銀行のオーナーの息子で、倒産前は数十兆円の資産を持っていた。
都内の一等地にあった自宅は外塀が約3キロメートルにも及ぶ、大きな豪邸に住み、自家用ジェット機で海外旅行を楽しんだり、高価なブランド品を身にまとい、運転手付きの外国製高級乗用車での送迎など贅沢三昧の日々だった。
しかし、父が事業に失敗した後は父母の離婚、満足な食事もできないほど極貧の生活に陥る。これまで付き合いがあった人々も羽振りが悪くなると、みな去って行った。
ホームレスになり、公園や橋の下に寝泊まりし、ゴミ箱をあさり食べ物を探した。
まさに天国と地獄を見にしみて味わった。
その後の彼の人生は金と権力への執着と追求が彼の生きがいであり、同時に彼を狂わせ、苦しめる枷でもあった。
タイプは倒れ込むようにして一本の木の下に座り込むと、自分の手に握りしめたパンを見つめる。それは彼が最後に手に入れた唯一の食べ物で、その象徴性に彼は苦笑する。
「たとえ、金や権力に満たされたとしても所詮、死ぬときはこのパン1個かよ。惨めなもんだ。
誰も悲しんでくれやしねえ」
タイプの声は震え、それは彼自身の孤独と虚無を突き付けるものだった。
「皮肉なもんだ。何が幸せなのか、やっと分かったよ」
彼は静かに目を閉じ、心の中でこれまでの人生を見つめ直す。
仲間のトンはすでに行方をくらまし、デラには裏切られた。
かつて、海底の沈没船から金銀財宝を探し当てたが、その分配を巡って仲間割れが起きた。タイプは、デラが大量の財宝を持ち逃げしたと勘違いし、空き巣に入ったが、そこに財宝はなく、証拠を隠滅するために家に放火したのだった。
「結果的にあいつの息子まで殺しちまった。
済まないことをしてしまった...」
彼が犯してきた過ち、失った繋がり、そして真の幸せが何かについて。
その瞬間、彼は本当の意味での解放を感じるのだった。
「ごめんよデラ。でも今更、許されるはずもないよな。
財宝なんかくれてやる。
本当に欲しかったものはお金なんかじゃなかったのかもな」
と、彼はつぶやき、その言葉と共に彼の身体が徐々に透明になっていくのを感じた。
タイプの姿は陽炎のように揺らぎ、やがて完全に消え去る。
彼の最後の瞬間は、自らの過ちを認め、償いをするという究極の犠牲を伴った。
周囲はすっかり暗くなり、木々は静かにそよぐ。
タイプがいた場所には、ただ一片の風が通り過ぎるだけ。
彼の存在がこの世から消え去ったことを、自然が優しく受け入れるかのように。
タイプの人生は悲劇的でありながら、彼の最後の行動は、彼自身の救済であり、彼の魂の解放を告げる静かな光景となった。
【旅の終わり】
池のほとり。
夕焼けが空を染める中、
村人が礼拝石として拝んでいるこの石。実は、未来から来た人々が持ってきたと言われる「不思議な石」だった。
村人たちが集まって来た。
彼らの顔には、別れの寂しさが浮かんでいる。
宣教師が前に出て、手を合わせて祈る。
「未来の世界がもっと平和で自由な場所になることを祈ります」
彼の声は揺るぎなく、希望に満ちている。
「この経験は絶対に忘れない!」
彼の言葉は決意に満ち、未来への約束のように響く。
「みんな、元気でいてね!」
その声はやさしく、まるで遠く離れても心はつながっていることを確認するかのようだ。
そして、
「お前たちは未来から来たと言ってたが、ほんとに帰っちゃうのかい?」
その声は震えており、別れの重さを感じさせた。
「さよなら、おばあちゃん!
また会いに来るよ。だから長生きしてね」
永遠の別れではないようにと願い、深く頭を下げた。
彼の声は感謝と愛情に満ちており、それが
タイムスリップが始まると、村人たちの姿が徐々に霞み、風景も陽炎のように揺れ動く。
背後で村人たちの姿が完全に消えると、
別れの瞬間、村全体がゆっくりと消え去り、
その背中には、過去の思い出と共に未来への新たな希望が背負われているのだ。
この感動的な別れは、彼らの心に永遠に刻まれた。
現代。
暗く重たい闇の中から突然、眩しいほどの閃光が走る。
地面に強く、叩きつけられた様な衝撃。
西の久保公園にある池の側に倒れている。
はっと気がつき、起き上がる
現在の世界へ帰還した。
随分時間が経過した様に感じるが、不思議な事に現実世界は最初のタイムスリップした時と同じ日付だった。
【財宝の真実】
高校の部屋。
コレジオの遺跡調査から宝の壺を発見した
大きな中国製の壺を見て、金銀財宝が沢山詰まっているだろうとみんなの期待が高まり、興奮気味だ。
「凄いものを発見したな!
コレジオの場所を発見しただけでも世界史的な大発見だ!
しかも遺跡からこんな宝物まで見つけるなんて!」
と、
「マスコミへの記者発表前に、壺の中身を今ここで、確認しようじゃないか。
よし!俺が号令を掛けるぞ」
「3、2、1、開けてみよう!」
「オーケー、行くよー!」
固唾を呑んで見守る中、大事に封印された壺の蓋を
「せーの!やったー!」
「いてててて・・・」
あたり一面に大量の香辛料が広がる。
中には金銀財宝ではなく、豊富な香辛料が入っていることが明らかになる。
「えっ?金銀財宝は?」
「おい、これ、なに?
「マジかよ!」
「これはだな...中世ヨーロッパでは香辛料は大変珍しく、貴重なものだったんだ。
肉や魚を長期保存するには欠かせないもので、アジア、インドから遠くヨーロッパまで運ばれた。
王侯貴族の間では貴金属のように献上品としてやり取りされたらしい。
これが本当の宝だったんだね!」
金銀財宝と言った時、不思議な顔をして、彼らの顔を覗き込んだのだ。
(回想)
「殿も宝物のように大切にしています」
「宝物?!金銀財宝のこと?
発見までもうすぐだ!」
「どうかしましたか?
金銀財宝って何ですか?」
「つまり、コレジオを長崎に移す時に、貴重なものは全部持って行っちゃって、ここにはもう何も残ってないんじゃないの?!」
期待していたはずの
「今はさ、胡椒は簡単に手に入るけどね。
でもこれが宝っていうの?ちょっとガッカリかな〜!」
一堂、意外な結末に大笑いする。
「君たちの調査で新たに発見されたものや、この貴重な体験こそが宝なんだよ。
人生に無駄なものなんて一つもないんだ」
と、
【海の記憶】
財宝の真実が判明し、過去の宣教師との関連も明らかになる。
「1601年の報告書を書いた宣教師は、1606年に帰国の途中、難破して命を落とした。
近年、その難破船を調査したところ、これと同じ壺が大量に発見された。
当時の主な積荷が黒コショウの実で、難破した船から大量に流れ出て、海は絨毯のように敷き詰められた。それを住民がこぞって回収したと記録にあるんだよ」
古文書を書いた宣教師と財宝が沈んだという事実。
海底での調査や、宣教師の過去を示す資料があり、財宝の真相が語られる。
宣教師のフランシスコ・ロドリゲス神父は1601年のイエズス会年報に
1606年、帰国の途中でポルトガルのリスボン近郊のテージョ川河口で難破し、命を落とした。
その沈没したポルトガル船「ノッサ・セニョーラ・ドス・マルティネス」号を1996年から2001年にかけて調査したところ、「華南三彩貼花唐草文五耳壷」(かなんさんさいちょうかからくさもんごじつぼ)の破片が多数、発見された。
【誓い】
夕暮れの教室で、
周囲は静かで、ただ彼らの呼吸と葉擦れの音だけが聞こえる。
彼らの顔には冒険の疲れと達成感が同居していた。
(回想シーン)
宣教師が穏やかに言う。
「未来の世界がもっと平和で自由な場所になることを祈ります。」
彼の言葉が風に乗り、遠くへと広がって行く。
「この経験は絶対に忘れない!」
彼の言葉は決意に満ちており、未来への強い誓いとなる。
ナミエが彼らに近づき、優しく問いかけた。
「これからどうするの?」
「俺はもっと歴史について学びたい。
あんな体験ができたんだから、未来にどう活かすか、真剣に考えるよ。」
「音楽で人々をつなげる。それが俺の夢だ。
この経験が教えてくれたのは、言葉を超えたつながりの大切さだ。」
「私はみんなを支えることができる医師になる。
この旅で得た強さを、これからの人生で生かしていきたい。」
「俺は...まぁいいや。とりあえず、家に帰ろう。
じいちゃん、ばあちゃん、心配してるだろうし。
また集まって騒ごうぜ、みんな!」
彼の声は希望で溢れ、再会を約束するものだ。
彼らはハイタッチを交わし、その場を離れた。
一人ずつがその強い絆と共に未来への一歩を踏み出していく姿は、
風が彼らの言葉を運び、その誓いが空へと昇っていくようだ。
彼らがそれぞれの家へと急ぐ背中を見送る中、ナミエはほほ笑みながらつぶやく。
「成長したね、みんな」
彼女の目からはうれし涙がこぼれ、彼らの未来がきっと明るいものになるという確信に満ちている。
夕日に照らされた丘。
彼らの冒険が新たな章へと続いていくことを感じさせる。
(次回予告)
いよいよ感動の最終話。
「俺たちがあの時に体験した戦いじゃなくね?!」
「みんなでセルフィーした写真が確か、スマホに...」
(続く)
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