第4話
ピッピッピッ——心電図のモニターの音が聞こえる。
目を開けると、明美が「お母さん!」と叫び、続けてナースコールを押して「母が目を覚ましました!」と叫んでいるのが見えた。『明美、落ち着きなさいよ……』声が声にならない。
道子は心筋梗塞を起こし、家の中で倒れていたところを発見され、病院に運ばれたのだ。後日、自分が助けられた際の不思議な話を聞く。嵐の日の翌朝、地域の清掃活動をしていた親子が道子を発見したのだという。
「うちの娘、双子なんですけど、二人が変なことを言ったんです。
『私達とお揃いの帽子を被った子達がね、〈みっちゃんを助けて。こっちに来て〉って言ってるの。ママ、一緒に来て』
って。娘二人が真剣に言うものだから、付いて行ったんです。そしたら、掃き出し窓の近くで女性が倒れているのが見えて、玄関が開いていたので入って、救急車を呼んだんです」
その親子は、道子が編んだオレンジ色のニット帽を被っていた。
医師によると、倒れてすぐ救急車が到着し、応急処置ができたから、後遺症もなく助かったのだそう。独り暮らしのお宅で、こんなに早急に対処ができたのは奇跡だと言われた。
『キヨちゃん達が知らせて助けてくれたんだね。私はもう少し生きろって』
それから数か月後、道子は明美の説得に応じ、東京に移り住むことになった。心臓に負担をかけぬよう、まだ寒い日の外出や歩行は禁止されていて、車いす移動の道子は、あの日から参拝が適わなかった。今日はここで暮らす最後の日だ。どうしても参拝したかった。明美に車いすを押してもらい、お墓参りに行く。
六地蔵に手を合わせ、水子地蔵のもとへ行く。あの日のニット帽を被ったまま、静かに佇んでいた。
「キヨちゃん、テルちゃん、ヨシ兄ちゃん、明日から東京で暮らします。ここにはもう来られなくなるけど、私が残された人生を全うするまで、もう少し見守っていて下さいね」
それに応えるように青く澄んだ空をトンビがピーヒョロロと頭上で何度も旋回した。かすかにお地蔵様が微笑んだように見えた。
了
ニット帽の縁つなぎ いしも・ともり @ishimotomori
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