第9話

13場

〇とある神社・境内・夜

境内で待つ妖のもとに現れる成田と明里

神妙な面持ちの明里、手にはタピオカミルクティーを持っている

成田はそわそわとして落ち着かない様子で周囲をきょろきょろろ見回している

成田のリュックの中には布にくるまれた銅鏡が入っている

妖、二人が近づいてきたことに気が付き声をかける


妖 「おぉ持ってきたか」

明里「うん」

妖 「(成田に向かって)お前か、手伝ってくれた男というのは」

成田「あ、どうも。成田って言います。色々と聞いてみたいことがあ…」

妖 「(遮って)巻き込んで悪かったな。(明里に向かって)さて、依代を見せてもらおうか」


取り合ってもらえず、シュンとする成田

明里「その前に、はい」


明里、手に持っていたタピオカを妖に手渡す


妖 「(とても嬉しそうに)おぉタピオカじゃないか! いいのか?」

明里「うん」

妖 「気が利くじゃないか。いったいどういう風の吹き回しだ?」

明里「これで最後だなぁって思って。餞別かな」

妖 「そうか、餞別か。じゃあ遠慮なく」


妖、タピオカを飲む


妖 「(嬉しそうに)んん? これは今までのとは違うところのやつだな。これはこれで美味いぞ…!」

明里「(嬉しそうに)ちょっといいところにしてみたんだ」

妖 「そうかそうか。これでしばらく飲み納めかと思うとしっかり味わわないとと思うが、止まらないな」

明里「ふふ、そんなに気に入ったなら、またお供えにきてあげるよ」

妖 「あぁ覚えていたらな。(切り替えて)さぁ本題に入ろうじゃないか。儀式に向かう前に依り代を確認させてもらおうか?」

明里「はい」


明里と成田、目を合わせうなずく

成田、リュックから布にくるまれた銅鏡を取り出し、明里に手渡す

受け取った明里はもう一度成田と視線を合わせ、深呼吸してから妖へ手渡す

銅鏡を受け取る妖、手にあるタピオカを明里に渡してから、ゆっくりと丁寧に布を開けていく

露になった銅鏡をまじまじと見つめる


妖 「なんだこれは? これも餞別か?」

明里「なにって依り代でしょ?」

妖 「違う。これは依り代じゃない」

成田「ええ!?」

妖 「いや、なにかの依り代だったのかもしれないが、これは"王"の依り代ではない」

妖、明里に銅鏡を突き返す


明里「これじゃないって…」

妖 「(冷静に)とにかくもう時間がない。夜が明けるまでに"王"の依り代をもって儀式の場所にもってくるんだ。私はそこで待っている。」


言葉の出てこない明里

その様子を見た成田が代わりに話を進めることに


成田「その儀式の場所って?」

妖 「墓だ」


成田も考え込んでしまい言葉が出てこない


妖 「(見かねた様子で)王の墓」

成田「王の墓…古墳のこと? 一口に古墳といっても、この辺たくさんあるんだけど」

妖 「最近になって墓の上に神社を立てたところの近くだ」

成田「三吉神社のことかな? とすると、王の墓は西谷古墳か」

妖 「まったく不届きなやつもいたもんだ。私はそこで儀式の準備をして待っている。今晩がリミットだ。夜が明けるまでに"王"の依り代を持って必ず来るんだ」


妖、いなくなる

明里、階段に座りうなだれる

明里「これじゃなかったなんて…」

成田「明里さんごめん。」

明里「ううん。成田君が謝ることじゃないから…けど夜明けまでって…どうしよう…(虚空に向かって)それに王の依り代ってなんなのよ! これじゃダメなの!?」


再びうなだれてしまう明里

成田、うなだれている明里をみて、考え始める


成田「西谷古墳…王の依り代…祭儀で使われたものかなにかかな? 土器とか…勾玉とか…いや、勾玉は装飾品か。土器も依り代かっていわれると違うしなぁ。うーん。西谷古墳…祭儀で使うもの…」


明里、ちらっと成田を見てから手に持っているタピオカを力なく眺める

成田「あっもしかして! そうだ、きっとそうだ! どうして気が付かなったんだろう…」

明里「(がばっと顔を上げ)え、なに成田君わかったの!?」

成田「石杵だよ、石杵! 見た目はただの石なんだけど、西谷古墳の上でこれを囲んで飲食をする儀式が行われていたと考えられているんだよ! ほんとなんで気が付かなかったんだろう? いや、出雲王国独特の文化だし、そりゃわかんないか」

明里「(興奮した様子で)絶対それじゃん! 成田君よくわかったね! すごい! 流石だよ!! (はたと冷静になり)で、石杵ってどこにあるの?」

成田「(シュンとなり)それが問題なんだよね…僕が見たのは出雲弥生の森博物館ってとこなんだ…一晩だけ借りるとか、無理だよなぁ…」

明里「正直に事情を話せば無理かな?」

成田「神の使いに、神が癇癪を抑えるのに必要だから石杵を持ってくるように頼まれたって言う?」

明里「完全に頭おかしいね」

成田「見た目はうすーく赤に塗られてるだけでただの石だし、そこら辺の石を塗ったやつじゃダメかな?」

明里「え、ちょっとまって、今なんて?」

成田「ごめん、さすがに自分たちで作ったのは駄目だよね…」

明里「そうじゃなくて、その前! 石杵って赤い石ころなの?」

成田「え、あぁ、うん。」

明里「ある。それ家にある! うちの仏壇に飾ってある!」

成田「ほんとに!?」

明里「なんで『こんなのが仏壇に飾ってあるんだろう』ってずっと思ってたけど、きっとこのためだったんだ! あ、もしかしてあの家訓って、石杵のことを伝えようとしてたのかな? そうと決まれば、早くうちに戻ろう!」


家に向かって走り始める明里

慌てて後を追いかける成田

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