第6話

10場

〇大学内・外のベンチ・日中

成田、ベンチに腰かけ緊張した面持ちで明里を待つ

明里、きょろきょろと成田を探す

成田を見つけ、向かっていく明里

明里、成田に声をかける


明里「お待たせしました!」


明里に声を掛けられ思わず立ちあがってしまう成田


成田「いやいや、大丈夫です。あの、自分も今来たところだったので…」

明里「そうですか。すいません…」


お互い話始めるきっかけが分からず黙ってしまう

明里「とりあえず座りましょうか」

成田「ですね」


席に着く二人


成田「(探りながら)で、依り代のことなんですけど、サークルのメンバーにも相談してみたんですけど、ヒントが無さ過ぎてしぼりきれなくて…」

明里「ですよね…」


再び無言になってしまう二人


明里「あの、これヒントになるかわからないんですけど、うちの家の先祖って迦毛大御神って神様を祭ってる神社の神主だったんですって」

成田「賀茂ってつく神社は日本中にたくさんありますからねぇ。どこにあるんですか?」

明里「奈良」

成田「奈良で賀茂かぁ…ん? なんて神様って言いましたっけ?」

明里「迦毛大御神です」

成田「もしかしてその神社って高鴨神社ですか!?」

明里「すごーい! よくわかりましたね!」

成田「いやいや、迦毛大御神を祭ってる神社って、そう多くないんですよ。で、奈良で迦毛大御神といえば高鴨神社ですから」

明里「高鴨神社ってそんなすごいんですか?」

成田「京都にある、下鴨神社って知ってますか?」

明里「うん。修学旅行で行ったなぁ。懐かしい」

成田「その下鴨神社も含めた、日本全国にあるカモ系の神社の総本山ですから!」

明里「そんなすごい神社だったんだ…」

成田「やっぱり迦毛大御神の線から考えてみるのがよさそうですね…」

明里「ですね」


明里、スマホを取り出し、迦毛大御神を検索し始める


明里「えーっと、かもの、おおみかみ…っと。農業神、蛇神、雷神って書いてありますね」

成田「なるほど…」

明里「(スマホを見ながら)なにかわかりそうですか?」

成田「うん」

明里「(まだスマホを見ている)ですよね。そう簡単にはわかりませんよね…(驚いて)って、えぇ!? わかったんですか?」

成田「うん。やっぱり鏡なんじゃないかな」

明里「鏡?」

成田「蛇って、昔はカカって呼ばれていたみたいなんだ。で、鏡のカカっていうのは、カカの目、蛇の目に由来しているという説もあるんだ。昔は、鏡は祭祀の道具として使われていたみたいだし、なにより、八咫鏡のように御神体、つまり神の依り代となっているものもあるんだ」

明里「なるほど…でも鏡だとしても、どの鏡かはわからなくない?」

成田「それが都合よくあるじゃないですか、鏡」


明里、少し考え閃く


明里「あー! この間、学祭で見たやつ!」

成田「そう! それがその依り代なんじゃないかって思うんだ」

明里「じゃあそれさえ手に入れば!」

成田「発掘チームの一人が、うちの歴史研究会の顧問だから、なんとかして一枚くらい借りれないか頼んでみるよ!」

明里「ありがとう! (冗談めかして)私なんにもしてないね」

成田「じゃあ早速行ってみるね!」


成田、走り去っていく


明里「いやー博識だなぁ。すごいな… (何かを感じ取り)はっ! いる! この感じは間違えなくいる!! (あたりに呼びかける)ねぇいるんでしょ!? 出てきなよ」


指パッチンの音が聞こえ、時間が止まる

妖が現れる


妖 「(やや焦った様子で)お前すごいな、みんなお前のこと見てるぞ」

明里「やっぱりいた! 暇なの?」

妖 「そんなわけないだろう。今も、国元に戻られる神様のお見送りに行っていたところだ。(愚痴っぽく)とっくの昔に会合は終わったというのになかなかお帰りにならないから、ただでさえ機嫌の悪かったタカヒコネノカミ様が、ますます機嫌が悪くなり大変だったのだ。思えば、癇癪を起すのも、会合の時期が多い気がするな…」

明里「あんたも大変ね。けど、もう安心して! 依代ちゃーんと見つけましたから!」

妖 「おぉそれはよかった。で、どこにあるんだ?」

明里「今取りに行ってもらってるところ」

妖 「取りに行ってる? 誰がだ?」

明里「一緒に探してくれている人がいてね、その人の知り合いが持ってるから、借りに行ってくれてるの」

妖 「(釈然としない感じで)そうか」

明里「安心して、その人私なんかより、断然歴史に詳しくて、なんなら見つけたのもその人なんだから。まぁ大船に乗った気持ちでどーんと待ってなさい!」

妖 「そうか。そいつは男か?」

明里「そうだけど?」

妖 「お前、そいつを婿に取れ」

明里「はぁ!? なにいってるの!?」

妖 「お前の家は代々いい加減なやつが多いからな。そいつの血を入れれば、少しはマシになるだろう」

明里「あんたねぇ」

妖 「よし、決まりだ」

明里「簡単に言うけどさ、そんなの無理に決まってるでしょ」

妖 「そんなことはない。先の会合で良くしていただいた縁結びの神様がいらっしゃるんだ。その方に頼めばなんてことない。な? 悪い話ではないだろう?」

明里「バカなこと言わないでよ」

妖 「そうか…名案だと思ったのだが…おっとこんなところで油を売ってる場合じゃなかった。これから謝罪行脚に向かわなくてはならないのだ。このあたりの神様には、タカヒコネノカミ様の癇癪でずいぶんとご迷惑をおかけしているからな。(愚痴っぽく)まったく。師走はまだだというのに、忙しくて敵わん。時間があれば、お前と共にタピオカでもと思っていたのだが、すまないな」

明里「イヤよ。あんたと一緒にタピオカ飲んでたら、まるで私がパパ活してるみたいじゃない」


妖、パパ活が何かはよくわかってない様子で笑いながら去っていく

しばらく歩いて指パッチンをして、時間を動かす

明里、妖の後姿を見ながらつぶやく


明里「あいつもなにかと大変なのねぇ…」


明里の周りに座っていた人たちは、不審そうに明里を見て、ざわざわとしている

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