戯曲『八雲さす』

マサキノブヒロ

第1話

1場

〇島根市内の繁華街・ある程度人通りのある交差点・日中

街の音(特徴的な音/横断歩道?/駅の音?)が聞こえる

信号が青に変わり、成田と亀井、横断歩道を渡り始める。成田、スマホで地図を見ている。

二人の反対側から明里が歩いてくる。

人混みの中、明里と二人がすれ違う。


亀井「(興奮気味に)今の子めっちゃ可愛くなかった?」

成田「え、どれどれ?」

亀井「なんだよ見てなかったのかよー」

成田「ちょっと早くしろって。電車乗り遅れるぞ」

亀井「おう」

成田「おう。じゃなくて…お前が発掘現場に行きたいって言ったんだから早くしろよ。乗り遅れたら先生待たせることになるだろ」

亀井「(きょとんとした顔で)待たせないよ」

成田「はぁ?」

亀井「別にアポ取ってないもん」

成田「え? え? アポ取ってないの?それ俺ら行って入れんの?」

亀井「大丈夫でしょ。大内教授のゼミの亀井ですっていえば入れてくれるでしょ」

成田「いやムリでしょ…」

亀井「ほら、早くしろよ。電車乗り遅れるだろ」

成田「はぁ?」


二人、駅に向かって歩いていく




2場

〇マンション・明里の自宅・居間

明里、出かける支度をしながらテレビのニュースを見ている。


ニュース「先ほど日本の南の海上で台風20号が発生しました。すでに太平洋側では激しい雨が降っていて明後日にかけて警報級の大雨になりそうです。今日午前九時、沖縄本島の南で発生した台風20号は今夜から、明日にかけて接近し、上陸する模様です」


明里「はー沖縄は季節外れの台風ですかー大変ですねー明日、明後日あたりにはこっちにもくるのかなー大学休みにならないかなー」

明里、出かける支度が終わる。


明里「よしっ! お父さーん。あれ? お父さーん?」


修司、扉から顔を出しながら


修司「なに?」

明里「私出掛けるから」


修司、居間に入ってくる

修司「(驚いた様子で)え? 出かけるの?」

明里「うん、友達と遊びに行ってくるから」

修司「ママも出かけてるし、二人でご飯に行くって…」

明里「え!? ごめん! そんな約束してたっけ?」

修司「してないけど」

明里「おい」

修司「ママ居ないときは二人で外食ってのが昔からのお決まりのパターンじゃん」

明里「いや、いつの話してんの。それ小学校とか中学校のころの話でしょ。私もう大学生だよ」

修司「そんなこと言わずにさーご飯行こうよーごーはーんー」

明里「(真剣な顔で)お父さん」


明里、修司の目をしっかりと目を見て


明里「ウザい」

修司「はぁっ…!!」


と言って崩れ落ちる修司


修司「(悲壮感を漂わせながら) ウザいって…母さん、年頃の娘は難しいよ…こんな時に母さんがいれば…」

明里「お母さん生きてるから。怒られるよーじゃ行ってくるから」

修司「いってらっしゃい…」


修司、一人居間に取り残される




3場

〇出雲大社・鳥居の前・日中


スマートフォンで自撮りをしている橋本

Youtube用の動画を撮影している

その様子を少し離れたところから見ている明里


橋本「はいどーも! 恋のカリスマ、モテ系YouTuberのはしえんぬです! 今日は恋愛運がグングン上がると噂のキング・オブ・縁結び、島根県出雲大社に来ております! 本当は一緒に来てる人もいるんだけど… その子は一般の子なので撮影NGでしたー! 可愛いんだから出れば良いのにね? さぁ、それでは早速行ってみましょう! 」


橋本、録画終了ボタンを押して


橋本「よし」


明里、撮影の終わった様子を見て、後ろから声をかける


明里「終わった?」

橋本「うん、終わった。お待たせしました。まずはお参りだね! あんたちゃんと『彼氏ができますように』ってお願いするんだよ?」

明里「いや、私はいいよ…」

橋本「なにいってんのよ! あんた何年彼氏いないの?」

明里「…3年」

橋本「でしょ! しかも、前も、その前もろくでもない男だったじゃない? だから、ちゃんといい男を捕まえられるように、今、縁結び界隈でもっとも熱い、この神社に連れてきたんだから!」

明里「縁結び界隈ってなによ」

橋本「ちゃーんとお願いしたら、そのあとは境内に何個かある、恋愛運爆上げパワースポットツアーもするからね。さ、レッツゴー!!」


と言って拝殿に向かって歩き出す二人

話をしながら歩いていく二人

手水屋で手を清め、再び拝殿に向かって歩き始める

しばらく行ったところで橋本の動きが止まる

明里、1、2歩進んだところで気が付き、振り返る


明里「え? ちょっと? どうしたの?」

橋本「…」


明里、橋本が悪ふざけをしていると思い、うっすら笑いながら


明里「なんの冗談?」

そこにどこからともなく妖が現れる


妖 「待っていたぞ、お嬢さん」

明里「(不審そうに)え、なんですか?」

妖 「お前にやってもらいたいことがある」

明里「(橋本に向かって)なんか変な人に絡まれてるから早く行こうよ」


といって橋本の腕を引いたりして、先へ向かおうとする

しかし橋本はピクリともしない


明里「もーなんなのよー!」

妖 「無駄だ。私がお前以外の者の時を止めているからな」

明里「ちょっとなにを言ってるかわからないんですけど…」


明里、あたりを見渡すと周囲の人々の動きも止まっている


妖 「最近、台風が頻発してるだろう。それを止める手伝いを、お嬢さん、あんたにして欲しい。なに、簡単なことだ。あるモノを私のところに届けてくれるだけでいい。どうだ? 簡単だろう?」

明里「全然意味が分からないんですけど…」

妖 「連日発生する台風。あれは味鉏高彦根神(あじすきたかひこねのかみ)という神が起こしているものなのだ。まぁ癇癪を起したオマケで発生しているだけだから、本人にそのつもりはないんだろうが。その味鉏高彦根神の癇癪をなだめる為に、モノが必要なのだ」

明里「はぁそうですか」

妖 「引き受けてくれるな? もっとも引き受ける以外の選択肢はないと思うが」

明里「引き受けないとどうなるんですか?」

妖 「時を止めたまま、動かさない」

明里「なにそれ、引き受けるしかないじゃん」

妖 「そういうことだ。では、頼んだぞ」


といってどこかに行こうとする


明里「ちょっと待ってよ、そのモノってなんなのよ」

妖 「おぉ、そうだった。依り代だ。王の依り代。それをここに持ってきてくれ」


明里、ピンと来てない様子


妖 「頼んだぞ」


人ごみの中に消えていく妖

人ごみの中から突き上げられた妖の手が見える

妖が指パッチンをすると、時間が動き出し周囲の人々、橋本も動き出す

妖のいたところをぼーっと見る明里


橋本「どうしたのぼーっとしちゃって?」

明里「…神の使い? 台風? はぁ?」

橋本「はぁ? 何言ってるの?」

橋本に声を掛けられ、ハッとする明里


明里「ううん。なんでもない…」

橋本「そう? じゃあおみくじ引きに行こう?」

明里「あ、うん。わかった…」


拝殿の方へ向かう二人


ニュース映像

キャスター「台風20号は昨夜7時ごろに高知市付近に上陸しました。

市内では最大瞬間風速50.9メートルを観測。土佐市では1時間に86ミリの猛烈な雨が降りました。

高知市では、13階建てのマンションの建設現場でクレーンが折れたほか、香南(こうなん)市ではパチンコ店のガラスの外壁がおよそ10メートルにわたって割れる被害が出ました。

高知県内ではこれまでに11人が強風にあおれれて転倒したり、しまったドアに挟まれるなどして、怪我をしています。

高知空港は、今日午前まで閉鎖し、午後から再開予定です。」

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