第5話

9場

〇大学・教室内・日中

文化祭で研究内容の展示をしている歴史研究会

先日発掘された銅鏡も展示されている

しかし展示を見ている人は誰もおらず、案内係として教室にいる成田は退屈そうに歴史関係の雑誌を読んでいる


文化祭に遊びに来た明里

タピオカ屋さんの模擬店を出している橋本のもとへ向かっているが迷子になっている様子

そこに橋本から電話がかかってくる

明里、電話をしながら歩いていると歴史研究会の展示会場の前を通りかかる


明里「うん、今着いたとこーどこでやってんだっけ? …外か!そりゃそうかタピオカ屋だもんね、屋台か。校舎の中入っちゃってたよ! ていうか今時タピオカ屋ってどうなの?売れてる?? …だよね、だってブームになってたの何年前よ。……いや、そりゃ私は好きだけどさ」


明里、歴史研究会の展示が目に入り、なんとなく見ながら電話を続ける


明里「また調子の良いこと言ってーうん、じゃあ今からそっち向かうから、美味しいの作っていてねーはーい。じゃあのちほどー」


橋本との電話を切り、スマートフォンをしまう明里

展示内容が気になり、しばらく眺める

ここなら神の依代について何か知っている人がいるかもしれないと考え、係の人がいないかとあたりを見回すと、雑誌を読んでいる成田を見つけ、声をかける


明里「あの、すいません」

成田「はい、なんでしょ…(顔を上げると、予期せぬ可愛らしい女子がいて驚き)おっふ!!」

明里「(怪訝そうに)おっふ?」

成田「(取り繕いながら)いや、あの…」

明里「?」

成田「ご、ご用件は…?」

明里「この展示の人ですか?」

成田「もしかして、興味持ってもらえました?」

明里「あの、これって」


明里、展示されている銅鏡について尋ねようとする

成田、やっと展示に関心を持ってくれる人が現れ、嬉しそう




成田「(早口で)あぁこれはですね! 西谷墳墓群の9号墓から発掘された古代の鏡なんですね。9号墓っていうのは、(古墳をジェスチャーで表現しながら)お墓の上に神社が建っていまして、これまで発掘調査があまり進んでいなかったのですが、工事の最中にこの鏡が出土したんです! この鏡は、奈良周辺の古墳から出土されるモノと非常に類似点が多く、出雲王国とヤマト王権の関係性を伺わせるものとなっております」

明里「はぁ…」

成田「(我に返り)あ、すいません! つい興奮して…別に興味ないですよね…?」

明里「いえ! あの、この鏡、味鉏高彦根神っていう神様と関連しているなんてことはありますかね?」

成田「つい先日出土したばかりで、まだそこまで研究が進んでないので、はっきりと断定はできませんが関係してないんじゃないですかね…」

明里「(落胆した様子で)ですよね」

成田「なにか気になることでも?」

明里「気になるっていうか、ちょっと探し物してるんです」

成田「探し物?」

明里「神の依り代って言うのを探してるんです」

成田「へーなんだか面白そうですね」

明里「一緒に探してみます?」

成田「ぜひ!!」

明里「え?」

成田「え?」

明里「あ、いえ。ためらいとか、そういうのないんだなって思って…」

成田「(恥ずかしそうに)すいません」

明里「違うんです! ただすごいなぁって思っただけで! で、どうやって探しましょう」

成田「まずはサークルのメンバーに聞いてみますよ。なにか知ってる人がいるかもしれないし」

明里「ほんとですか!? 助かります!」


橋本からの着信があり、明里のスマートフォンがなる


明里「あ、いけね。ちょっとすいません」


明里、電話に出る


明里「もしもしーううん、迷ってないよ、大丈夫ーもうすぐつくと思う。…いいよ。何がいい? わかった。じゃあ焼きそばかなんか買ってくねーうん。じゃあまたー」


明里、電話を切り、成田に視線を戻す


明里「すいません、もういかないと」

成田「あ、はい。…あの、依り代の特徴を教えてもらえると…」

明里「じゃあ後でLINEで送りますね。いいですか?」


明里、連絡先の交換を求めるが、成田はピンと来ていない様子


成田「はい」

明里「(スマートフォンを突き出しながら)あのいいですか?」

成田「(意図に気が付き)あぁ! すいません、そうですよね」

連絡先を交換する二人


明里「ありがとうございます。じゃあまた」

成田「はい、また!」


明里、展示会場を去っていく

その後姿を眺める成田

展示会場に岩田が現れ、成田に声をかける


岩田「どう? 調子は? どうせ亀井君のことだから交代時間になっても現れなくて、成田君も寂しがってる頃だと思って来てみたけど…(あたりを見渡し)やっぱり亀井君いないね」


成田、岩田の両肩をガッとつかむ

成田「ちょうどいいところに!」


岩田は驚くもすこし嬉しそうな様子

成田、話をしようとすると亀井が駆け込んでくる


亀井「悪い悪い遅くなって。(興奮した様子で)入口のところの広場でさ、チアリーディング部が踊っててさついつい見ちゃって」

成田「ちょうどいいところに!!」


成田、亀井の両肩をガッとつかむ

驚いた様子の亀井

岩田、少し残念そう


亀井「なに? なんかあった?」

成田「みなさんのお知恵を拝借したいんだけど…」


成田、ここで起こった明里とのやり取りを説明し始める



〇Youtube動画

橋本、Youtube動画で自身が文化祭でやっているタピオカ屋さんの宣伝をしている


橋本「ハイどーも! えくぼは恋の落とし穴、モテ系YouTuberはしえんぬです! 今日は私が編み出した、究極に愛されるタピオカの飲み方をご紹介! まずはタピオカを用意します。そしてタピオカのここをこう持って、こうです! どうですか? 可愛いでしょう? さっそく試したくなったでしょう? そんな画面の前のあなたに朗報! ただいま島根山陰大学で開催中の学園祭にて、私はしえんぬプロデュースのタピオカ屋さんが営業中です! 私も毎日店頭に立ってますので遊びに来てねー」



〇大学・教室内・日中

成田が亀井と岩田の二人に説明している場面に戻ってくる



亀井「(何者かになり切って)なるほど、事情は分かった。そのモノに関してだが、なにか情報はないのかね」

成田「味鉏高彦根神について探してるって」

亀井「なるほどタカヒコネか…ではここで諸君らに問題です。でーでん。タカヒコネはなんの神様でしょうか?」

成田「農業でしょ?」


亀井「正解! 名前の一部に農具の鋤という字があてがわれていることから、タカヒコネは農業の神様として祭られていることが多い。そして『日本霊異記』という、日本最古の説話集の中で、鋤が、神様の依り代として使われている様子が描かれている。ということで、依り代の最有力候補は鋤なのではないかな」

岩田「神度剣(かむどのつるぎ)は?」

亀井「死人と間違えられたの件で使ったと言われる、神度剣か。アジスキタカヒコネの神話には欠かせないものだな。これも最有力候補であろう。他には?」


三人なにも出てこない


亀井「(怒り気味に)ないよな! そもそも日本書紀においてタカヒコネの出番が少なすぎるんだよ! なんでこんなマイナーな神がでしゃばってるのかね」

成田「まぁ一応は天照に並ぶ、大御神って呼ばれてるわけだし、大物ではあるから」

亀井「別名はな。(閃いたように)じゃあアジスキタカヒコネの別名である迦毛大御神の線から考えてみよう。あ、鴨は駄目だぞ。安直すぎる」

成田「なんだよその理由」

亀井「だってさ、そもそも生き物が依り代ってどうなのよ。生きた鴨なんてがーがーがーがーうるさくて、祭事出来ないぜ」

岩田「(さらっと)絞めればいいじゃない」

成田「怖いこというねぇ」

亀井「それこそ不敬じゃないか? 死んだ鴨に神様を入れるって」

岩田「確かにねぇ。どちらかといえば生け贄だね」

成田「迦毛大御神と同一視されている説もある、八咫烏というのはどうだろう?」

亀井「八咫之鏡ってことか? そもそも同一とする説が怪しいからなぁ。ていうか、八咫烏と八咫之鏡関係ないし、仮にそうだとしても、八咫之鏡は三種の神器で宮内庁管理だぞ? おいそれと持ってこれないだろう」

岩田「それを言ったら神度剣もでしょう」

亀井「まぁな。けど、鏡というのは無くは無いだろうな。祭事に一般的に用いられるものであるし」

成田「それを言ったら、銅剣であったり、勾玉、銅鐸、土器なんかもそうじゃん」

岩田「そうだよね」

亀井「(万策尽きた感じ)駄目だ、情報が少なすぎて絞り込めない。各自今ある情報を元に調査だ!」


それぞれ「おう!」といった感じでうなずいたり、ガッツポーズを作ってみたり

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