第3話

7場

〇マンション・明里の自宅・居間


明里、台風の被害状況に関するニュースを見る


キャスター「高知市の土石流が起きた現場です。私たちは安全を確保した場所からお伝えしています。土砂災害の危険が高まったとして、午前10時前に、こちらの救助活動は一旦ストップしていましたが、午前11時ころから再開されています。この現場では、2頭の災害救助犬が現場に入って、人がいないかどうかなどを確認していた模様です。」


明里、被害の深刻さをみて、事の重大さに気が付き、責任を感じ始める

祖父の仏壇に手を合わせる

仏壇の真ん中には赤い石が祀られている

しばし仏壇に手を合わせた後、仏壇に向かって話し掛ける


明里「今のニュース、私のせいなんてことないよね…? まさかね。一人間が天気を左右するなんて、そんなのおこがましいよね!」


もちろん仏壇から返事は返ってこない


明里「あーもう! なんでこんなことで悩まないといけないのよ! おじいちゃんもやったならなんか残しといてよね」


修司、今に現れる

仏壇の前で座る明里を見つける


修司「あかりちゃんがおじいちゃんの仏壇に手を合わせるなんて珍しいね。なにか悩みでもあるの?」

明里「まぁね。色々あんのよ」

修司「色々と…(真剣に)学校でいじめられてるとか!?」

明里「(呆れながら)いや私大学生よ? そんな年じゃないし、そうだとしても、仏壇に手を合わせないでしょ」

修司「それもそうか」

明里「(思い出したかのように)ねぇ、おじいちゃんってどんな人だったの?」

修司「おじいちゃんかー。うーん…いい加減だったかなぁ」

明里「そっかーいい加減かーやっぱ親子って似るんだね。おじいちゃんてさ、なんか過去に変わった経験したとか言ってなかった? 」

修司「いやー特には…」

明里「じゃあさ、うちの家系ってなんか特別だったりしないよね? なんか使命があるとか」

修司「あれ、あかりちゃんには言ったことなかったっけ?」

明里「え?」

修司「あかりちゃんが小学校の時に宿題で家系について聞いてくるっていうのあったじゃん」

明里「えーそうだったけ? 覚えてないなぁ」

修司「まぁ小学校の頃なんてそんなもんだよ。はっはっはっ。(笑いを残しながら)そういえば、同じ頃にさ、すごい落ち込んで学校から帰ってきたことがあったの覚えてる?」

明里「そんなことあった?」

修司「あったよーパパもママも心配するくらいに落ち込んでたからさ、学校で何かあったのかと思って聞いてみたら『先生のこと、間違えてママって呼んじゃった』って」

明里「あーやめてやめて!」

修司「そんな落ち込むことかってママと二人で大笑いしたなぁ」

明里「(少しムキになりながら)もういいから、思い出したから!」

修司「いやぁ懐かしいなぁ」

明里「(呆れつつ)ほんとよく覚えてるよね。…いや、そうじゃなくて! うちの家系は!?」

修司「そうだったそうだった。迦毛大御神(かものおおみかみ)っていう神様がいてね、うちの家系はその神様を昔から祭っているんだ。奈良に高鴨神社って神社があるんだけど、そこの神主なんかもつとめている…」

明里「(遮るように)え! そんなすごいの!?」

修司「一族の分家筋だ」

明里「分家か~っていうかそれってホントなの? お父さんが言うと胡散臭いなぁ」

修司「ほんとなんだって。どっかに家系図があったはず。ちょっと探してくる!」


自室のクローゼットに仕舞い込まれているであろう家系図を探しに行く修司


明里「いや、そこまでしなくても大丈夫だからっ。(リビングから出ていく修司を見届け)行っちゃった…にしてもお父さんもよくそんな昔のこと覚えてるのなぁ。なんで親ってのは、本人も憶えてないような恥ずかしい事を憶えてるかね」


後ろに何かを隠しながらリビングに帰ってくる修司


修司「あったあった!」

明里「早かったね」

修司「(隠していた絵を見せびらかしながら)小学校の時に、市のコンクールで金賞を取った絵」

明里「(少しうれしそうに)うっそ、懐かしい~まだ取ってあったんだ~」

修司「(懐かしみながら)奥の方に仕舞い込んでたみたい。折角見つけたし、飾っとこうか」

明里「いいね、どこがいいかな?…って、違うって! 家系図は?」

修司「あ、そうだった。ごめんごめん」


と言って、絵を手渡して再び自室に探しに戻る修司


明里「いや、別に家系図もいいんだった」


明里、手に持っている絵を眺め、思案し、飾れそうなところがないか探し始める

良さげなところを見つけ、一度飾ってみる


明里「うん、とりあえずここでいいか。にしてもうちに家系図なんてあったんだなぁ。かなり歴史のある家だったっぽいから、家系図もボロボロかもね」


といって微笑む明里

そこに手に巻物を持った修司が戻ってくる


修司「あったよ~」


修司、明里に巻物を見せつける


明里「真新しいなぁ!」

修司「(意に介さず、巻物を広げ、箇所箇所指で示しながら)ここが賀茂家の初代で、うちの分家の初代がここ」

明里「ふーん…えーっと。(家系図の文字をたどり探しながら)光修…光修…光修…あった!」

修司「残念! それはおじいちゃんじゃなくて初代だね」

明里「初代!?」


修司「(巻物を広げながら)そう。おじいちゃんは5代目光修だから。ちなみにパパは3代目修司」

明里「知らなかった…」


巻物を広げきる修司

巻物はとても長い。リビングの端と端くらい

明里、思っていたより長くて驚いている

修司「(各々の文字を指で示しながら)これ! これがおじいちゃん。で、これがパパ。こっちがあかりちゃん」

明里「私もいるんだ」

修司「そりゃもちろん。あかりちゃんはパパの可愛い可愛い娘だからねー」

明里「うん」


家系図をまじまじと見るあかり

家系図に書かれた『困難にぶつかっても 赤く燃える意思を持って突き進め』という字を見つける


明里「なにこれ?」

修司「あーそれは我が家の家訓だね」

明里「え、うち家訓なんてあったんだ」

修司「おじいちゃんが考えたやつだけどね」

明里「なんでこんなの家訓にしたんだろ」

修司「さぁ? パパもおじいちゃんに聞いたことあるんだけど、おじちゃんも覚えてないんだってさ」

明里「なにそれ。ていうかさ、なんで家系図に家訓も書いてあるわけ? おじいちゃんが考えたわけでしょ?」

修司「なんでってこの家系図を作ったのおじいちゃんだからね」

明里「なるほど…でもなんで家系図なんて作ろうとおもったんだろ?」

修司「さぁ? (懐かしみながら、嬉しそうに)いやーでもこの家訓いいよねーパパもこの言葉に背中を押されて、ママと付き合うことが出来たんだよ」

明里「聞いてない聞いてない」

修司「そんなこと言わずにさ、聞いてよ、お父さんとお母さんの馴れ初め」

明里「もういいから。散々聞いてるから。ちょっとほら家系図しまってきて」

修司「そう? もういいの?」


といって家系図を丸め、片付けるためにリビングを後にする修司

明里、修司がリビングを出ていったことを見届ける


明里「結局依り代がなんなのか全然わかんなかったな」


明里、スマートフォンを取り出す


明里「(スマートフォンに向かって)OK、Google! 依り代ってなに? 」


Googleの音声アシスタントが起動し、検索結果を読み上げる

明里、画面は見ずに、音声だけを聞いている


Google「依り代とは、神霊が依り憑く対象物のことで、神体などを指すほか、神域を指すこともある」

明里「(ピンと来てない様子)漠然としてるなぁ…シンレイが依り憑く…シンレイ…心霊…霊が憑くもの…」


明里、リビングのテレビが目に入る


明里「テレビ! は出てくるだけか。(考え込む)日本人形? ちょっと違うか…あ! これだ! なんか神社で使ってそうな感じあるし! 絶対これだ! そうと決まればさっそく探しに行ってみよ!」


外出するためリビングを飛び出す明里

がらんとしたリビング

そこに昔、明里と一緒に遊んだおもちゃを持って勢いよく入ってくる修司


修司「みてみて! こんなのも見つけたよ! (手に持つおもちゃを見せびらかすように掲げ)昔一緒によく遊んだ…あれ?いない…」


リビングにぽつんとひとりになり寂しそうな修司

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