8 空地
・畑から出てきたウサギ(?)の袋
・左袖が切られた子供服
・おいちゃんの息子(偽)
不動産屋から帰るタイミングを逸したわたしは、接客カウンタの隅で友人相手においちゃんが遺した謎について語りました。
そして友人が書き出したのが、上のみっつの疑問です。
「まあ、袖の切られた服は割符やろうねぇ」と友人が言います。
「そうやろうけど、なら、偽息子が袖を持ってないのが矛盾するんよ」
「おいちゃんは割符の管理人で、管理していたブツの担当者は別にいるってことかな。偽息子はブツの在処を知りたい、とか?」
「それなら、つい最近、四半世紀ぶりに再会したわたしに連絡してくるの、ワケわからんくない?」
「やー、もう全部がワケわからんから」
はは、と笑った友人は、思い立ったようにノートパソコンを引き寄せインターネットで地図を開きます。
「そのさ、ウサギ? の袋の公園ってドコなん? そこに建った家にブツを隠してるとか?」
「さあ……?」
なにぶん四半世紀も前の、それも父の車で連れて行かれるままに辿り着いた公園です。
わたしは古い記憶を頼りに、今は完成した自動車専用道路沿いの公園を片端からビューモードで見ていきます。
と、いくつ目かで見覚えのある公園に行き当たりました。周囲は軒並み一軒家になり、あれほど人気のなかった公園にも子供たちの姿が写り込んでいました。当時の面影といえばどっしりとした滑り台と、すぐ脇に立つ大きな送電線の鉄塔くらいのものです。
それでも不思議と懐かしさがこみ上げました。
「ここ、ここ」と少し興奮気味に告げ、わたしは件の畑があった場所へと画面を進めます。
車の置かれた駐車場と玄関とが並んだ一軒家が続きます。そして。
──駐車場でした。
あの畑があった場所だけ家が途切れ、砂利を敷き詰めただけの駐車場になっていました。
ああ、出られなかったのか。
なんの根拠もなく、そう思いました。
あのとき、あの畑から掘り出されたウサギたちはビニルに包まれたまま、あの土地から出られなかったのでしょう。玄関が造られるはずだった場所は、隣の家の壁が迫る駐車場の端でしかありませんでした。
あるいは、あのウサギたちが出られなかったからこそ、家が建たなかったのかもしれません。
わたしと友人はどちらからともなく、地図の画面を閉ざしました。
「まあ、ね」
「まあ、いろいろあるよね」
となにかがわかったような雰囲気を出し合いながら、何事もなかったようにノートパソコンを閉ざしました。
それから少しして、おいちゃんのアパートは不動産屋の会長によって清掃が入れられたと聞きました。
左袖のない服を満載した段ボール箱は、ただのゴミとして焼却処分されたといいます。
終
*作中の登場人物名や土地、地域の描写については、一部変更しています
あのときの□□と空地について 藍内 友紀 @s_skula
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