2話 まもなく開会
両手に荷物を抱えて観覧席に行くと、既に土の地面が見えないほどの各ご家庭のキャンピングシートが広げられていた。 薄いブルーシートの家庭もあれば、本格キャンピング仕様のクッションのある立派なシートの家庭も。
三保育園合同というだけあって園児は百人を超えるらしく、今では珍しく午後も競技がある。 園児も疲れるけど見守る側も疲れる…… 慣れた人はわかっているのだろう。
ウチに至ってはちょっと派手めな『ビー
「咲原君!! 」
この張りのある声はJA中川の大野部長だ。 目立つシートのおかげか、広げてすぐに見つけたらしい。
「おはようございます大野さん! 早いですね、まだ始まってませんよ? 」
「何を言う! 君の愛娘の晴れ舞台なんだから遅れるわけがないだろう! がはは…… 」
じいちゃんの米で知り合って以来、大野部長は僕にとても良くしてくれる。 特にりいさは彼のお気に入りで、強面があり得ないくらい溶ろけるのだ。 肝心のりいさは懐いてはいないんだけれど。
「それにしても、もう園児最後の年か。 君がこの中川に来て二年…… あっという間だな 」
「そうですね。 一年目は怒涛の年でしたから…… ホントあっという間です 」
「悦子さんもお元気そうで。 恵治さんも、孫のようなりいさちゃんが元気に運動会に参加出来て嬉しいでしょう 」
「そうだねぇ。 あの人はきっと顔には出さないだろうけどね 」
今は亡きじいちゃんのむずがゆそうな笑顔を思い浮かべて、三人同時に笑う。 むずがゆそうなと言えば、高崎市の梅農家の
「あれ? 奥さんは? 」
「りいさを控室に送りに行ってます。 もしかしたら園長の渡辺さんに挨拶を―― 」
「和くーん! あれ!? 大野部長さん!! 」
戻ってきた響歌が慌てて頭を下げる。 そういえば響歌には部長が来ることを言ってなかったっけ…… あとで怒られるかな。
「おや、今日は一段と気合が入ってるね!! 」
「えー!? わかっちゃいます? せっかくの一大イベントだから頑張っちゃいました! 」
普段日焼け止めもほとんど塗らないけど、やっぱりこういう時は気にするもんなんだな。
― まもなく開会式を始めます。 保護者の皆様は…… ―
場内アナウンスに、パパさんママさん達はカメラを片手に我先にと撮影ブースに向かっていく。 入場から我が子のベストショットを狙うんだろう。
「あっ!! りいさーっ!! 」
行進曲に合わせて入ってきたりいさを見つけて響歌が叫ぶ。 ファインダー越しに見えたその顔は勇ましく、でも隣の男の子と手を繋いで楽しそうで、競技が始まる前からちょっと潤んでしまったのだった。
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