8話 勝敗は
紅組と白組の得点は拮抗し、このリレーでの順位が勝敗を決める。 校舎の壁に吊された得点板には常に獲得点が表示されるけど、各種目の得点は明示されないから、この最終種目を盛り上げる演出なのだろう。
りいさの出番は八人構成の四番目とアンカー。 怪我をした友達の分も走るらしく、先生との会話はそれだったようだ。
─ 位置について! よーい!! ─
スターターピストルの乾いた音が鳴り響いた。 四組一斉に飛び出した第一走者は年少さんのグループ。 走る姿は可愛く、けど四才児とは思えない見事な走りだ。 りいさの組は残念ながら四組中最下位だけど、十分挽回できる範囲だ。
「「「頑張れー!! 」」」
「「「負けるなー!! 」」」
大歓声を受けながらバトンが年少さんから年中さん、そして年長さんへと繋げられていく。 一位と二位は白組で少し差が開いてしまったけど、次の走者はりいさだ。
「「「行けーっ!! 」」」
一際大きな声援が会場から湧き上がった。 徒競走の一件ですっかり有名人になったらしい。 僕たちも負けてはいられない!
「りいさーっ!! 」
「頑張れー!! 」
「「「おおー!! 」」」
その声援に応えるように、りいさは三位の紅組の女の子を抜いた。
「速っ!! 」
隣のお母さんがりいさの走りを見て目を丸くしている。 でもなんだか憎しみがこもったような表情で…… まさか例のあの女じゃないよね?
「「「わああぁ!! 」」」
よそ見をしているうちに、りいさは二位の白組の女の子を捉えていた。 そのまま同着でバトンを繋ぐ。
「よっしゃあ!! 」
お義父さんと大野部長は揃ってガッツポーズを決める。 僕は…… その最高のシーンをカメラに収めることは出来ず。
「うそっ!? そんなのってアリなの!? 」
再び隣のお母さんが発狂していた。 目線を追ってみるとりいさに向いている…… もう一度待機の列に戻ったりいさが、アンカーのたすきを巻いたのだ。
「和くん 」
袖を引っ張る響歌も気付いたらしい。 やっぱり隣のお母さんは松原さんの言う例のあの女っぽい。
「今はダメだよ響歌。 全部が終わってからだ 」
「うん、わかってる 」
今にも問い詰めに行きそうな響歌に微笑んで、リレーの行く末に目を向ける。
五番目の年中さんは接戦を繰り広げて、ついに紅組がトップに立った。 次の体の小さな男の子も頑張り、トップでバトンを繋ごうとしたその時。
「「「わああぁ!! 」」」
バトンを渡す寸前で白組の子とぶつかり、バトンを落としてしまったのだ。
「ちょっ!? 」
二位の白組の子が、誘導していた先生の指示を無視してぶつかったのだ。 明らかな出走妨害に、僕も響歌も身を乗り出して目を見張る。 チラッとあの女を見ると、やはりというか不適な笑みを浮かべていた。
「このっ!! 」
殴りかかりそうな勢いの響歌を、手を握って制止する。 どうやら松原さんの予想は当たっていた…… けど、証拠も何もないし、今はりいさに注目すべきだ。
「響歌、大丈夫だよ 」
「えっ? 」
「ほら 」
七番目の年中さんはバトンを拾って走り始めたけどトップとの差は半周。 でもレーンに出てバトンを待つりいさの顔つきは、まだ諦めていない。
「大丈夫、ウチの子は強いでしょ? 」
「…… うん、そうだね!! 」
僕の所に来た当初から逆境に強い子だ。 諦めていない我が子を信じるのが親の務めだろ!!
りいさの手にバトンが渡った瞬間。
「「「わああぁ―― 」」」
全ての観客がりいさを応援するかのように、会場全体を大歓声が包んだのだった。
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