5話 お昼ご飯

 午前のプログラムが終わり、今のご時世では珍しい昼食タイムに突入する。 運動会は天候に左右されやすいのと、園児と保護者の負担軽減で午前で終了するのが最近の傾向らしい。 まあ、早起きしてお弁当を作って中止になった日にはたまったものじゃないな。


「いっぱい食べなさいね! 」


 ばあちゃんが朝早くから作ってくれたお弁当に、りいさだけでなく美優や母さんも目を輝かせている。


「ん!? このおにぎりめっちゃ美味しい!! 」


 りいさに手渡されたおにぎりを少しかじった美優は、そう言って口いっぱいに頬張る。 米が苦手な美優がこんなに美味そうに食べるとは思わなかった。 


「んー! 具の梅干しも絶妙! これは…… ヤバい 」


「ヤバい? パパのお米ヤバい? 」


 不安そうな顔で見上げるりいさに、美優は『美味しくてヤバいね』と笑顔を向ける。  『かんらの恵み』は冷めても固くなりにくく、炊きたてから甘みが変わらない。 というのを今年になって初めて知った。 そのままでも美味しいけどお弁当向きかもしれない。


「このカボチャも美味しい! お義母さんの秘伝ですか? 」


「秘伝といえば秘伝だねぇ。お父さんが好きだったんだよ 」


 ばあちゃんも楽しそう。 母さん上手いなぁ……


「りいさちゃん、午後から楽しみにしてるよ! 」


「任せて!! 頑張るからね!! 」


 午後からは年長さんがメインになる。 二番目に五十メートル走と、年中さんの棒倒しを挟んで二百メートルリレーがある。 りいさはアンカーだ。


 ─ 間もなく午後の競技を始めます。 園児のみなさんは…… ─


 場内アナウンスがお昼のひとときの終わりを告げる。


「それじゃ行ってくるね! 」


「思いっきり楽しんでおいで 」


 『うん!』と元気な返事を残して園児席へ戻っていくりいさ。 その背中を見送っていると、美優がクスクスと笑い出した。


「…… どうした? 」


「アンタはやっぱり『頑張れ』って言わないんだなって思って 」


「…… うん? 」


 いまいち意味がわからなくて黙っていると、盛大にため息を疲れてしまった。


「ホント勝負魂がないっていうか、覇気がないっていうか 」


「いや…… 一位を取れれば僕も嬉しいけど、それを親が強要するものじゃないでしょ? 」


「プレッシャーを与えたくないってこと? 」


「うん。 負けて悔しいと思うのはりいさ本人の気持ちだし、勝つ為に毎日練習してたのを僕はずっと見てるから。 どんな結果でも見守って、最後には褒めてあげようと思ってる 」


 すると美優は目をパチパチさせて黙ってしまった。


「えっと…… おかしい? 」


「いや…… それってあたしの高校受験の時も? 」


「えっ…… そうだけど 」


「あっ、そう…… 」


 そう言って後ろを向いてしまった。 なにやらブツブツ呪文のように呟いてるけどよく聞き取れない。


「みーちゃんたらね、あの時はアンタにバカにされたって泣いて── 」


「わーっ!! 余計なことは言うなバカー!! 」


 マジギレする妹とイジりたくて仕方ない母親のバトルが始まる。


「おお? なんだか賑やかだな 」


 騒いで目立っていたのが目印になったのか、遅れてくると聞いていたお義父さんとお義母さんが合流した。


「遅いよお父さん! 」


「スマンスマン! だがりいさの出番には間に合っただろ? 」


 ─ これより、午後のプログラムを始めます。 午後の一番目は…… ─


 内山の両親が到着して早々、午後の部が始まった。 最初は紅組と白組に分かれての応援合戦。 続けて年中さんのダンス、その後に年長さんの徒競走だ。


「いつも響歌がお世話になってます 」


「いえいえこちらこそ、和樹が御迷惑をかけているようで 」


 両家の両親は応援合戦ならぬご挨拶合戦。 りいさが一生懸命やってるんだからそっち見ようよ……  


   

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