スカイライン


 季節は廻り、翌年の春。私は……。


「お前いつまで飯食ってんだ、入学式遅れるぞ!」

「うえ~まだ眠いよぉ~なんで入学式7時からなの~? 早すぎでしょぉ」


 晴輝と同じ大学へ進学していた。晴輝が居るからと言う理由もあるが、私自身、車に興味が出て来たと言うのが理由として大きい。

 いずれは自動車整備士を目指すのも悪くないなと考えるようになったのだ。


「入学式の後、必要な物の購入にチーム編成と、とにかくうちの学校は工場みたいなもんだから、初日にやらなきゃいけないことが多いんだよ」


 そして今日は入学式。こんな朝早くから家を出るのは高校の朝練がある時以来だ。

 せっせと朝食を食べ終え流しに置くと、私は急いで二階に上がり、用意しておいた服に着替える。正装じゃなくてもいいらしいので、いつもの私服だ。


「んあぁ! もう徒歩じゃ間に合わねえじゃねえか! 先外出てるぞ!」


 一階からそんな晴輝の声が聞こえて来る。


「はいはい、車あるんだから慌てない慌てない」


 鞄を持ち、鏡で変なところがないか確認した後、玄関に降りて靴を履く。


「それじゃ、行ってくるね、お父さん」


 写真に挨拶して玄関を開けると、《ノートE13》の軽快なエンジン音が聞こえた。


 あの後、お母さんと話し合って、《スカイラインR34 GT-R Ⅴ・spec Ⅱ Nür》を売却、私の大学の費用に充てることにした。きっと、ずっと車庫で眠らせておくより、この車を欲しがる人に乗って貰った方が、お父さんも喜んでくれると思ったからだ。

 

 最初は晴輝に譲るつもりだったが、「俺には、この車は早すぎる」と言ってそれを断った。どこか名残惜しそうではあったが、きっと晴輝にも、何か考えがあったのだと思う。


 急いで助手席に乗り込み、シートベルトを装着する。


「それじゃあ、行くぞ」


 晴輝がアクセルを踏み込み、車は前へと進んでいく。私と晴輝と同じように、前へ、未来へ。朝日に照らされる山並みと青空を区切る稜線スカイラインを背にして。


                                  END.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雨の峠のブレーキ痕 古魚 @kozakana1945

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ