第三話『ダークエネルギー①』


__約二千年前、紀元二〇XX年__


「こちら国際宇宙ステーション、たった今、謎の黒いもやのようなものを観測しました! 今は約二七〇〇万キロメートルも先にありますが、こちらに向かっているものと思われます!」


「す—んな、—信状態が悪———いでな———っと、安て——るまで—ってく———————————————よし、もう少—で——けそうだ————」


__通信開始から三十秒後__


「——よし復旧完了! なんだそれは? そんなもの聞いたことがないぞ? 望遠鏡のレンズの故障じゃないのか?」


「ま、待ってください! たった今、その黒い靄が、目の前に!! あぁ!! 飲み込まれる! うわぁああああ!!」


「何が起こった? 応答せよ!! 応答せよ!!」


———プツン———


 通信は途絶えた。


 その直後……


 地球はその黒い靄に襲われ、闇に包まれた……



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●



 __一週間後__


 地球上の人類は……


 生きていた。


 全人類は、謎の黒い靄に襲われて漆黒の闇となった地上で、一週間もの間、気絶していた。


 今、青い空には太陽が昇り、辺りは明るい。


 ぷかぷかと浮かぶ白い雲たちの狭間に、ひとつ、謎の黒い天体がチラリと顔を覗かせているが、今は一旦気にしないでおく。


 眩い太陽光が、地面に降り注ぎ、夜明けを告げている。


 地に伏せていた人々が、ぽつり、ぽつりと、目を覚まし、起き上がる。


 動植物たちも、案外ピンピンしている。


 だが、なんだか…………地上の様子がおかしい!!


「あれ、なんだか……体が軽くなったような……暗闇気絶ダイエット?? 新しいわね!」

 と、女性がぼそり。


「あの黒いエネルギーの塊みたいなのは、なんだったんだ? でも、みんな無事だ! よかったーっ!」

 と、飛び跳ねる少年。


 だったが……


 飛び跳ねた少年の足は、なかなか地に着かなかった。


 少年は、数メートル上までジャンプし、ふわりふわりと漂う風船のように飛ぶカラスと、衝突した。


〈カァーッ!〉


「いってぇーっ! んだよ! おいカラス! 人の頭の上で飛ぶなよ!」


 少年は、側にある電柱の、半分ほどの高さから、ゆっくりと落下しながら、怒りの叫びを上げる。


 周りの人間たちが、少年の曲芸を、口をぽかんと開けながら見ている。


「なんか、視線を感じるんだけど……って、僕、飛んでる!? 待って待って! 下ろして! 誰か! 下ろしてぇー!」

 と、理解不能の現象に、あわてふためく少年。


「おい少年! どうやってそんなに飛んだんだー? 超人なのかー?」

 と、近くのおじさんが、大声で少年に尋ねる。


「知らないよぉ! 僕が聞きたいよぉ!」

 少年は今もなお、落下の最中である。


 そして……


「あっ! 仕組みがわかったかも! 私も挑戦だ! それいっ!!」

 と、また別の女性が思い切りジャンプする。


 彼女は、少年と同様、いやそれよりも高く、飛んだ。


「俺もやってみよーっと!」


「わしもじゃ!!」


「私もよ!!」


 地上から次々と垂直に飛び上がる、無数の人影。


 一人、十人、五十人と増え……


 少年の仲間は、あっという間に、数百人にもなった。


「み、みんな、飛んでる!! なんでぇー!!??」

 と、大パニックの少年。

 

 そう。


 地球は、なぜか低重力の星になっていたのだった!!


●●●●●●●●●●●●

【低重力】

約二千年前のダークエネルギー襲来によってもたらされた、重力が大幅に低下した環境。宇宙ほどフワフワとした空間ではないが、高低差十メートル、直線距離十四メートルくらいの二点間なら、生身の人間でも、高所から低所へ向かってムササビのように飛んで安全に移動が可能。

●●●●●●●●●●●●


〈第四話『ダークエネルギー②』に続く〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る