第五話『ダークエネルギー③』

【注意】この第五話『ダークエネルギー③』には、SF映画『インターステラー』を視聴・理解済みの方には、不要であろう重複要素が多分に含まれております。そのため、もし該当者の方がいらっしゃいましたら、これを読み飛ばしていただいて、第六話『世界水没対策会議』に進んでいただいてももちろん結構です。





 街中のLEDスクリーンには、今日もとある映像が映っている。


 そのタイトルは……


\\\\人類存続のための科学リテラシー教材 其の弐////


         ▶︎


 殺風景な白一色の空間に、今日も、イコカ・トーク博士と、コノミカ・カイーヌ監督が立っている。


「どうも。物理学者のイコカ・トークだ。さて、前回の『人類存続のための科学リテラシー教材 其の弐』」を通して、なぜ地球が低重力環境になってしまったかについて、理解していただけたと思う。そこで今回は、地球がこれから先、高密度・超重量級となった『黒い月ダークムーン』の影響下で、どうなっていくのかについて説明したいと思う」


「前回の『其の壱』は、『冗長だ』とか、『もっと簡潔に頼むわ、こっちも暇じゃないんだ』という声が多かったらしいですよぉ?」


「カイーヌ監督。今回は、その心配はいらんよ。なんと言っても、我々には、素晴らしい補助教材、とも言うべき秘密兵器があるからな」


「おおっ! 博士、さすがですね。何です、秘密兵器って?」


「それはだな……SF超大作映画、『ステラおばさん・イントゥ・ザ・ブラックホール』だ! それを見ろ! 義務教育化も辞さない!」


「おおっ! 『ステラおばさん・イントゥ・ザ・ブラックホール』と言えば、監督・脚本コノミカ・カイーヌ、監修イコカ・トークの傑作SF映画じゃありませんか!」


「そう。雑に映画のあらすじを話すと、こうだ。ステラおばさんという女性の率いる宇宙飛行士たちが、かくかくしかじかで、宇宙の果てのブラックホールに向かう。その途中、とある水の惑星でのミッションが発生する。水の惑星に降り立つと、そこは地に足がつくほどの浅瀬もあったんだが……時間が経つと、何千メートルも海面が上昇して、溺れてしまうんだ! なぜそんなことが起きるのか。水の惑星の近くに、中性子星という天体があるからだ。中性子星は、ブラックホールの出来損ないみたいなやつなんだが、とはいえ一応、ものすごい質量と密度の天体ではある。そんな天体が近くにあったらどうなるか。引力がすごいんだ! それで、その水の惑星が自転して、ある地点が中性子星に直面するタイミングで、その地点の海の水が引っ張り上げられる!」


「トーク博士、話が壮大すぎて、絵が思い浮かびにくいです。特に、水の惑星での出来事が……」


「そう言われると思っていた。そこでだ、『ステラおばさん・イントゥ・ザ・ブラックホール』のとあるシーンを見てほしい」



————————————————————————

 浅瀬に脚を着ける、宇宙船が一隻。


 全身に大層なスーツを纏う者が数人。


 膝下の高さの海水の中を、バシャバシャと蹴り歩いている。


「ねぇ、やっぱりこの星では人間が暮らすのは無理! 見てよ、見渡す限りの海! 移住なんて夢のまた夢!」

 と、女性が、ある方向を指差す。


 何やら、海の様子がおかしい。


 その女性は立ち尽くし、水平線をじっと眺める。

 

 水平線だと思っていたものが、上昇している。


「おい! モタモタするな、早く行くぞ! 数分後に海水の壁が襲ってくる」

 と、男性Aが宇宙船の方を指差して言う。


 水平線だと思っていたものは、竹林のように背を伸ばしてゆく。


「『分』なんて悠長なことは言ってられないぜ。一秒すら惜しい。中性子星の巨大な重力のせいで、ここの一時間は、地球の七年に相当することを忘れるなよ」

 と、男性Bが、宇宙船に乗り込みながらグチグチ言う。


「ソウヤッテ ゴタクヲナラベルノモ ジカンノムダ デス」

 と、角張った外見のロボット。


「うるせぇ! とにかく早く宇宙船に乗れ!!」

 と、男性Aは、再度女性に呼びかける。


 一行は、無事宇宙船に乗り込む。


 彼らが宇宙船で飛び立ってまもなく……



\\\\ザッッバァァアアンン!!////



 浅瀬だった場所は、水深数千メートルもの絶海になった。

————————————————————————



「どうだ? この海面の上下、恐ろしいだろう!?」


「恐ろしいです……」


「でだ。重い天体のせいで、海水が引っ張られるわけだが、原理的にこれと同じことが、ここ、地球でも起こっているよな? カイーヌ監督、わかるかな?」


「はい! わかります。地球と、月の関係がそうです!」


「そう、その通り! つまりは潮の干満だ。あ、これは余談だが、単純な波とは違うことに注意してくれ、あれは風によって起こるからな。で、黒い月ダークムーンが巨大な重力の源となった今、さっきの映像にあった巨大な壁のような波に似たような現象が、世界中の海で起き始めている! まだ現時点では、あそこまで大きくはないがな」


「『まだ現時点では』ってことは、ひょっとして将来的に、あんな巨大な波になるってことですか??」


「残念ながら、そう言うことになる」


「どうしてですか!?」


「よくぞ質問してくれた……今からするのが、最後の解説だ」


「望むところです!」


「ダークエネルギーは、月に吸収されるまでに、地球の海底火山活動、ひいてはマントルの動きにも、とてつもない影響を与えたらしい」


「トーク博士、これはおそらく、私からの最後の質問です……マントルって、何でしょう?」


「マントルってのは、マグマがあるような地下よりも奥深くで、個体だがジワジワ動いている、かつマグマよりも熱いやつだ! こいつらの活動が活発になって、地球中の氷が溶けていくと予想されている。さらに、高温高圧により底の方の海水が膨張。すると、どうなるか……」


「海面上昇……ですね?」


「そう! 地球の陸地の大部分は、いずれ、水没する! これは脅しではない。極めてロジカルな予想に基づく警告だ!」


「そ、そんなぁ!!」


        ◾️


—— This Material was Written and Directed by Konomica Cawine. ——



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【一般相対性理論】アルベルト・アインシュタインが一九一五年から一九一六年にかけて発表した、重力・時間・空間に関する一連の理論。『一般相対性理論』を極端に単純化すれば、①重力の影響を受けるものは時間が遅れる。②重力は空間を曲げる。という二つの軸で考えることができる。つまり『一般相対性理論』は、『特殊相対性理論』が提示した、時間と空間をひとまとめにする『時空』の世界に、重力の影響を加味して発展させたものと言うこともできる。

※『相対性理論』について、『特殊』と『一般』の文字に惑わされがちだが、『特殊相対性理論』と言う『部分』を、『一般相対性理論』という『全体』に発展させていったわけなので、後者の方が遥かにプロ向きである。

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〈第六話『世界水没対策会議』に続く〉

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