Tube

加賀倉 創作

第一話『われはチューバー』

 われはチューバー。


 身一つで、世界中に張り巡らされた管『Tube』の中を高速移動する。


 二千年ほど昔、地球にはボブスレーという競技があったらしいが、そこから着想を得たらしい。


 ボブスレーでは、氷上を滑走するらしいが、俺が今通っているTubeがあるのは……


 海の上だ。


 恐ろしいほどに広く、青い海。


 俺が今、何をしているか。


 Tubeの安全点検だ。


 ヒビが入っていないか、劣化していないか、目と耳と、肌で確認する。


 それが、『Tuber』の仕事だ。


 結局、技術がいくら進歩しても、機械は人の五感には勝てないらしい。


 それから、俺の真下の海に、いくつか見える渦巻は……


 『底なし渦』さ。


 あれに飲まれたら一巻の終わり、海底へ真っ逆さま。


 まぁ、管の中にいる限りは、無縁の存在だけどよ。


——ツーツー——

(電子音)


「こちら大和国やまとのくに富士本部ふじほんぶ。ブルー・リーダー、聞こえるか?」


 おっと、本部から通信が入ったようだ。


「はい、聞こえます」


「富士山北西沖、約二百海里の地点で、Tubeへの攻撃があった」


「また海賊ですか?」


「ああそうだ。すでに撃退済みだから、大至急、修理に向かってくれ。あ、残業代はちゃんとつけとけよ」


「了解しました!」


 ふう……。


 じゃ、俺は、修理に向かうとするぜ!


●●●●●●●●●●●●

【Tube】

約二千年前の海面上昇危機に際し、人類が合成に成功した一二六番元素『エクシウム』を素材とした管。固体のエクシウムは無色透明で、極めて強固で、割れにくい。エクシウムは、大和国の富士山の内部でしか採れない、大変貴重な物質である。

●●●●●●●●●●●●


〈第二話『水の惑星』に続く〉

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