当屋敷の執事バトラーでございます。

さて皆さま、四人の語り手のお話、いかがでしたでしょうか。

お楽しみいただけましたでしょうか。


いずれも皆様の心の奥底にある恐怖を掻き立てるような、逸話揃いだったと思っております。

さて、皆様の気紛らわしに催しました、四物語の儀は以上となります。

しかしながら、最後に一つ残念なお知らせがございます。


始まりのご挨拶の中で、皆様に嘘偽りのない話をさせて頂くとお約束しましたが、本日の語り手の中に、虚偽を混ぜて語られた方が、お一人おられます。

誠に残念なことです。

皆様に深くお詫び申し上げます。


物語に虚偽を混ぜられた語り手、それは。

シズさん、あなたですね。


「何を仰せになるのですか。嘘など滅相もない」

いえいえ、あなたのお話をお聞きして、どうしても納得のいかないことがあるのです。

「それは何でございましょう」


スエコさんとサチエさんは、どうしてカツさんと一緒になって、あなたを海に引き摺り込もうとされたのでしょうか。

「それはカツの怨念にてられて」


そんなはずはありません。

お二人とも、あなたと共にカツさんに虐待されて、カツさんを恨みこそすれ、一緒になってあなたに仇なすとは、とても考えられないのです。


「それでは二人は、自分たちが死んで、私だけが生き残ることが、口惜しかったのではないでしょうか。人間とは、そのように浅ましい生き物だと存じます」

なるほど、あなたの仰ることにも一理あります。

それでは、こうしませんか?


「何でございましょう」

あなたの後ろに扉があります。

あなたの語ったお話が真実であるならば、扉の向こうは元の日常に通じております。


そうでなかった場合は。


扉の向こうは、あの日のあの磯場に繋がるでしょう。

「ひいいいい。嫌だ。嫌だ。あそこに戻るのは嫌だ。あそこは地獄だった」


「助けて下さい。後生でございます。あれは仕方がなかったのです」


「カツを海に突き落とした後、海が徐々にせり上がってきて、わたくし共三人は追い詰められていたのです」


「あのまま行けば、スエコとサチエは、きっと一番体の小さかった私を突き落としていた。だから」


「カツが海から現れた時に」


「背中を向けたスエコとサチエを」


「突き落としてしまったのです。あああ」


「ひいいいい。助けて。助けて」


皆さま、最後にお見苦し所をお見せしました。

心よりお詫び申し上げます。


それでは、本日の四物語は以上を持ちまして幕とさせていただきます。

またの機会がありましたら、是非ともご来臨の程、宜しくお願い申し上げます。

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四物語 六散人 @ROKUSANJIN

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