物語は現代日本(ただし架空)での犯罪捜査から始まるため極めて現実的なのですが、冷静に論理的に説明される事件現場の状況に、県警の捜査担当一同は頭の中が???と疑問符で一杯に。読者も頭の中が???と疑問符で一杯になります。
現代日本での正確な社会構造と科学に対する説明と、超常的な怪異が、堅固に組み合わされて、起こり得ない事件が現実に起きたかと錯覚します。
多くは殺人事件です。舞台は異世界ではありません。人権が保障される現代日本で、怪異が法をなぎ倒して人を殺めると、社会と周囲の人たちに衝撃を与えることが克明に描写されます。現実の事件のように人々を絶望させます。
絶望に屈しないのが、本作の主人公である刑事二人。持てるものは意思の力です。鑑識から論理的なのに意味不明な報告を受けようが、県警の上層部から疎まれようが、そして怪異により瞬殺されうる危機にさらされようが、現在の人間が信じる「殺人は罪」を貫徹しようと身を挺します。
ただ、刑事の片方は、怪異に片足を入れています。その経緯も、詳しくは語れず……
じゃあ、お仲間じゃないか。そういうツッコミは的確でありません。
怪異に触れてしまった、法を踏み越えてしまった、その後にどうすべきか。人としての振る舞いにより貴賤は分かれます。主人公は怪異に触れた人間を幾人も見て、厳しく、そして優しく、道を示します。しかし道を歩くかどうかは聞いた人間によって違ってきますが。
怪異 vs 常人の勇気 + 怪異。そして事件は現在進行形です。両者のせめぎ合いがヒリヒリと伝わってきます。
闇の中を手探り、つまり腕に傷を負う覚悟をして切り開く意思が読者に伝わります。熱いですよ。
といっても刑事たちの日常生活はファニーですけどね。平和な場面での掛け合いにはにやけてきます。
小説としても先が読めません。最後まで気が抜けません。
最近「冒険」という言葉がしばしば使われますが、帰ってこられる保証がない本作こそ冒険だと評者は信じます。
読者は結末まで読めば現実に返ってこられます。評者は皆様に冒険をお勧めいたします。