第9話 これはもしかして嫉妬ってやつでは?


姉の退院の日が決まり、美容院と眼科に行く日も決まり、あとはいつから学校に復帰するか決めるだけだった。


体調は良好、病院食でだいぶ痩せて、リハビリには勤しんではいたが体力に不安はあるようで、少ししてから通うことに決めた。


「お姉ちゃんイメチェンしたら、学校の人たちびっくりするね。」


「しないよ。イキッてるって思われるだけだよ。まあもうすぐしたら夏休みだし、受験もあるし私なんて気にしてる暇ないって。」


「じゃあ、向こうの世界ではどうだった?」


今でも信じられないが、姉は『サッカーの王子様』の世界にトリップしていたらしい。

その時の日記の手帳が、現実に存在している。

姉はペラペラと手帳をめくった。



***



『わ、桜髪めっちゃ似合ってる。てか整えたらめっちゃツヤツヤ。それにコンタクトにしたのか?』


教室の一角、疾風がノートを渡しながら言った。

西園寺のおかげでステキなサロンに連れていかれ、ミディアムからボブヘアーに。更にメガネをコンタクトに。

次の週末には、買い物に行く手筈にまでなっている。


『お前、意外とまつ毛長かったんだな。なんか今まで前髪で顔隠れてたけど、今の方がいいよ。』


『ほんと?疾風に言われると嬉しいな。』


西園寺のお節介はウザイけど、でも本当に助かってしまった。

今まで本当にオシャレに無頓着で、髪を切ろうにもどんなところが良いかわからなかった。


コンタクトにしたのは初めてで、上手くつけられるか不安だったけど付けたら意外と楽だった。

メガネのフレームが視界からなくなるので、その分鬱陶しさは消える気がする。


今日は教室に入るなり『誰!?』状態になり、クラスメイトは桜が席に着くと誰もが口を開けてびっくりしていた。

もちろん、隣の席のシュートも驚いていた。

疾風は桜が髪を切ることを知っていたし、前から『絶対髪あげた方が似合う』と言っていたから驚きはしなかった。


『ちょっと』


帰りのホームルームのあと、突然隣の席から声をかけられた。

ムスッとした顔でシュートが桜を見ている。


『なんでメガネやめたの?』


桜はびっくりしてしまった。

いやいや、お前がデブスって言ったんじゃんと心の中でツッコミながらも返事をした。


『西園寺先輩がメガネダサいから辞めろってコンタクト勧めてくれたの。』


シュートは更にムスッとした顔をした。


『・・・・たのに。』


小さな声でシュートが呟いた。


『え?・・・なに?』


桜はわけがわからずにシュートを見つめた。

すると、シュートは桜を見て言った。


『俺、お前が綺麗なこと、転校してきた時から気づいてたのに。

西園寺先輩より、疾風より、前から知ってたのに。

なんだよ、俺がブスって言ったからイメチェンしたのかよ。

俺だけが知ってればそれで良かったのに・・・!』


桜はびっくりして目を見開いた。

ずっと『サッカーの王子様』で好きだったシュートが、そんなこと言うなんて。

クールで口数少ない彼から、そんな言葉が出るなんて。

桜は胸がキュンとしてしまった。


拗ねたように荷物をまとめてシュートは教室から出ていってしまったが、桜はドキドキしてしまった。




***




「なにそれー!かなりキュンキュンな展開だったね!て、ことはシュート君はお姉ちゃんのこと気にしてたんだ!!」


私は話を聞くだけでテンションが上がってしまった。

まるで少女漫画のような胸がキュンとする展開で、そこらへんで同級生と話す恋バナよりもうんと面白い。


「で、進展は?」


「この時は特に無かったよ。私もびっくりしたしね。」


うわー、気になる。

そう思いながらも私は姉の病室を後にした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る