第4話 姉が転校先でイジメのターゲットになりました
リハビリ病棟でリハビリに勤しむ姉と、面会に通う私。
私はお昼間は学校があるのでその後に通うことが多かった。
「あのね、『サッカーの王子様』全部読んじゃった。もうね、イッキ読み。
あの漫画イケメンばっかり。しかも皆試合中に見せ場があって皆が惚れちゃうのもよくわかったわ。」
私は姉の部屋にある少年漫画、『サッカーの王子様』を読んだ。
個性的なイレブンの王道サッカー漫画で、特に人気があるのは主人公、「火野シュート」だ。
実際、姉もシュートの大ファンで部屋には沢山のグッズが飾ってある。
「六花ちゃんは誰好きだった?」
「んー、あたしはゴールキーパーの川島先輩かな。」
「六花ちゃん見る目あるねー。」
「漫画だと結構お調子者だけど決める時決めるって感じでかっこいい。それにあたしは明るい人好きだから、いいなって。」
「わかる!それにほんとに優しいの。」
姉はふわりと笑ったあとに話を続けた。
***
転校初日、隣同士になった桜とシュート。
序盤からバチバチ展開で、夢小説にありがちな嫌われルートからスタート。・・・・のハズだったが夢小説の主人公にはこれとは別に波乱の展開が起きる。
『なにあいつ、シュート君と喋ってたよ』
『ブスの癖に生意気だわ』
(うわ、でたでた、よくあるやつだわ。)
桜は運悪く、シュートのファンクラブ(非公式)の女子に目をつけられてしまったのだ。
そう、夢小説では主人公がキャラクターに接触することでクラスメイトや女の子からいじめられる王道展開である。
とゆう事で、上履きを隠される嫌がらせから始まり、陰口を言われたり机に落書きされたりしたのだった。
(うっとうしいな、面倒臭すぎ。)
『悪口聞こえてんだけど。コソコソ言ってないで正々堂々来なさいよ。』
そうよ、私は『サッカーの王子様』の世界に来たんだもの。
これくらい啖呵切ったって、へっちゃらよ。
元の世界にいたら絶対できなかった。
今なら無敵だわ。と、桜は思った。
そしてイジメのトドメにバケツで水を頭からかけられてしまった。
『・・・・ぜえな。』
『なによ、シュート君に近づかないで!』
『・・・・うっぜえな、好きで隣の席になったんじゃねえよ。
大体あいつ、話しかけんなデブスって言ってきたんだけど。
あんたらがキャーキャー喚くから、私も同類だと思われたんだよ。どうしてくれるわけ?』
あまりにも姑息で幼稚な嫌がらせに、桜は痺れを切らしていた。そして彼女たちを睨みつけていた。
水がしたたる制服が重い。
髪の毛もぐしゃぐしゃだ。
しかし、悲しみより呆れと怒り。
『君たち!何やってんの!?うわ、君大丈夫?ずぶ濡れじゃん!』
たまたま通りすがったのは、サッカー部3年、ゴールキーパーの川島守だった。
『君たち、シュートのファンクラブの子でしょ!!喧嘩はだめ!シュートに嫌われちゃうよ!』
そう言って、彼女たちを追い払うと肩にかけていたエナメルの大きなスポーツバックからタオルを取り出して桜の髪をわしゃわしゃと拭いた。
『大丈夫?君、初めて見るね。シュートのファン?』
『いえ、普通のクラスメイト・・・転校してきたばっかりで・・・』
『あ、そうなんだ!なんかハキハキ喋ってて強くてびっくりしちゃったよ。そのタオル貸しとくね!俺部活行くわ。あ、あと廊下はファンクラブの子達に片付けさせとくから早く帰りな。』
『・・・・はあ。ありがとうございます』
桜は驚いたまま足早に去っていく川島を見た。
借りたタオルは柔軟剤のいい匂いがした。
***
「ええ〜川島先輩かっこいい」
姉の話に私は感心してしまった。
姉は懐かしそうに話していた。
「 それにしても嫌がらせしてくる奴らなんなの!!許せないわ。」
「大丈夫よ。私、中学生の時に似たようなことされたことあるから慣れてたし。」
姉はふふっ、と笑った。
「え!?初耳!お姉ちゃん、なんであたしに言わないの!」
「だって六花ちゃん、絶対に啖呵切りに行くじゃないの。私の立場が無いよ。
あのね、あっちの世界で言い返せたのは六花ちゃんのおかげなんだよ。
昔六花ちゃんが私をイジメっ子からすんごい言い返して助けてくれたでしょ。
私も言い返してやろって思い切っちゃった。」
私は姉が強くて頼もしくてついつい笑ってしまった。
いかにもオタクで暗くて口下手だった姉が、こんな強さを持っていたなんてびっくりしてしまった。
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