第3話 根暗デブスの姉にダイエットの神が降臨する
姉のリハビリは順調だった。
脳梗塞で倒れたとなった時には驚いたが、今までの姉の生活習慣からは考えられないくらい健康的である。
多分、これまでの姉ならば、「病院の食事は味が薄い。」「美味しくない」とか言いそうだけど、そんなことは全然無かった。
「お姉ちゃんさ、『サッカーの王子様』の世界で何があったの?」
私は姉と母からの差し入れの野菜スティックをポリポリとかじっていた。
今までの姉からは考えられない。
共に野菜スティックをかじるなんて。
「なんかのテレビ番組じゃないんだけどさ、ダイエットの神が降臨したんだよね。」
姉はそう言ってきゅうりを齧った。
***
『話かけんな。デブス。』
十一高校転校初日、隣の席になったクラスメイト、火野シュートからの一言は、桜には強烈だった。
(デブス?私、確かにデブスだけど、そんな言い方無くない?)
『サッカーの王子様』と言う漫画の中で、火野シュートはサッカー部のエースストライカー。
黒髪でクールで口数は少ないけれど、サッカーをやる彼はかっこいい。
1年生ながら先輩に物怖じしないキモの座ったスーパールーキー。
漫画の別冊のキャラクターブックでは、入学早々に学校の女子生徒がファンクラブを作っているらしい。
シュートは作中ではそんな暴言を吐くキャラクターでは無い。
物怖じしない静かなタイプではあるが。
そうだ、ここは漫画の世界じゃん。
今までの暗くてさえない自分はもういないんだわ。
言い返したところでコソコソ言う奴なんていない。
と桜は意を決して言った。
『なんで初対面のあんたにそんな言い方されなくちゃいけないわけ?』
夢小説で最初嫌われなんて、よくある展開。
いきなり仲良くなるなんて無理に決まってるし、大好きなキャラクターにデブスなんて言われて黙っていられない。上等よ。
『せっかく学校も変わったし、デブス卒業してやるわ。』
今までの自分とは違う。
だって、ここは『サッカーの王子様』の世界。
桜にダイエットの神が降りてきた。
『やれるもんならやってみろよ。』
『あんたこそ、調子にのんない方がいいんじゃない?』
桜はダイエットを決意した。
そして、この世界で絶対に変わってやると誓った。
***
「それで、お姉ちゃんはダイエットしたわけ?」
「そうだよ。だから目が覚めたとき太ってたからびっくりしたの。」
姉が手術から目を覚ましたとき、様子がおかしいと母は取り乱していた。
「それでね、私、六花ちゃんみたいになりたいなって思ったの。」
「え?あたし?」
「そう。六花ちゃんは私と違って細くて可愛いから、六花ちゃんの好きなもの食べたらいいかなって思ってさ。
とりあえず、ポテチは辞めたわ。」
姉は笑った。何度も言うようだが今までにこんな姉は見たことがない。
今までよりずっと明るくて、イキイキしている。
「ね、お姉ちゃん、退院したらさ一緒にコスメ見に行こ!」
「え!ほんと?見たい見たい!」
引きこもりの姉と、こうして出かける約束なんてそれこそ夢のようだ。
私はワクワクしながらその日は病室を後にした。
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