第6話 姉がサッカー部親衛隊に追われているらしい


姉のリハビリは順調で、脳梗塞の後遺症はほとんど無く、病院食でダイエットも順調。

私は高校生活を謳歌しながら、姉のお見舞いに通い、母は「やっぱり桜ちゃんの様子がおかしいままだわ」と驚愕しながらも姉に協力している。


「ね、お姉ちゃんはさ、向こうの世界では高校1年生からやってたんでしょ?で、卒業までしてさ。

勉強楽勝だったってこと?」


私はお世辞にも頭が良くなかった。

そもそも、私は姉とは違う高校に通い、姉は私よりも偏差値の高い学校に通っていた。


「十一高校も、偏差値はそこそこあるから結構大変だったよ。」


「そうなんだ。」


「だからクラスの子と教えあったり、先輩に教わったりしたよ。」


「クラスの子?」


「そうそう。疾風はやて君とか。私は文系苦手だったから結構助け合いだったかなー。」


水原疾風みずはらはやては『サッカーの王子様』のキャラクターで、サッカー部。

正確には、中学校までは陸上部に所属していたが、十一高校のサッカー部にスカウトされて、ディフェンダーとして入部していた。


「え、お姉ちゃん疾風君とも友達なの?」


「そりゃクラスメイトだったもん。疾風君にはめっちゃ迷惑かけたな。」


姉は苦笑いした。



***



『しつっこいなあ!!』


桜は校内を走っていた。

そもそも、追われる意味もよくわからない。

さすがは漫画の世界。いや、漫画の世界とはいっても本当はスポーツ漫画の世界のはずなのに、完全に逆ハー少女漫画の主人公になってしまった気分だ。


『西園寺様に近づくなー!ブス!』


『川島君に近づくなー!』


『シュート君にも色目使いやがって!!』


桜は全力で走っている。

この頃には大分体重も落ちて身軽になっていたし、西園寺のおかげで筋肉もついていた。

だがしかし、追いかけられるのは不本意である。

サッカー部の川島と話したことで、サッカー部員と接触することになったわけだが、中でも西園寺に『俺の女になれよ』と言われたことが瞬く間に西園寺ファンクラブに広まり、サッカー部の親衛隊(ファンクラブ)の目の敵にされてしまった。


『だから西園寺に興味無いって!』


確かに『サッカーの王子様』は大好きだ。

イケメンだらけの漫画で、目の保養にはなる。

しかし推しはシュートだ。

まあそんなシュートにはデブスと言われて怒りが湧いている。


走って逃げていたら急に手首を掴まれた。


『冬木!こっちだ!』


クラスメイトの水原疾風の声が聞こえた。

肩にジャージをかけられて、サッカー用具に紛れさせた。


『疾風君、冬木見てない?冬木桜。あの女、西園寺様に近づいてるの』


『さあ?こっちには来てないんじゃないか?』


『そっか。見つけたらとっかまえてやる』


『ははは、ほどほどにしとけよ。』


疾風が苦笑いしながら同級生に言っていた。

私はサッカーボールのカゴの陰に潜んで様子を伺っていた。

サッカー部の親衛隊が過ぎ去ったあと、疾風に手招きされた。


『桜、もう行ったぞ。お前、今日バイトじゃなかったか?』


『そうなの!まじで助かった!ありがと疾風』


『じゃ、今のうちに行けよ!今日の数学の課題、あとで送ってくれたら借り無しな!』


『送る送る!まかせて!ほんとありがとう!』


桜はそそくさとその場を立ち去り、疾風に手を振った。



***



「お姉ちゃん、逆ハーってなに?」


私は知らない言葉に困惑した。

夢小説の界隈では有名な言葉なのだろうか。


「ああ、逆ハーって言うのは、『逆ハーレム』って言葉ね。

ハーレムって言うと、男の人が沢山の女の人に囲まれて求愛されたりするでしょ?

その反対を逆ハーレムって言うわけ。」


「へー。確かにお姉ちゃん逆ハーっぽいかも。

でも求愛はされてないよね。」


「まあそうね。今までの話ではね」


なんだその含みのある言い方は。

毎回毎回、姉の話が面白すぎて私は続きが気になった。

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