第5話 姉がイケメンに口説かれたらしい


「わ、さくらんぼ?高かったんじゃない?」


姉が目を輝かせながら私の持ってさくらんぼを見ていた。


「じいちゃんが送ってくれたみたい。

お姉ちゃんのことすっごく心配してたみたいよ。」


「そりゃあそうか。脳梗塞って、普通は高齢者がなりやすい病気なんだって。

まさか孫が先になるなんて考えられないじゃない。」


母が食べやすいように小分けにしてタッパーに入れてくれた。

二人で食べやすいようにと。


「お姉ちゃんさくらんぼ好きだっけ?」


「向こうの世界に行ってる間にすっかりフルーツにハマっちゃった。」


そんな話をしながら姉は思い出したかのように日記の手帳をめくった。


「そうだ、川島の同級生で部長の西園寺っているでしょ?あの人から沢山フルーツの盛り合わせ貰ったなあ。」



***



十一高校サッカー部、全国大会を目指す学生で憧れる人も多い私立の高校だ。


全国大会にはこれまでに何回か出場、卒業生にはJリーガー、在校生にはワールドカップに出場したことのある強者揃いのサッカー部だ。


桜がこの『サッカーの王子様』の世界に来て1ヶ月がたった頃、サッカー部の部員の川島とはすっかり打ち解けて、シュートとは相変わらず睨み合いをしていた。


『桜ちゃん、ちょっと痩せた?』


『え!ほんとですか?よし、絶対火野を見返してやるんだから!!』


にこやかに話していると、話をしていたところにある人物がやってきた。

サッカー部3年、西園寺有人が私をジロジロと見ている。


『おい、川島、誰だこの女』


『1年生の桜ちゃんだよ。ちょっと前さあ、シュートのファンクラブの奴らに虐められてたのをたまたま声掛けたら結構面白くて。

桜ちゃん、この人は西園寺だよ。』


桜は『こんにちは』と挨拶をしたが、西園寺はフン、と鼻を鳴らして桜を馬鹿にしたような目で見ていた。


『どうせこいつも俺たちに近づいてくるメスブタだろ。デブだし。川島、てめえ騙されてるんじゃないのか?』


西園寺は、サッカー部内でも女子生徒に大大大人気だった。

イケメンで高身長、成績もトップ。

シュートと同じように非公式ファンクラブが学校内にあるくらいだ。

それだけじゃない。サッカーの実力もかなりあってポジションはミッドフィールダー。

そしてゲームメーカーである。

そして、漫画お決まりの財閥西園寺グループのおぼっちゃまである。


『西園寺、桜ちゃんを馬鹿にしない方がいいと思うけど〜?』


川島はニヤリと笑っていた。

桜は西園寺の物言いに少しイラッとしていた。

・・・どいつもこいつもデブって言う。しかも、『どうせこいつも俺たちに近づいてくるメスブタ』だって?

桜はニコッと笑って西園寺に言った。


『ずいぶん自意識過剰なんですね、西園寺先輩って。自分はモテるから選び放題ですもんね。

どうせ私はデブですけど、別に西園寺先輩には興味ないんで。』


元々サッカーの王子様は大好きだった。

西園寺が俺様キャラだとも知っていた。

だからこそ、自分のことや川島を悪く言われたことにムカついた。


桜は川島に目配せしてその場を去ろうとすると、西園寺が桜の手首を掴んだ。



『おもしれぇ女、お前、俺の女になれよ』



桜は目を見開いて驚いた。

川島はお腹を抱えて笑っている。


『はあ?ありえないんだけど。』


桜は冷やかな目で西園寺を見た。



***



さくらんぼをつまみながら、私は大爆笑した。


「お姉ちゃん最高!」


「それでね、私がシュートにバカにされたこととか、ダイエットしてることを知って、フルーツの送ってくれたりとか西園寺グループのスポーツジムの会員にしてくれたんだ」


さすが漫画の御曹司。

現実の世界とはお金の使い方が違う。


「お姉ちゃん愛されてるね〜」


「おかげですぐ痩せたわ」


姉と二人でさくらんぼを食べながら笑いあった。

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