夢女子お姉さん!?

大路まりさ

第1話 姉がスポーツ漫画の世界から帰ってきました。


まさか姉が突然に倒れるなんて思っていなかった。


姉は、学校こそ行っていたもののお世辞にも友達がいるとも思えなかったし、デブだしブスだし。

家ではずっとスマホを見ながらニヤニヤして、たまにタブレットでイラストを描いていたのは知っていたけど、まさかそんなに体が悪いとは思っていなかった。


「え?脳梗塞?まだ10代なのに?」


珍しくリビングに降りてきて急に頭痛を訴えだした姉はなんだか様子がおかしかった。

何となくふるえているような感じがして、顔が引きつっていた。


私はなんか変な気がして、すぐにキッチンの母を呼んだ。

母は真っ青な顔をして「救急車呼んだ方が良くない?」と言って、私にすぐスマホを持ってくるように言った。


そして、姉は救急搬送された挙句、脳梗塞と診断され緊急手術となった。


「ああ・・・ママが甘やかしすぎちゃったからだわ・・・」


「ママのせいじゃないでしょ。お姉ちゃんピザ大好きだし、運動嫌いだし。」


「ママが気をつけてあげてたら・・・」


「そんなこと言ったってあたしは太ってないんだから、お姉ちゃんのせいでしょ。

だってお姉ちゃん、ポテチにマヨつけて食べるんだよ?これは救えなかったって。」


2歳差のお姉ちゃんは高校三年生。

そして今は4月。

大学受験をするかしないか、進路にも追われて、ストレスがあることは知っていた。


「ええ、桜ちゃんそんなことしてたの!?」


さすがの母も、ポテトチップスにマヨネーズはドン引きしていた。


私は姉がデブでブスで根暗でも、嫌いでは無かった。

ちょっとオタクっぽくて気持ち悪いところもあるけど私に嫌なことはしなかったし優しいから。


「お姉ちゃん、無事だといいけど・・・・」


手術終えて、私は病室に通った。

通ったと言っても、感染症予防で荷物を届けることしかできなかったが。


そして何日か経った日、姉の意識が回復したと連絡があった。

私は慌てて高校から早退して、姉の元へ向かった。



***



「六花ちゃん、桜ちゃんの様子がなんだか変!!」


母が私に言った。

姉は私を見て、「六花ちゃん、私、なんでこんなにデブなの!?」と取り乱している。


母にはとりあえず飲み物買ってきたら?と部屋から退室させて、私は姉のそばに近づいた。


「お姉ちゃん、落ち着いて。あのね、お姉ちゃん救急車で運ばれて手術したんだよ。」


「え?ほんと?それで?」


「それで、あたしはお姉ちゃんの意識が戻ったって連絡来たから病室に来たの。」


「じゃあこのリボンと手帳は?私、夢を見ていたの?」


病室のベッドサイドには姉の通う高校とは違うリボンと手帳があった。


「リボンはわかんないけど中身はお姉ちゃんが見ればわかるんじゃないの?」


姉は手帳を見て目を見開いた。


「え?嘘?これ、私の日記だ!私がずっと書いてたやつ!そうだ、昨日卒業式だった!」


「え?まだ5月だよ?お姉ちゃん進路だってまだ決めてないじゃん!」


「私、昨日まで『サッカーの王子様』の世界にいたんだもん。トリップってやつ?」


私は訳も分からずにポカン、としてしまった。

遂に姉は頭がおかしくなってしまった?


「ちょっとお姉ちゃん、それ見せて。」


私は手帳を見る。

明らかに姉の字で、しかもたっぷり3年分。


「お姉ちゃん、まじで『サッカーの王子様』の世界に行ってたの?」


信じられない。

でも、信じたい気持ちもある。

母が取り乱した気持ちもわからなくは無い。


なぜなら姉がこんなに饒舌に話しているのがまじで意味がわからないからだ。

いつもなら「・・・・いやっ・・・その・・・六花ちゃん・・・あの・・・・」と話の本題に入るまで上手く喋れないくらいとにかくオタクを拗らせている。

その上人と話すのが苦手で、典型的なコミュ障だった。


「お姉ちゃん、とりあえず帰ってきたんだから早くリハビリして退院しようよ。

お母さんは多分話わかんないだろうし、お姉ちゃんの話はあたしがいっぱい聞くよ。

てか聞いてみたい。」


果たして、『サッカーの王子様』の世界ではどんなことをしてきたのか。


ちょっと興味がある。


今日から、姉と私の面白生活が始まりそうだ。




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