孤独な切り裂き魔
(アックマ)
第1話 ジャック・ザ・ニパー
ロンドンの街中で切り裂き魔ジャックと呼ばれる男は棺桶で眠っていた。
“切り裂き魔”と言われる由縁はその容姿と共に仕事にある。
ジャックの物語は、これより前から始まっている、それこそ名前をつけられた時から今までずっと、だからこの作品は途中から始まっている。
そしてついでに言っておくが、ジャックの手先は器用だ。
静かで素朴な部屋の中、
棺桶がギシっと音を立て、棺桶の枠に異様に細長い指がかかる。
ぬるりとした動きで、体は細長く凹凸が極限までなだらかにされている。
顔だけは少し大きく、起きた瞬間から、まるで蛇が獲物を狙おうと顔を上げている印象の男が、立ち上がる。
チュンチュン
「うああぁぁあ、ねみい。」
男は窓から差す光を見て、大きな口を開けてあくびをする。
眠り眼を、こすりながら部屋の中を移動して洗面台の鏡の前に立つ、
鏡に映るのは、また
口角が吊り上げて、金色と藍色のオッドアイを睨むように、斜め上に細くなる。
ギョロッとした目が、見た者全ての生物的恐怖を呼ぶ。
「うん、もうちょっと目を開けたほうがいいかな?…ウウンやっぱ、舌を出したほうが笑ってくれるかな?」
ジャック・ザ・ニパー
は毎日鏡の自分と笑顔の練習をする。
自分自身、顔が怖いことは知っている、昔それでいじめを受けた時もあるし、家族からも酷い扱いを受けた、
それのせいで一時期は人間恐怖症にもなった。
でも今は違う、俺にはこの場所がある、
俺はココから変わって見せる。
ジャックは玄関のドアに手をかけた、
「固いな…やっぱり怖い、い、またみんなを怯えさせてしまうんじゃないかと、思うと手が動かない動かしたくない、
ダメだ、俺はジャック、ロンドンの切り裂き魔だ。」
扉は中心線を音もなく、綺麗に切られたようにゆっくりと光が漏れ出し、開かれる。
家代わりの店を出ると街は昨日と、同じく賑わっていた、赤と白の旗が街中にかかり、
赤い風船を配るピエロ、
大道芸を披露する黒スーツ、
それを見て楽しそうに笑う子供達。
軽快なおしゃべりをしてにこやかな紳士淑女の方々。
みんながいると、楽しそうな、笑顔を促進される様な黄色い世界に見える。
不思議と俺は笑顔になってしまう。
頭ひとつ抜けて高い俺の顔を見た者がヒッとか、アッとか、小さい悲鳴を上げると足早に立ち去る。
急いでたのかな?と思い首を捻ると、さっきまで賑わっていた、自分の家の周りの人に、穴が空いた。
あ、また…やっちゃった。
ここまで露骨なら、流石に鈍感な俺も理解する。
今日は10月13日金曜日の、ある事件を祝して、ロンドンでは祭りぐらいに人に賑わう。
何でも仮面を被ったおじさんが子供たちにお菓子を配って回っていた日らしい。
何とも和やかな良い日さ。
周りを仕切に確認しながら街を歩いていると、突然おじさんに声をかけられる。
「お!キミはジャック君じゃないか、」
「あレイおじさん!いつもお店をご利用頂きありがとうございます。」
細長い体を一本の線のように縮こめて、
手のひらをへそ下あたりで交差させ、目を閉じてかしこまる。
「そんな改まんなくていいんだよ、ジャックくんの所は、私の娘も気に入ってるんだから。」
「ハハハ…ありがとうございます。」
「ヒッ!おおっと、外出の邪魔してすまない
また娘のプレゼントお願いするよ、
それでは。」
帽子をあげてその柔らかそうなふわふわの髪の毛に、前頭からツルツルの頭皮で分かれ、見える優しそうな笑顔でまた歩き出した。
あの悲鳴は何だったんだろう…な…
「あジャック!助けてー」
公園の方からそう俺を呼ぶ子供の声が聞こえた、俺に助けを呼ぶほどの大事、嫌な想像が頭をよぎったが、
最速であらゆる障害を飛び越えて走った。
風で髪が乱れて、顔面の気迫から目を光らせている様に見えた。
「ハーハーハーハー、ど...どうした。」
ジャックがつくと子供達が木の周りに立って、助けを呼んでいた。
「ジャック!風船が撮れなくなっちゃったの。」
「え、風船か何だ..よかった。…うん取るよ、でもちょっと待ってね、急いだら疲れちゃって。」
子供の目線まで体をかがめて、言葉を詰まらせながらも胸が上下するほど深呼吸をする。
「うん!疲れちゃったの?」
子供は無邪気に俺の体を突いたり、
水を汲んできてくれたり、汗を拭いてもくれる。
「いや〜久しぶりに走ったからね、
もう大丈夫だよ。」
立ち上がった俺は木を見上げ風船の場所を確認する。声をヨッと声を出して風船を取る。
「はい、ちゃんと次は離さないように持っておくんだよ。」
優しい笑顔を浮かべて風船を手渡した。
「ありがとうねジャック!」
子供は何も気にせずに手を振り、またあぶなげな足取りで走っていった。
俺はある行きつけの商店に向かう、いつも笑顔が素敵で、勝手に俺の笑顔の師匠でもある店番のお姉さんがいる商店。
「いらっしゃい、ジャックさん!。」
「また来ました、今日は酸味の強いりんごはありますか。」
「酸味の強いりんごですか?ならこのりんごなんていかがですか。」
要望を言われたお姉さんは何個かのリンゴを鼻で確認すると、
一つ艶もある良い色のりんごを手渡してきた。
自分もりんごの匂いを嗅ぐと、少し甘味の中に良い感じの酸っぱい匂い。
「コレにします。」
「料理用ですか?」
お金を渡すと同じようなりんごを二つ持ってきて、袋に入れながら話す。
「はい今日は自炊にしようと思いまして。」
「いつも買ってる、パンとベーコンでは栄養が偏りますからね!」
と言いながら素敵な笑顔でイタズラに舌を出して、器用にウィンクまでする。
師匠レベルになると、そんなことができてしまうのかと驚きが先行して、お釣りを貰う手が動かない。
目を見て困惑していたけど、テキパキと手を握られて、おつりを包まれる。
「……アッありがとうございます。」
「はい!またお越しくださいね。」
と俺はこの会話を楽しんで、今日1日の経験を持ち家に帰る。
鏡に映る、笑顔はまだぎこちなかった。
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