第9話 番いのベア


 ジャックが縁無しの眼鏡をかけて、椅子に軽く腰を下ろす程度に腰掛け、足を下の方で組んで優しく小さく微笑んでいる。

まるで優雅に見えるが、ジャックの巨体の体でも目につく、大きな手が目で追えないほどの速度で動いて、直前に見せていた道具から考えられる縫い物をしている、


少し長い時間ジャックの身の回りに集中してると、目の前にある毛糸のボールが段々と小さくなって、脚の上から垂れている布もだんだんと短く変化している事に気づく、

そして少し光ったかと思えば、ジャックの手に新しいぬいぐるみが誕生する。


動物や乗り物の形になってきて、その全ての頭の上には紐が伸びていて輪っかになっていた、まるで何かに引っ掛けるように作られたぬいぐるみ。


「ジャック先生、僕も手伝いますよ。このぬいぐるみってなんの為のものなんですか?」


「装飾用だよリボンにでも引っ掛ければどこでもつけることができるし、式の最後には持っていっても良い、配る用のぬいぐるみもあるよ。」

手を打ちつけて納得すると手伝っていた手を止めて、椅子を立ち上がってこう言った。


「なら好きなものとか聞いてきますか?」


「みんなの好きなものがわからなかったから今は何となく、壁に描かれてるものから作ってるんだけど、聞くのはちょっと待って…これからだから。」


今にも行動に走りそうだったグウェンの腕を抑えて止めると、意味ありげにジャックが指を口に当てて微笑んで見せた。


ただの一枚の布と一本の糸が真心のこもったジャックの手で織りなされて、装飾用のぬいぐるみが、一つ一つと生まれていく、

それと共に最初は数人しか集まっていなかった周りに子供が一人一人、外遊びにふけていた日常ではあまり見ない裁縫の物珍しさから子供が増えてきて、だんだん大人数になって、ついに全員をまとめ上げ、


会場の中心にあった木製の大きな円形のテーブルを囲んで、裁縫の教室になっていった。


「先生ー!電車ってどうやって作るの?」

「ウサギの耳が折れちゃうの真っ直ぐにしたーい!」

「ねーね〜先生見て〜 長いパンできたよ。」

ジャックは一人一人の声や手を上げた場所に走って向かい、明らかに無理をしていた。


「ハーイちょっと待ってね、裏地を長方形になる様に縫ってその後に裏返せば綺麗な形になるよ、

ウサギの耳はワタをもっと詰めるか、針金を入れちゃうとかしてみる?、

わー美味しそうなフランスパンだー、え?長い食パンなの?いややっぱ美味しそうな食パンだったー。」

途中から裁縫もする暇もないぐらい、ずっと走り続けているのに、疲れた顔なんて子供たちに見せずに、子供たちの阿鼻叫喚の中、声を逃さずに正確に聞き取り、子供一人一人反応や話し方を変えて、優しく寄り添った言葉をかけている。


「先生ーキノピオの目が伸びちゃったー!」

「目は、一旦後ろの糸を切って、もう何度でもやれるよ!、目を切っちゃて!」


ジャックが子供に向かって、その瞬間だけを聞けば誤解されそうな、物騒な言葉を言ったと理解して苦笑いをした直後、ドアが大きな音を立てて開かれる。


家族の人がやっと帰ってきたのかと、その場にいたみんな振り返って目を揃えたが、


「キャー〜不審者よー!ジェームズさん!、

警察さん!!」

子供の人数の倍以上にいる大人数の中から、少し太っちょのお母さんとメガネをかけたお母さんが叫ぶ。


それと同時くらいに、肥満気味ではあるが筋肉質で薄手の警官の服装をした、どこか見覚えのある大男が、飛び込んできて取り押さえられる。


「動くな不審者!ロンドン市警のジェームズハートだ。私の娘もいる会場に侵入するとは…ってアレ!?ジャッ、ジャック?。」


ジャックの想像通り、光がついているのに異様な静けさに不信感を持った親が、屋敷の中を覗き子供が見えない事でより不安になって、その瞬間の言葉を聞いた親が一緒にいた警察官の人におねがいしたそうだ。


「本当にすいませんまさか、ぬいぐるみ屋のジャックさんだとは思わなくて、」


平謝りしているジェームズさんから説明されて、ジェームズさんの証言んで、親御さんの誤解も解けてくれた様だった。


それでも警戒はされていたが、しばらくして自分の子供たちから、必死に訴えられて、本当に申し訳なさそうに謝られた。


「いえいえ大丈夫ですよ、ジェームズさんの所にはご贔屓にしていただいていますから、皆さんも、もちろん気にしないでください。」


その後は楽しい式が進んでいき、ご馳走や屋敷全体を使った立派なショーが開かれた、

その度に謝罪にくる親御さんが絶えず回り続けて、むしろ催し物をしっかりと楽しめなかった。



式も佳境を抜けて、わざと人目につかない落ち着いたところ、柱の裏の窓に逃げる様に座っているとおれから見て柱の背後から、グウェンが現れた。


「先生すみません、色々と迷惑をかけてしまって、」


取り押さえられた時から、まだズキズキと痛む、手首に付けられた包帯をもう片手をさする。

「もう大丈夫だよ、こんなにピンピンしてるしぬいぐるみだって人数分完成させたでしょ。」


最初はショーケースを外から眺めているだけの子供だったのに、今では自分から声をかけてこんな配慮までできて、と今日1日はなんだか多い、感慨深く思い事を考えて、


そしてジャックが懐に手を入れると、

手渡される拳代の大きさのグウェンの作っていたテディベアとは対称のテディベア、まつ毛の長い桜色のテディベア。


本当なんだ、子供の成長は早いって言うけど、

ほんっとうに本当に優しく育ったな。


「ジャック先生その…僕たち二人で色々と考えてみたんですけど、まださっぱりわからないことがあって、」

グウェンは顔を赤てかなり恥ずかしそうに、質問する。




「赤ちゃんってどこから来るんですか?」

「ほんっとうに早いな!!

…そう言うのはゆっくりね、

ゆっくり大人になるにつれて、

知ってけば良いから。」


二人は笑い合って、

軽く拳をぶつけ合った。


コレが年齢とか容姿とか関係ない関係、

ジャック・ザ・ニパーにとって初めて感じた

純粋な友情だった。

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孤独な切り裂き魔 (アックマ) @akkuma

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